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目次 目次Part61つ目(≫45~57) 2つ目(≫118~123) 3つ目(≫157~159) 4つ目(≫178~193) Part71つ目(≫38) 2つ目(≫101~105) 3つ目(≫128~129) 4つ目(≫151~152、≫154) 5つ目(≫170~173) Part81つ目(≫39) 2つ目(≫45~47) 3つ目(≫116~124) Part91つ目(≫22~34) 2つ目(≫47~53) 3つ目(≫117~132) 4つ目(≫164~173) Part10その1(≫154~159、161) その2(≫189~192) Part6 1つ目(≫45~57) SS筆者22/02/04(金) 22 25 33 コイツに弁当を差し入れるようになって、2か月くらい。 毎朝必死に献立を考えるけど、毎回綺麗に食べられてる。 嫌いな食べ物なんて意外と思いつかないもので、こうもきれいに食べられると考えるほうが難しい。 いっそのこと冷凍食品だけ詰め込んだやつとか……?でも、鳥のつくねとかお肉巻いたフライドポテトなんて私だって好きだ。 今日も今日とて、葦毛のヒーロー様はパクパクおいしそうにお弁当にお箸をのばしてる。 「今日のサラダ、ドレッシングが食べたことない風味だ。これはなんて……いうものなんだろうか」 そう言いながらこちらをちらっと見る。直接聞かれない感じが、まだ警戒されてるみたい。 「私のお手製です。ありがとうございます」 「そうだったのか!手作りでもおいしいドレッシングができるものなんだな……」 感心しながらパクついてる。気に入らないやつからでも、褒められるのはやぶさかじゃない。耳が動く。 どの食材で嫌な反応するかな、とかじっと観察するけど、まるでいい反応がない。 「あ、その、どうしたんだ?顔に何かついているだろうか」 「あ、すみません。何でもないんです」 ウンともスンとも、黙っておいしそうに口に料理を運んでいく。いくら旬の時期とはいえ、白アスパラなんてそんなパクパク食べれるもんなの? ちょっとやるには早いけど、直接聞いてみるか。 「オグリさんって、小さいころ苦手だった料理とかってありましたか」 「むん?」 口いっぱいに詰め込んだ料理を一生懸命噛んで、ごくんと音を鳴らしながら飲み込む。 「苦手な料理か……うーん……」 決して短くない時間をかけて考え込んでいる。 「……特にないかもしれない。子供の時お母さんに作ってもらって、大事にとっておいたおにぎりを食べた時はお腹を壊してしまったから、嫌いというか苦手だが……」 ウソでしょ。そんなエピソード普通ある? 「……うん、やっぱり食べられないものは無いかもしれない。食べたことないものもたくさんあるから、その中にあるかもしれないが」 そういいながら、オグリがまたお弁当に視線を戻す。 思わず頭の後ろをかく。困った。 アンタが食べたことないもの、多分この学園の誰も食べたことないって。そんなもの作れないし…… 私が考え込むうちにオグリはもう手を合わせて、ごちそうさまを済ませている。 「ありがとう。今日も美味しいお弁当だった。これでお昼まで頑張れる」 「あ、いえ。頑張ってください」 自分でもイマイチ噛み合ってない返事だと思う。 しまった。ボロを出しちゃいけない。 お弁当を受け取って、風呂敷に包みなおす。 バッグに入れてその場を去ろうと身支度をしているときに、オグリからおずおずとした様子で声をかけられた。 「君は、今日の放課後は空いているだろうか」 「あ、ええ、はい。集団指導はありますけど」 「ああ、まだトレーナーがついていないんだな」 何、イヤミ?カチンと来たけど、その余波が顔まで来ないよう頑張ってこらえる。 「そうしたら、今日は私と一緒にトレーニングをしないか」 全く想像していない方向のお誘いが来た。一瞬、考えが追いつかなくなる。 「え、オグリさんはトレーナーさんとじゃないんですか」 皮肉のつもりでイヤミを返す。 「実は、私のトレーナーに君のことを話したことがあるんだ。それで、一緒にトレーニングに誘ってみたらと言われて」 「え、別にそんな、大丈夫ですよ」 「今日のお昼までに私のトレーナーに連絡して、君の担当教官には伝えてもらう。よかったら、どうだ?」 今日はプールでスタミナトレーニングなんだが、と付け加えられた。 誘いを受けるかどうか、よく考える。 コイツの走りが凄まじいことは、もうトレセン学園中に知れ渡ってる。 G1レースこそまだ出ていないけど、無茶気味なスケジュールで重賞を4連勝中。 こっちが心配になるレベルで実績を積み重ねてる。距離も馬場もブレがあるけれど、構わず勝つ。 『オグリキャップは強い』というのが一律の評価だ。 考えれば考えるほど、天然なのも合わせて頭に来る。 でも、この誘い、受けちゃおうか。 もしも練習中にうっかり、ちょっとでも先行することができたら自慢できる。 「わかりました、そしたら今日の夕方、お願いします。水着、用意してきますね。」 胸を張って答える。 いくら重賞ウィナーだからって、そんなに恐れることは無い。 オープン戦も怪しい私だけど、トレーニングの条件ならどこかで追い抜けるかもしれない。 それに何か盗めるものがあったら、こっそりと頂いてしまおう。 みんなのヒーロー様がそこはかとなく嬉しそうな顔をする。 今のうちに、せいぜい笑ってなさい。 ふふふ、その鼻っ面、へし折ってやるわ! そう思っていたのは、大間違いだった。 まあ、ウォームアップの時点から違うだろうなあ、とぼんやり思っていた。 実際のところ、違った。 集団指導の2倍以上の時間を使って、じっくりアップ。 こんなのんびり柔軟してていいの?っていうくらい、じっくり時間をかけて身体を温める。 知らなかったけど、ヒーロー様は身体が信じられないくらい柔らかかった。 『君は身体が堅いんだな』とか、またしれっと言われた。ムカつく。 そのあと、背泳ぎの指示。 集団指導では泳ぎの苦手な子も少なくないから、いわゆる四泳法は避けることが多い。 私もトレセン学園に来て以来、すっかりやっていなかった。 まだ始まったばっかだし、4,5周くらいかな、と思った矢先。 「ペースは問わねえ。二人とも、ひとまず10周行ってこい。」 思わず、えっ、と口から驚きの声が出てしまう。ここ50mですけど。 隣のヤツは『ああ』とかサッと返事してるし。 私がモタモタしてるうちに、隣の葦毛は飛び込んで――いなかった。 回れ右をして、ビート板を取りに行っていた。思わずずっこける。 葦毛様が何故かビート板を2つ抱えてきて、聞かれる。 「君も使うか?」 「いや、大丈夫です……」 そうか、泳ぎが得意なんだな、とか言って、プールに脚からゆっくり入っていく。 コイツ、マジ?泳ぎ苦手なんだ。カワイイとこあるじゃん。 ふふふ、私の背泳ぎ、見てなさいよ! 久々にきちんと量をこなすような泳ぎをすると、しっかり疲れる。 もっと若かった時、なんて言ってもまだ若いけど、あの時よりはスピードもペースも落ちてる。 それでも、1周目の段階で隣のアイツをさっくり追い抜くことができた。 フェアじゃないけど、私のほうが泳ぎは絶対に上手い。 500m分泳いで、プールの壁に手が届く。 ふう。と息をついてアイツの姿を探すと、まだ私と反対方向に向かって泳いでいた。あのペースじゃ周回遅れだろう。 どんなもんじゃい、と得意な気持ちでプールを上がろうと上を向いたとき、不自然な視界の暗さに驚く。 アイツのトレーナーさんの顔が私の目の前に突然現れた。というより、上がろうとする私の前にあらかじめいたようなタイミングだ。 「わああ!」 あんまりに驚いて、プールの中に転ぶように沈む。 なになになに、突然!? なんとか頭を出して、トレーナーさんに噛みつく。 「ちょっと、なんですか!」 「おう友達さん、ずいぶんはやいお帰りだったな。」 速い、という言葉にちょっと気分が良くなる。 「ありがとうございます、泳ぎはちょっとだけやってましたので。」 「そうなのか。オグリはビート板がいるのになあ。やるじゃねえか。」 ふふん、そうでしょう、そうでしょう。 口角が自然に上がる。 そのまま上がろうと顔を見つめるけど、動かない。 「あの、上がれないんですけど。」 「何言ってんだ、まだ終わってないだろう。」 えっ。 「あれ、10周ですよね。」 「そうだ。まだ5周しか終わってないぞ。」 えっ? 「もう500m終わりましたよ?」 「ああ、言い方が悪かったな。行って戻ってきて1周だ。1回じゃない。」 えっ。 「そういうわけで、もう『10周』行ってきな。それ終わったらインターバルだ。」 ええっ! 「う、ウソでしょ!?」 「残念ながら大マジだ。泳ぎは上手いが、あんまり飛ばすと潰れるぞ。」 それだけ言って、ニッと笑う。 急いでスタートの姿勢を取って、出発し直す。 や、やっちゃった。体力配分ミスった…… ていうか、アイツ、いつもそんなにやってるの!? 足元から上ってくる疲労を感じながら、仰向けにプールの壁を蹴った。 「おうそこまで、一度息入れな。」 アイツのトレーナーが合図をかけて、プールから上がる。 プールサイドで、立ち上がることもままならず、へたりこむ。 プールに入っていたのに、上がったとたんに今まで体験したことない熱と汗が、私を支配していた。 しょっぱい水がおでこから口まで流れてくる。明らかに水じゃない。 いつものトレーニングだったら、先にメニューをこなしたイツメンたちとすぐに駄弁るくらいの体力は残る。 けれど、今は全身の筋肉が酸素を求めて、声に回す分は残っていなかった。 走りこみの後の呼吸ほど荒くはならないけど、重く、深く、身体に疲れがのしかかってくる。 すると、肩を誰かに叩かれる。 「ふう、イチ、お疲れ様。」 いつの間にか、後ろから葦毛サマに声をかけられる。どれくらいの時間座っていたのかもわからなかった。 「イチは泳ぎが得意なんだな。半周目でもうあっという間に抜かされてしまって、びっくりした。」 コイツ、どうして喋れるんだ?ていうか、なんで立ててるんだ? 私より遅いから、ビート板を抱いてたから、って脳の表面が理由をつけるけど、心の奥底は言い訳をするな、基礎体力の差だと反論している。 やっぱり、重賞ウィナーは強い。 重賞ウィナーじゃなくても、中央じゃなくても、地方で勝ち続けられるウマ娘は、私とレベルが違う。 始まる前と同じとはいかないけど、普通の足取りで水分補給しに行く背中を見送る。 私も立とうと思ったけど、ダメだ、太ももが上がらない。 ふう、と長く息を吐く。すると、葦毛サマが戻ってきた。 「お疲れ様。君も飲むか?」 私の分の水筒を持ってこちらに手渡す葦毛サマの顔を見上げる。 水も滴るいいウマ娘、とでも言うんだろうか。顎先がシュッと細くて、はた目から見ても格好いい。 このルックスでバリバリ勝ちまくって、でも地方出身で、勝利者インタビューで抜けてる発言をしたら、そりゃファンもできる。 悔しいけどこの『怪物』相手に、多少水泳ができる程度じゃ、まるで勝ったことにならないだろう。 素直に受け取るのもムカつくけど、今の私に抵抗するだけの余力は残ってなかった。 「ありがとうございます。すみません。」 「そんな、大丈夫だ。やっぱり、このトレーニングはやらないんだな。」 「自主練でもないと、プールまで来る子はいないですね。」 「そうか……私は泳ぎが苦手だから、このトレーニングはちょっと不安なんだが、今日は君がいてくれて楽しかったぞ。」 トレーニングが楽しいって、どういうこと。イマイチ、ピンとこなかった。 水を飲みながら休んでいると、突然後ろからトレーナーさんの声がした。 「おう、プールに戻んな。」 またしても驚いて、水筒を思わずプールに落としそうになる。 「インターバルは終わりだ。もう1セット行ってきな。」 「ええっ、まだ5分も経ってませんよ。」 「そうだ。だからいいんだよ。ほら、もう一口飲んだら行ってきな。」 はい、とオグリが水筒をぐいっとあおってから、すぐ立ち上がる。 それを見て、私ももう一口だけ水を含む。 疲れで宙に浮いたように感じる脚を何とか持ち上げて、プールに滑り落ちるように入る。 「次は時間制限をつける。一周20秒、きっちり見てるから戻って来い。」 マジで、こんなにしんどいのに。 ふっ、ふっ、と細かく息を吐きながら、ビート板を抱えたオグリがスタートした。 私もいかなきゃ。オグリに少しでも食らいつくんだ。 手を合わせて、私も仰向けにスタートした。 それからは、もう無我夢中で脚と手を動かしてた。 どんどん姿勢が曲がっていくのを感じる。すると、スピードも落ちる。 1周目で追い抜いたと思った隣の葦毛サマは、いつの間にやら私をどこかで追い抜いて、周回遅れになったのは私のほうだった。 水が跳ねて、流れる音が耳と頭いっぱいに広がる。 「ゲストだからって手は抜かねえぞ、へばんな!」 私に向けた声だろうか。私だろうな。 「もう少しだ!頑張れ!」 もう一つの声が聞こえる。 アンタに言われなくても、やってる! これで、これで最後の半周なんだ。あと、もう少し! 緊張しきったように伸ばした手が触れたのは、間違いなく、20秒をゆうに超えたあとのことだった。 「おお、よくやったな。お疲れ様。」 「キツかったろう、集団と違って。」 アイツに支えられながらプールサイドに座る。 腕も脚も、胸も背中も、全身が宙に浮いたように感じる。まるで脳の指示を受け付けなかった。 「とてもよく頑張っていたと思うぞ。凄かった。」 「いい根性してるぜ、良くついてきた。ほれ、水分補給しろ。」 水筒を受け取るけど、腕を上げるのも重労働に感じる。 仰向けに倒れこんで、重力で水が入ってくるように横着する。 「ばっかお前、寝転んで水飲んだらあぶねえだろ。オグリ、背中支えてやれ。」 トレーナーから注意が入って、葦毛サマに持ち上げられる。 また助けられちゃった。悔しい。 そんなことを伝えられるような体力は残っておらず、支えられるがまま、水を飲んだ。 その背泳ぎトレーニングの後にまだ続くのかと思いきや、そのままクールダウンの指示が出た。 『長くいろんなトレーニングをダラダラ続けても身体をいじめるだけだ、ガツンとやってさっくり休む』だそうで。 結局、そのあと自分一人で何かできるわけもなく、いろんなところで葦毛サマの手を借りる羽目になった。 何とかシャワーと着替えだけは自分で乗り切って、ロッカールームで靴下をはくために座ったら、立てなくなってしまった。 ヤバい、これ、本当に立てないやつかも。 指先がプルプル震える。脚も上がらない。 とはいえ上半身を傾けると、多分そのまま前のめりに落ちる。 結論として、靴下片手に裸足で座るっていう、銅像みたいな姿勢になってしまった。 横を通る子たちが「どうしたの」「あの子、大丈夫かな」という風に話しているのが聞こえる。 大丈夫じゃないです。誰か助けて…… どれだけ休めば動けるかな、と目だけ動かして時計を見ていたとき、葦毛サマが入ってきた。 「大丈夫か!」 パタパタと駆け寄ってくる。 待て、駆け寄るってなんだ……? 「外で待っていたんだが、出てくる人たちが皆ヒソヒソ話をしていたんだ。立てるか?」 立てないです、と小声で答える。オグリが私の靴下を手に取って、はかせてくれる。 「ハードだったな。分かるぞ。私もスタミナが課題だから、最初は本当に動けなかった。」 靴下を履かせ終わってくれたあと、私の前にしゃがみ込む。 「私が寮までおぶるから、そのまま倒れこんでくれていいぞ。」 え、ちょっと、マジで? 困る。 何がってわけじゃないけど、困る。 葦毛サマは『さあ!』と言って動きそうにない。 私自身、いつ歩けるようになるか全くわからない。 仕方ない、今回だけだ。今日だけ。 いや、今この瞬間だけ。 言われた通り、前に倒れこんだ。 背中におぶられる形で、帰路につく。 一度力を抜いてしまうと、空気が抜けた風船みたいに、元に戻らなくなってしまった。 話題の葦毛サマに背負われているせいか、周りの目がちょっと突き刺さる気がする。 私だって望んでこうなったワケじゃないんです。違うんです。 夕日というにはちょっと早い時間の太陽に照らされる。 「気分は悪くないか?」 「うん、大丈夫です……」 「敬語じゃなくて大丈夫だぞ。疲れてしまうだろう。」 あー、敬語使いたいんですよ。仲良くなりたいわけじゃないので。 もし私にもっと体力があったら、そう返していただろう。 仲良くなりたいわけじゃない、って言うのは言わないけど。 そんなことを言える度胸も気力も、体力も何も残っておらず、その時の私は、その誘いを受け入れてしまった。 「あ、じゃあ……」 「良かった。今まで、ちょっとだけ距離を感じていたんだ。」 それが私の目的なんで。 「いつも朝に話すから、今日は一緒にトレーニングできてよかった。」 「ううん、私も、気合入ったから……」 「そうか。それなら、私も嬉しい。」 「オグリさん、スゴイね。あんなの毎日やってるの?」 「いいや、今日はなんだか、トレーナーも少し気合が入っていたように見えるぞ。きっとトレーナーも嬉しかったんだろう。」 本当かどうかも分からないけど、もしそうじゃなかったとしても、十分ハードな内容だ。 そんなことを考えていた矢先、ああ、そうだ、と葦毛サマが何かを思い出す。 「オグリと呼んでくれ。せっかく敬語でなくなったから、オグリでいい。」 えっ、困る。 まあ、でも、いいか。疲れたし。 「わかったよ、オグリ。」 「それで、私は君を何と呼べばいいかな。」 げ、ヤバい。 この流れで『オグリさんが知ってるようなウマ娘じゃない』なんて言えない。体力的にも。 どうしよう。 誤魔化すのも面倒だから、いつも呼ばれてるやつでいっか。 「イチ、です。」 「イチ、か?」 「はい。皆、いつメンはイチって呼ぶんで。」 イチ、か。イチ、イチ……と独り言のようにオグリがつぶやく。 「うん、分かった。イチだな。ありがとう、イチ。」 あーあ、やっちゃった。ライン越えちゃったかも。 名前を教えてしまったことに、身体だけでなく心もぐったりする。 「これからもよろしく、イチ。」 「うん。よろしくね、オグリ。」 その返事をしたのを最後に、視界がまどろむ。 ああ、眠い。 子供のころ、いっぱい遊んで、お母さんにおぶられて帰ったあの感じに似てるからかな。 もういいや、眠っちゃえ。何も答えなくて済むし。 私はその優しい眠気に屈服して、オグリの背中で眠りに落ちた。 あの時寝てしまったのは間違いだった、とその後の数日は思っていた。 でも、今は寝てしまってよかったのかも、って思う。 私とオグリが、「初めて」出会った日の、思い出。 了 ページトップ 2つ目(≫118~123) SS筆者22/02/08(火) 22 22 03 「ただいま。」 「お帰り、オグリ。カバンちょうだい。」 「ああ。あっ、花を替えたのか?」 「うん、貰ったんだ。」 「そうか。」 「ご飯できてるから、パッとお風呂入っといで。」 「うん。分かった。」 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 「はい、いただきます。」 「いただきます。」 「ご馳走様。」 「お粗末様でした。相変わらず、口いっぱいに食べるよねえ。」 「今日も美味しかったぞ、イチ。」 「そりゃあ私が作ってるんですから、マズいなんて言わせませんよ。」 「ふふ、それもそうだな。」 「今日はどう、何か変わったこととか、なかった?」 「うん、そうだな……なんだろう。」 「なんにも思いつかない?」 「すまない……あっ、でもイチのお弁当はとても美味しかったぞ。」 「はい、キレーに食べてくださって、ありがとうございます。」 「どうしたんだ、そんな仰々しく……」 「別に、なんでも?」 「本当に美味しかったぞ?」 「ありがとって。お弁当箱、軽かったもん。」 「いつも同じ言葉になってしまっているが、本当なんだ。」 「分かってるって。ほい、お茶。」 「う、うん……」 「お代わりいるなら呼んでねえ。」 「イチも、一緒に。」 「ん?」 「一緒に、お茶を飲まないか。」 「んー、このお皿、放っておけないでしょって。」 「そ、そうか。」 「綺麗な机で飲むお茶のほうが美味しいよ。ちょっと待ってて。」 「そうだな……」 「イチ、ちょっといいか。」 「あ、お茶?ごめん……え、なんで床に座ってるの。」 「いや、違うんだ。」 「なになに、なに。」 「イチは、ご飯を食べた後にすぐに立ち上がるのは、辛くないか?」 「いや、別に。」 「私はちょっとだけ辛いぞ。」 「えっそうだったの、もう……2年くらい?だけど知らなかったわ。」 「……すまない、ウソだ。」 「だよね。びっくりした。」 「イチはご飯の後にお茶を飲まなくていいのか?」 「え?いつも飲んでるじゃん。」 「でも、いつも夕飯の後には飲んでいないじゃないか。」 「そりゃ、洗い物済ませたいし……」 「それも、そうか……」 「そうだよ。」 「イチ、その。」 「うん、どうしたの立ち上がって。……なんか背伸びた?」 「今日の洗い物は私に任せてほしいんだ。」 「なに、いったいどういう風の吹き回し?」 「イチは向こうで座っていてくれ。ほら。」 「えっちょっと、ちょっと。」 「私のお茶、飲んでいていいからな。」 「いや、そんなワケにはいかないって。」 「私がイイというまで、こちらに来てはいけないからな。」 「ちょっと、オグリ!」 「覗き見るのもダメだぞ、イチ。」 「ツル娘かって!」 「ねえ、オグリ~?」 「オグリ?」 「大丈夫?」 「私の湯飲み、取りたいんだけど……」 「オグリ、開けるよ?」 「……オグリ?水道は止めながらにしてよ?」 「あ~……開けるからね?」 「わっ、何これ!」 「イ、イチ……泡が……」 「マンガじゃないんだから、どうしたの!」 「最近の洗剤は、とても泡立つんだな……」 「最近のじゃなくても出しすぎ!もー。」 「すまない……」 「あーあー、なんつー……ゲッ、どうしてお茶碗が床にあるの。」 「水切りカゴがいっぱいになってしまって……」 「小さいのから洗えば上に被せていけるのに。」 「そ、そうなのか。」 「あー、お鍋の裏擦ってないでしょこれー。」 「あっ、洗うものなのか?」 「まあ洗わない人もいると思うけど、私はたわしで擦ってるの。」 「そうだったのか……」 「ハイ、交代。ここからは私がやるから。」 「うう、すまない……」 「分かってるから。耳倒さないの。サンキューね。」 「さー、この泡どうしましょうかね。」 「わざとではないんだ、イチ。」 「知ってる。アンタが一番頑張ってるんだから、夜くらい休みなって。」 「でも、イチは一日中台所やキッチンに立っているじゃないか。」 「そうねえ。」 「今日くらいは座っていてほしかったんだ、が……」 「私が立ちたくて立ってるんだから、ヘーキ。そんなこと言ったら、アンタも一日走りっぱなしでしょ。」 「私は……うん、すまない。」 「レースとか、最近はタレント業もこなれてきたのに、本音を言うのは相変わらずヘタだよね、オグリ。」 「なっ……!うん……」 「カワイイよ、オグリ。な~んて……ちょっ!」 「ちょっとアンタ、ジャマだって。」 「イチは洗い物を進めててくれっ。」 「アンタがこんなにしたんでしょ!」 「イチが終わるあいだ、こうする。」 「ねーちょっと、尻尾!尻尾まで絡めるな!」 「イチも絡めていいんだぞ。ほら。」 「も~……お茶、冷めちゃうよ。」 「いいんだ。イチが淹れ直してくれるから。」 「『とびつき』には淹れてあげません。」 「むっ、イチ、よく知っているな。」 「え、とびつきはとびつきでしょ。」 「そういえば聞いたことなかったな。イチの出身はどこなんだ?」 「話したことなかったっけ。私の地元はね……」 了 ページトップ 3つ目(≫157~159) SS筆者22/02/11(金) 22 58 13 台所に近づくと、カレー粉のいい香りが漂う。 「あ、カレーの準備されてたんですか。」 「分かっちゃった?でも、カレーじゃないのよ。」 あてが外れて、台所の様子をさっと観察する。 ネットを替えたばかりの三角コーナーには、山盛りのにんじんの皮しかまとめられていない。 そのとなりには、ボウルに貼られた水に入っているごぼう。 コンロの上にはそこの深いフライパンが置いてある。きっと、これまでオグリのお腹を満たしてきたベテラン戦士さんなのだろう。 台所の中央には細く切り揃えられたにんじんが、白いまな板の上で輝いている。 その奥に用意されている、カレー粉、白ごま、ごま油に、鷹の爪…… 全部見て、ピンときた。 「あ、もしかして。」 「もしかして?」 「きんぴらごぼうですか。カレー味の。」 お義母様の顔がぱあっと明るくなる。 「すごい!さすが、聞いていた通り、いいカンしてるのね。」 当たったみたいだ。思わず私も笑ってしまう。 「あ、ありがとうございます。」 「もう後は合わせて炒めるだけなんだけど、やってもらえる?」 「はい、任せてください。」 お義母様に促されて、コンロの前に立つ。 あ、忘れ物。 「あの、エプロンとかって。」 「あら、ありがとう。でも、いいのよ。誰も気にしないんだから。」 そういうものか。 ちょっと気後れしつつも、わかりました、と返事をしてコンロに火をつける。 パチッ、と心地よい音を立てて、火が灯る。 さ、覚悟してなさいよアンタたち。 今からまとめて調理してやるんだから。 熱を加えているフライパンに、ごま油を垂らす。 すぐ暖まっちゃうから、キッチンばさみを借りて素早く鷹の爪を切る。 種を取り除いて、一本の鷹の爪が、輪の形をした飾りになる。 それをあったまったごま油に加えて、香りを移す。 ふわっと、ごま油のいい香りが立ち上ってくる。 うん、おいしそう。 「ごま油って美味しいわよねえ。」 「わっ、すみません。」 「ふふふ、分かるわよ。ごま油、美味しいものねえ。」 思わず口からしゃべってしまっていたらしい。 顔が思わず赤くなる。 私の顔に負けないくらい赤いだろう、お義母様の切ってくださったにんじんをまな板から滑り落す。 きんぴら用とは思えぬ量だ。やっぱり、いつものお弁当ももっと増やしてあげたらよかったかな。 木べらで油と絡めてやりながら、時たまフライパンを振って炒める。 軽く熱が加わったら、借りたザルでごぼうの水気を切る。 こっちも、オグリの家だけあってすごい量。 ザルをフライパンの上に持ってきてひっくり返して、ごぼうをにんじんの上に移す。 ザルに残ったのももったいないので、手で拾ってやる。 「あとからごぼうを炒めるのね。」 「あ、すみません。」 「いやいや、別に責めてるとかじゃないのよ。ただ、変わってるな~って。」 「こうするとごぼうの食感と香りが残りやすいんです。全部クタクタになるきんぴらも美味しいんですけど、カレー味にするから触感が楽しいほうが いいかな、って。」 「う~んなるほど、勉強になるわねえ。」 う~、やっちゃったかな。 でもやってしまったからしょうがない。流れに乗って、お義母様に聞く。 「めんつゆとかって、ありますか。」 「ああ、あるわよ。はい。」 麺つゆを受け取って、薄めずにそのまま、少しだけ垂らす。 もう少しだけ食感が柔らかくなってからのほうが、カレー粉は美味しくなるかな…… 気持ちしんなりしたところに、カレー粉をかける。 それも全体に行きわたるように絡めて、出来上がり。 「どうでしょうか。」 お義母様に声をかける。 菜箸でつまんで、お義母様が味見をする。 シャキ、といい音が一つ。 頬に手を当てて、目を閉じて咀嚼している。 なんか、ヘタな試験とか、テキトーな模擬レースとか、オグリと夜通し喋った時より緊張するな、コレ。 マズい、ってことは無いはず。とドキドキしながらお義母様の反応を見る。 「ん~、おいしい!にんじんを先に入れるとこうなるのね。」 やった! 「ありがとうございます、嬉しいです。」 「さっそくあの子に出しておきましょ、これならすぐに無くなるなんてことは無いはずだから。」 まずこれまでのきんぴらごぼうが盛られたことがないであろう大皿に、盛り付ける。 オグリも、おいしいって言ってくれるかな。 私とお義母様の料理なんだもの、そういうに決まってる。 すぐ後ろにいるオグリの顔を想像しながら、仕上げの白ごまを軽く振った。 了 ページトップ 4つ目(≫178~193) SS筆者22/02/14(月) 00 05 20 2月14日。 いつもと同じように、小鳥のさえずりと一緒に目が覚める。 ぐーっと伸びをしながら、バレンタインデーだなあとぼんやり考える。 世では、チョコレートを贈り合う日ということになっている。 まあ、女子のほうが多いこの学園でも、この日が近づくにつれて色めきだつ子が増える。 やれトレーナーに贈るだの、やれ憧れの先輩やら先生に贈るだの、やれ学園の外に好きな人がいるだの、なんだの。 うちのトレーナーとはそういう感じでもないから、私は別にそういうのは無いんだけど、他の子たちは本当にガヤガヤしている。 トレーナーじゃなくても、別にそういうのは無い。はず。 イツメンには友チョコ渡すし、トレーナーにはお世話になってるからチョコ贈るけど。 試しに部屋を出て寮長室の前を見かけてみると、もうチョコの丘。 一体いつ置いていったのかと疑問に思う量だ。誰かとすれ違ってはいないから、まさか深夜に? 熱心なことだなあ、と上から目線で感心する。 あの丘が山になって、それから火山になって噴火して、大陸になるまでそんな時間はかからない。 今日は寮に帰ってくる時間、遅らせよう。どうせすぐ入れるようにはならないし…… 寮長室から自分の部屋に戻る途中、オグリの部屋がちらっと目に入る。 ドアの前には、青や赤や白、黄色のラッピングをされた箱が、丁寧にドアの横によけてあった。 朝起き出したオグリが部屋を出た後に揃えたんだろう。 フジ寮長ほどじゃないけど、でもよく目立つくらいには量がある。 よしておけばいいのに、脚が勝手ドアの前まで身体を運ぶ。 屈んで箱を見てみると、『オグリ先輩へ』とか『タマモ先輩へ』とかのカードに加えて、便箋まで挟んであるものもあった。 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだけど、ムッとする。 ま、葦毛の子はモテるし……私には、何の関係もないことだし。 アイツは群を抜いて顔もスタイルもいいし、レースは強くて格好いいし。 そのくせダンスはちょっとだけ不慣れで、まあ最近は良くなってキマってきてるけど、スキのある感じがかわいいし。 喋らせてみたらイマイチ噛み合わないのが面白いし、健啖家で食べ物渡したらなんでも受け取るし。食べるし。 愛想もいいし、頑張る姿はひたむきだし…… 頭がもやもやしてきて、かぶりを振って立ち上がる。 別に、私には、アイツがチョコを貰おうと、何の関係も、ないし。 私は特別な日に1回だけ差し入れてるわけじゃないし。 今日だって、そのつもりで早起きしたんだから。 でもアイツのことだから、きっとちゃんと全部読んで、全部美味しく食べるんだろう。 そう思うと、なんでもいいはずなのに、どんどんムキになってきた。 寒いはずの廊下が、だんだんと気にならなくなってくる。 アイツ、朝トレ行く前にこれ見た時、笑顔になったのかな。 急ぐ必要のある時間でもないのに、ちょっと早足で、キッチンに向かった。 「クリークさん!おはようございます!」 「あ、あら、おはようござい……ます?」 勢いよくキッチンのドアを開けて、いつも通り先にお弁当を作っていたクリークさんに挨拶する。 クリークさんが私を頭から足先まで見て、首をかしげる。 「イチちゃん、エプロン忘れてますよ?」 「えっ。」 あ、しまった。 ここに来る前に部屋に寄るはずだったのに、なぜか頭から抜け落ちてた。 部屋に一度戻ろうとする振り返ると、後ろからクリークさんが呼びかけた。 「確かもう一着ありますから、使っていいですよ。」 クリークさんがキッチンの収納から予備のエプロンを取り出しながら、声をかけてくれた。 「すみません。忘れてました。」 「いえいえ。あっ。」 何かに気付いたように声を上げると、エプロンを持ったまま、クリークさんが鞄に向かって屈んだ。 こちらに向き直って、エプロンをこちらに差し出す。 綺麗にたたまれたエプロンは、ちょっと中央が盛り上がっているように見える。 口元が、いたずらっぽく笑っている。こういうところが本当にかわいらしい人だ。 「どうぞ、イチちゃん。」 「あ、クリークさん、さては。」 エプロンを受け取って、折り畳まれた端をちょっと持ち上げる。 綺麗にラッピングされた、手のひらサイズの小さい箱がそこには入っていた。 「ハッピーバレンタイン、です。」 「わ、ありがとうございます。カワイイ。」 一体いつの間にこんなきれいなのを仕込んでいたんだろう。 「あっ。」 「どうしましたか?」 「すみません、私、チョコ、部屋に忘れてきちゃって……」 「あら、用意してくれたんですか?」 「もちろんですよ!準備が間に合わなくて、既製品なんですけど……」 あ~~~もう。なんでこんな時に限って大ポカしちゃうかな。 「ルームメイトのタイシンさんの分まで用意したんです。」 「わ、本当ですか。放課後でも大丈夫ですよ。私も放課後に渡す子、いっぱいいますから。」 すみません、と頭を下げて、受け取ったエプロンを着る。 青い線が斜めに入った白地のエプロン。汚れが目立っちゃう珍しい色合いだけど、水の流れのようで素敵だ。 クリークさんのチョコも嬉しいけど、それだけで喜んでいられない。 お腹を空かせて戻ってくるアイツに、食べさせてやらないといけないんだから。 袖をまくって、短く息を吐く。 ふーっ、と気合を入れていると、クリークさんが不思議そうに首をかしげている。 「イチちゃん、今日はなんだかすごい気迫ですね。」 指摘されてギクッとする。ごまかすために、両方の肘を手で擦る。 「あ、いや、その。腕捲ったけどちょっと寒いな~って。」 我ながら、なんてわざとらしい。 少しの間、勘ぐるように私の顔を見ていたクリークさんが、何かひらめいたように表情を変えた。 クリークさんが、捲った私の袖と肘を両手で掴んで、真っすぐ目を見てくる。 「イチちゃん、私に何かお手伝いできること、ありますか?」 「え、どうしたんですかクリークさん。気合すごいですよ。」 「いいえ。でも何だか、お手伝いしたくなってしまって。」 どうして、逆にお願いされてるような感じになっているんだろう? 面倒見スイッチが入ったクリークさんは、こうなるとタダではひいてくれない。 こうなったら、ヤケだ。 「クリークさん。」 「はい。何をすればいいですか?」 「お肉の、美味しいおかず。教えてください。」 私のお願いを聞いたクリークさんが、きょとんとした顔をする。 「お肉のおかず、ですか?」 「はい。お弁当用じゃなくても、美味しい、白いご飯に合うような、お肉のおかずです。」 クリークさんはしばらく目をぱちくりさせながら、私の顔を見ている。 また少しの間をおいて、脳内で何かを検索し終わったようなクリークさんが、目をキラキラさせて私の手を取る。 「分かりましたイチちゃん、任せてください。」 「ありがとうございます。よろしくお願いします。」 こういう時のクリークさんは、本当に、頼りになる。 「そしたらイチちゃん、料理酒とおしょう油、みりんに、小麦粉を用意してもらえますか。」 はい、と返事して言われた調味料類を取り出す。 ここは私たち二人の領地だ。どこに何があるのかは、把握している。 用意し終わってクリークさんのほうを振り返る。 冷蔵庫を覗き込んでいたクリークさんが、トレイの上に食材を並べて戻ってきた。 玉ねぎ、チューブのしょうがに、豚肉。 「これは……ロースですか?」 「そうです。本当はちょっと豪華なカレーの時のために用意しておいたんですが、今使っちゃいましょう。」 心なしか、クリークさんの声がうきうきしているような気がする。 これって、もしかして。 「豚の生姜焼きです。そしたら、まずは玉ねぎを刻んでもらえますか。」 やっぱり。 でも、今から? 疑問に思ったけど、言われた通り、玉ねぎに手をかける。 皮を剥いて、軽く洗って、包丁で切っていく。 トントントン、と小気味よい――切ってるのは私だから手前味噌なんだけど――包丁の音がキッチンに響く。 切りながら、クリークさんに質問する。 「豚の生姜焼きなんて、今から作って間に合うんですか?」 「間に合う、というと?」 「普通、生姜焼きってお肉を前日から付け込まないと味が滲みなくて美味しくないって言うじゃないですか。」 「実は、そうじゃないんです。」 「えっ。」 隣で調味料を混ぜて、味をみているクリークさんが答えてくれる。 「お店で売られているロース肉って、薄いことが多いんです。」 「はい。」 「お肉は塩分を吸わせると、水分が抜けて硬くなってしまうんです。」 「あ、あれですよね。『コショウは早めに、塩は焼く直前に』っていうステーキの。」 「そうです。だから、タレにあらかじめ付け込んでしまうと硬くなってしまうんですよ。」 なるほど、言う通りだ。 「でも、薄いお肉で味をつけずに焼いたら、味も薄くなっちゃいませんか。」 「そこで、これです。」 待ってましたと言わんばかりに、クリークさんが小麦粉を手に取る。 「これでうまみを閉じ込めて焼くんです。美味しいですよ。」 そう言ってパットに小麦粉をあけて、慣れた手つきでお肉にまぶしていく。 家庭料理の知識だったら、クリークさんに勝てる人なんて誰もいないんじゃないだろうか。 さながら、お料理界の「若き天才」だ。 うーん、本当に、頼りになる。 玉ねぎも切り終わって、コンロの前に立つ。 油を出し忘れた、と思って屈むと、クリークさんに肩を触れられる。 「イチちゃん。大丈夫。」 「えっ?」 「ノンオイルです。」 えっ!? 「えっ!?」 「この方法では、油は使いません。」 「でも、炒めるんですよね?」 「はい。でも、ノンオイルです。」 硬い表情で諭される。ウソでしょ…… でも、クリークさんに限って間違うなんてことはない。半信半疑だけど、諦めて立ち上がる。 コンロに火をつけて、お肉を並べた。うわー、不安。 「お肉焼き色がつくまで、炒めてくださいね。」 「ちゃんと炒めきらないんですか?」 「はい。そこで玉ねぎと合わせタレを入れます。」 す、すごい。私の知ってる生姜焼きと全然違う。 それでも、言われた通り。頼んでるのはこっちだし。 じゅう、とお肉の焼けるいい音がする。おいしそう。 かなり心配していたけど、意外とお肉がフライパンにくっつかない。 少し経って焼き色がついたら、指示通りに玉ねぎとタレを加える。 ちょっとゆすりながら菜箸で全体をからめるように炒めていくと、だんだん、とろみがついてきた。 「わ、何これ。」 「とろみが出てきましたね。もうちょっと炒めたら、もう大丈夫ですよ。」 すごい。朝ごはんとかお弁当にピッタリな短時間の調理だ。 小麦粉こそ必要だけど、とてもコンパクトに生姜焼きができる。 出来上がり。とってもいい香りだ。 「味見してもいいですか。」 「どうぞ、召し上がれ。」 ニコニコの笑顔でクリークさんが答える。 菜箸のまま、玉ねぎとお肉をつまんで、一口。 わっ! 「わっ!」 私の反応に、クリークさんが嬉しそうにしている。 「すごい、すごいですよこれ!」 「おいしいですよね~。」 「甘い!柔らかい!小麦粉のとろみと豚ロースの脂が、すごい!」 小麦粉に閉じ込められた豚肉の脂の甘味が、玉ねぎの甘味に負けず残っている。 玉ねぎもクタクタになった脇役状態じゃなくて、シャキシャキ感が残っている。準主役級だ。 本当においしい。 あんまりおいしくて、びっくりしてしまった。 今まで『焼肉はお肉じゃなくて、タレとかソースが一番おいしいんじゃない』とか、ひねくれていた自分の常識を大差で追い抜いて行った。 お肉に美味しさがあるんだ、って常識を再発見した気分。ウイニングライブ踊ってもらわなきゃ。 「すごい!うわ、ご飯食べたい。」 「ふふ、そう思ってちょっと分量多めにしてたんですよ?私も今日はこれにします。」 スキップでもしそうな足取りで、二人分の食器をクリークさんが取りに行く。 お弁当に付け合わせのお野菜と一緒に詰めて、自分たちの分を取り分ける。 ご飯をよそって、お味噌汁に乾燥野菜をふやかして、クリークさんと朝ごはん。 「いただきます。」 「いただきます。イチちゃんが美味しく作れて、良かったです。」 「クリークさん、すごいですね。どこでこういうの覚えるんですか?」 「教えてもらったり、テレビで見たり、雑誌で読んだりです。自分で見つけたわけじゃないんですよ。」 それでも、すごいものはすごい。 生姜焼きにおいしい、おいしいと舌鼓を打っていると、ところで、とクリークさんが聞いてきた。 「どうして今日突然、お肉料理を?」 「へ?」 「いつもはお野菜中心で、今までお肉料理ってなかったと思うんです……」 うーん、とクリークさんが考え込む仕草をする。 「うん、やっぱり朝にイチちゃんのお肉料理、見たことなかった気がします。」 「えー、なんででしょうね?」 適当に誤魔化してみる。お願い、見過ごして。 「オグリちゃんへのお弁当ですよね?」 ぐっ、と生姜焼きが喉につまりかける。とろみのおかげで流れていった。 「や、まあ。そうなんですけど。」 「何かあったんですか?あ、まさか、喧嘩してしまったとか?」 クリークさんが口に手を当てて、悲しそうな顔をする。 「いや、そういうわけではないんです。」 「ダメですよ、ちゃんと仲直りしないと。」 なんと答えたものか。 苦し紛れに、返事する。 「……今日はバレンタインデーだから、とか?」 私の言葉がどうもうまく結びつかない様子のクリークさんが、目をぱちくりさせる。 「ほら、チョコレートの甘さってもう飽きるほど食べると思いますから、お肉と玉ねぎの甘味もいいのかな~、なんて。」 「あ、そういうことだったんですね。安心しました~。」 二人して、ほっ、と息をつく。いや、なんで私が息をついているんだ。 「なんだか、イチちゃんらしいですね。」 「えっ。」 「ふふふ、ごちそうさまです。」 「えっ!?」 ニコニコ笑顔のまま、クリークさんが答える。 違うんです、多分、クリークさんが今思ってるのは、何かがとても違うんです! それからは、私がお弁当を持って出かけるまで何を言っても、クリークさんは笑顔を崩さずにずっと、私の話を聞いているだけだった。 やっぱり、本当に、頼りになる。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「……ほっ、ほっ。」 「よ。」 「ああ!おはよう、イチ。」 「ん。おはよう。今日はちょっと遅かったね。」 「ああ。実は、トレーニング中にいろんな人からお菓子を貰ってしまってな。」 「そうなの。」 「ああ。飴とか小さいチョコレートとかだが……今日はお菓子を配る日なのか?」 「え、ウソでしょ。」 「私たちの部屋のドアの前にも、私やタマの名前あてでたくさんプレゼントがあったんだ。」 「そりゃあ、ねえ。」 「イチの部屋の前には置かれていなかったか?」 「……オグリ、マジで言ってる?」 「う、うん。『まじ』だぞ。」 「あー、まあ、オグリは今日一日、そのほうがウケるかもね。」 「う、ううん……」 「どうしたの、悩んじゃって。」 「これは、意地悪な時のイチだ。」 「ちょっと、何が何が。」 「そういう含みのある言い方をするときは、イチが意地悪をしているときなんだ。」 「何オグリ、急に。」 「イチ。ちゃんと教えてくれないと、嫌だぞ。」 「分かった分かった、ごめんって。お弁当あげるから、食べながら話そ。ね。」 「今日もあるのか!ありがとう。」 「うん。はい、これ。朝からお疲れさん。」 「それじゃあ、いただきます。」 「ん。召し上がれ。」 「それで、今日は何の日なんだ?」 「今日は2月14日でしょ。」 「うん。そうだな。」 「バレンタインデーじゃん。」 「……ああ!そうか!」 「そうです。」 「それで、皆お菓子をくれていたんだな。」 「オグリ、きっと今日は一日中貰いっぱなしだよ。」 「そうなのか?」 「そうです。」 「ううん、そういうものなのか……」 「覚悟しといたほうがいいよ。皆寄ってくるから。」 「そうか……おおっ!」 「わっ、何。」 「イチ!これは、生姜焼きだ!」 「そ。良かったじゃん。」 「いつもは野菜中心だから、珍しいな。」 「そうだね。」 「とてもおいしそうだな。いい香りだ。」 「うん、私もそう思う。」 「おお、これは!」 「わっ、……これは?」 「おいしい、おいしいぞ、イチ!」 「ふふ、そうでしょ。」 「お肉も玉ねぎも甘くて、とてもおいしい。」 「ありがと。」 「しかし、困ったな。」 「え、何か、まずかった?」 「いや、その。」 「どれが良くなかった?」 「いや、そんなに、問題というわけではないんだ。」 「教えて、それ、聞きたい。」 「……ご飯が、足りないんだ。」 「……へ?」 「こんなおいしい生姜焼き、お弁当のご飯だけでは、とても足りなくて……」 「……ふふ、何それ。」 「ほ、本当だぞ、イチ。イチも食べてみるといい!」 「食べてるから、ヘーキ。知ってる。」 「ううむ……でも、おいしいな。」 「分かる。おいしいよね、それ。」 「ご馳走様でした。」 「はい、お粗末様でした。」 「とてもおいしかった。イチは、肉料理も得意なんだな。」 「私だけの料理じゃないけどね。」 「そうなのか?」 「そう。」 「それでも、作ってくれたイチの料理だ。ありがとう。」 「ん、うん。ありがと。」 「イチ。もし、良かったら、なんだが。」 「え、うん。」 「また、この生姜焼きを作ってくれないか。」 「う、うん。」 「いつでもいいんだ。朝でも、お昼でも、夕飯でも。いつでも大丈夫だ。」 「そんな時間、無いでしょって。」 「定食みたいに食べてみたいな。」 「定食?カフェテリアのお昼ご飯みたいな?」 「うん。キャベツの千切りと、お漬物と、お味噌汁。合わせて食べてみたい。」 「言われてみたら、生姜焼き定食みたいな普通のお昼ご飯、うちのカフェテリアに無いのかな。」 「いや、あるぞ。」 「いや、あるんかい!」 「おお、タマみたいなツッコみだな。」 「コラ、そんなこと言ってると、作ってあげないよ。」 「そ、そんな!イチ!」 「ダメ、もう明日からはいつものお野菜お弁当です。」 「そんな……」 「へちゃくれてもダメ。」 「私はただ、イチのお味噌汁も飲んでみたいな、と思っただけなのに……」 「えっ。」 「お弁当だと、お味噌汁は飲めないからな……」 「オグリ、アンタ、本当に……」 「な、なんでイチが耳を垂れさせるんだ。」 「別に、なんでもない。」 「顔を上げてくれ、イチ。イチのお味噌汁は美味しいと思っているぞ!」 「え、な、オグリ。」 「いつかまた、作ってくれたら嬉しい。」 「……別にいいけど、そんな時来るのかな。」 「そうだな。来たら、いいな。」 「そうだね。」 「イチは、誰かにチョコを贈るのか?」 「うん、まあ、イツメンとか。」 「そうか。私も、イチに用意してあるぞ。」 「え、そうなの?」 「うん。放課後、夕飯が終わった後に、また連絡する。」 「分かった。でも、オグリ、今日は一日抜け出せないかもよ。」 「私は抜け出すのは得意だぞ。任せてくれ。」 「はい。分かった。待ってるね。」 「うん。ああ、それで、今日川沿いでな……」 了 ページトップ Part7 1つ目(≫38) 二次元好きの匿名さん22/02/16(水) 20 31 44 「ねえ~、キャップさん、まだあ?」 「もうすぐじゃない?今日は早く帰るって、さっきも言ったじゃないの。」 「うーーん。」 「はいはい、もうちょっとだと思うから。」 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「ただいま。」 「あっ!」 「ほら、帰ってきた。」 「おかえりなさい!」 「ただいま、ワン。」 「おかえり、キャップさん。」 「ただいま、イチ。」 「今日ね、町内徒競走で4番だったんだ!」 「おお、そうなのか。頑張ったな。行ってあげられなくてすまない。」 「ワン、ずっとキャップに見ててほしいって言って、聞かなかったんだから。」 「そうか、よし、ワン。次のお休みには私と一緒に走ろうな。」 「キャップは速いよ、ワンに勝てるかな?」 「頑張るもん!」 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 「はい、お茶。」 「ありがとう、イチ。」 「たまには一緒に走るとき、手、抜いてあげたら?」 「それはできない。彼女のためにも、全力で走る。」 「そっか。キャップらしいね。」 「イチもたまには、一緒に走らないか?」 「もうお腹も脚もダルダルだから、パス。」 「そうか……イチと一緒に走ってみたいとずっと思っているんだけどな。」 「いつもありがとうね。でも、走るのはまた今度だよ、キャップ?」 了 ページトップ 2つ目(≫101~105) SS筆者22/02/19(土) 01 27 31 「はあーお腹減ったお腹減った。」 「いやー本当にそれー。あ、この靴カワイー。」 「ちょっと、ご飯の時くらいスマホしまいなさいって。」 「なあによオグリギャルさん。いいじゃないのー。」 「誰がオグリギャルよ。アンタ、授業中ですらスマホ隠れて触ってるじゃん。」 「えっ、バレてたの。」 「あったり前でしょ。」 「まあまあ、そうカッカなさらず……」 「カッカしてないっ。」 「いーや、ホントーにイチはわかりやすいね。」 「なんですって?」 「やめときなって、いくらバレンタインデーだからってさ。」 「え、バレンタイン……ああ~~!」 「『ああ~~!』じゃないわよ。何に納得いってるの。」 「イチあれでしょ、チョコ渡せてないんでしょ!」 「は、はぁ~~!?」 「はぁ~~?」 「はぁ~……アッハッハ!ウケる!」 「ちょっと、マネしないでよ!サイテー!」 「いーや、ほんっとに、イチは。」 「わかりやすいよねえ~~。」 「マジであり得ない、なんなの、もう。」 「ほれ、後ろ後ろ。噂をすれば。」 「怪物の影がさす、かあ。」 「イチ、見なくていいの?」 「別に、アイツが囲まれてんの見たって、どうもしないでしょ。」 「どうもするって。あれ凄いよ。」 「いや人数ヤーバ。囲まれてんじゃん。」 「なんだっけ、あの、文化がどこかを中心にして周りに広がってくやつ。歴史の。」 「文化伝播論ね。」 「おっ、それそれ。アンタ次のテスト100点じゃん。」 「アレじゃあ、『オグリ伝播論』ですな。」 「うまいっ!座布団もあげちゃう。」 「古くね?」 「……オグリ、困ってるし。」 「うわ、見た。」 「アンタが見ろって言ったんじゃん。」 「さすが、一目見ただけでわかりますか。奥様は。」 「トレイを持って席を探してる間に群がられたら、誰だって困るでしょ。」 「旦那サマのピンチですぜ、助けに行かなくていいんですかい、親分。」 「誰が親分だ、コラ。」 「ビシッと間を割って、助けに行ってやりなさいよ。」 「今日、鞄ずっと持ち歩いてんの、チョコが入ってるからなんでしょ。」 「そうそう。」 「えっ、アンタたち、いつの間に。」 「……ぷっ。」 「いやはや、イチは、ホントーに。」 「わっかりやすいですなあ~~。」 「ア、アンタら~、さては!」 「アッハッハ、ほんっと、そういうとこ大好きだよ、イチ。」 「ほれ、応援してるから行っといでって。」 「……ヤだ。絶対行かない。」 「え~~?そんなんある?」 「んもー、しゃーないですなあ。」 「えっ、何、ちょっと。」 「ほら、鞄持って立った立った!」 「はいちょっと皆、ゴメンなさいね~。通して~。」 「ちょっと、やめてって、コラっ。」 「とっとと渡してくる!ほら!」 オグリの周りに城壁かと思うような生徒たちの間を一人が割って、もう一人が私の肘に腕をひっかけて引っ張っていく。 『この子は抜け出すのが上手い』って評価を教官がしてたのを聞いたことあるけど、こういうところで役に立つものなのか。 最後の城壁までスルスルと私を先導して、二人が私の背中を押す。 「今しかないよ、イチ。」 「グッドラック。」 目の前には、見慣れたオグリの困惑した顔があった。 なんなんだ、アンタらは。 恨み言も言い終わらないうちに、オグリが私を見上げる。 「や、やあ。イチ。」 「ど、どうも……」 こんなぎこちない挨拶、初対面の時でもしてない。 周りの子たちもなんだか困惑している。私だって困惑してる。 「がんばれよー!」 「戦果を期待してるよー!」 城壁の向こうから、望まぬ心強い味方の声援。ホントーにうっさい。 ええい、こうなったら、ヤケだ。 「はい、チョコあげる。もう学園中から貰ってるだろうけど、食後のデザート代わりに食べて。」 周りから、わぁ、というどよめきの声。オグリが驚いたようにチョコと私の顔を見比べて、まばたきする。 顔が突然熱くなってくる。もう、早く受け取ってって。 「……友チョコと言うやつか!ありがとうイチ!」 ちょっと困ったような顔で、返事をしてくる。 は、何それ。 熱くなってきた顔が、もっと熱くなるのを感じる。 そんなんじゃ、ない。 周りの子のことを思って言葉を選んでくれたのかもしれない。 でも。 でも、違う。 他の子たちのことを下に見るワケじゃないけど、私のチョコは想いが、違う。 ああ、もう。 「……本命。」 「……イチ?」 「本命よ。」 周りのどよめきが、驚きの声になって、黄色い歓声にすぐ変わる。 「やっぱり、食後のデザートなんかに食べたら、許さないから。」 「い、イチ!?」 チョコを押し付けて、踵を返す。 入ってくるのに分厚かった城壁がウソのように、私の前に道ができる。 道の終わりにいた二人が、口をあんぐりと開けているような表情をしていた。 「……マージで。」 「……ウケる。撮っとこ。」 その日のカフェテリアで、ピンク色の髪をした後輩ちゃんが一人、保健室に運び込まれたのは、別の話。 別の話で、あってほしい。 了 ページトップ 3つ目(≫128~129) SS筆者22/02/20(日) 08 12 38 【二人だけの特別個人指導】 オグリキャップとレスアンカーワンのダンス練習を監督すると約束して以来、早朝にダンス室に行くようになった。 「ほら、そこで腕のばす!」 「こ、こうか?」 レッスン室からは、もう二人が振り付けの練習をしていた。 「ここはキメるところなんだから、左右に遠慮して縮こまらない!」 「あ、ああ!」 「指先までピンとする!ダンスは身体の先端が一番大事なの!」 「よ、よし!」 すごい気迫で、レスアンカーワンの指導が飛ぶ。 もうどのくらい踊っているのか、すごい熱気だ。一度止めたほうがいいかもしれない。 『おはよう!』 自分の声に気付いたレスアンカーワンが、音楽を止める。 「ほら、オグリ……あ、おはようございます!」 「ふう、ふう……ああ、おはよう。」 『二人ともすごい真剣だな』 「そりゃ、葦毛の怪物サマが新聞の一面に棒立ちで載るところ、見たくないですから。」 「いつもより早いのに、ありがとう、イチ。」 『いつもって?』 「ああ、イチはいつも、私に朝のお弁当を作ってくれるんだ。」 『お弁当?』 「ちょっと、オグリ!」 「それを作るために早起きしてくれているのに、ダンスの練習まで付き合ってくれてるんだ。本当にありがとう。」 『イチちゃんは頑張り屋なんだな。』 オグリの言葉に、レスアンカーワンの顔が赤くなる。 「~~っ!もう、余計な事言わないの!」 「な、なんで怒っているんだ、イチ?」 「ほらっ、続きやるよ!」 レスアンカーワンがコンポのスイッチを入れて、音楽が流れ始める。 「いきなり再開したからって、テンポズレない!」 「う、うん!こうか?」 「ほら、表情も意識して!音楽の背景を考えて、顔も作る!」 ……先ほどより、指導に力が入っているように見えるのは、気のせいではないだろう。 その時、ふと閃いた!このアイディアはアダルトデイズとのトレーニングに行かせるかもしれない! アダルトデイズの成長につながった! 体力が10減った パワーが10増えた 根性が10増えた 「軽やかステップ」のヒントLvが2上がった レスアンカーワンの絆ゲージが5上がった ページトップ 4つ目(≫151~152、≫154) SS筆者22/02/21(月) 01 02 42 【内緒の抜き打ちチェック!】 オグリキャップのレース当日。トレーナー室のテレビでレスアンカーワンと一緒に、走るオグリを応援する。 『頑張れ!』 「大丈夫、勝てる、勝てるはず……!」 第4コーナーを越えて、テレビの中のオグリキャップがグングン加速していく。 彼女は無事、1着でゴール板を横切った。 「やった!やった!オグリだ!」 レスアンカーワンが、立ち上がって喜んでいる。 『やっぱりオグリキャップは強いね』 「あったり前でしょ、なんてったってオグリキャップなんだから。」 自分が勝ったかのように、レスアンカーワンが胸を張る。 『センターで踊るウイニングライブが楽しみだ』 「そうね、ちゃんと踊れてるか見てやらないと。」 そう言いながら、レスアンカーワンが思い出したように鞄の中を漁る。 こちらに振り向いたかと思うと、青と白のサイリウムを手渡される。 『これは?』 「これは、ってサイリウムでしょ。」 『レスアンカーワンもライブが楽しみ?』 「別に、楽しみじゃないわ。私たちで面倒見てあげたんだから、ちゃんと踊れるか見てやんないと。抜き打ちチェックよ!」 ~⏱~ 日が暮れて、ウイニングライブの時間になる。オグリキャップの番が回ってきた。 レスアンカーワンと二人で、食い入るようにテレビの中で踊るオグリキャップを見る。 「いい、いいわよオグリ。……そう!ステップ綺麗!」 黄色と白のサイリウムを握りしめて、細かいところまでレスアンカーワンがチェックしている。 「どうか全力で……♪ ……ひと~みで私を♪」 サビに入って、レスアンカーワンも思わず、歌を口ずさんでしまっている。 「最後まで気を抜かずに……お、かっこいいじゃない……」 『すごいな……』 オグリキャップの華麗に歌って踊る姿に、二人で釘付けにされてしまった。 ⏱ ライブが終わっても二人でしばらく呆けてしまって、お互いに静かな時間が過ぎた。 サイリウムを持ったままテレビを見つめるレスアンカーワンに声をかける。 『カッコよかったね』 「あったり前でしょ、なんてったってオグリキャップなんだから。」 嬉しそうに微笑みながら、レスアンカーワンがまた胸を張る。 そう言った後、ハッとしたように口を手で覆う。 「アンタ、このことは秘密だから。オグリに言ったりしないでよね。」 キッと鋭い目つきで言われてしまい、首を縦に振らざるを得なかった。 その時、ふと閃いた!このアイディアはエイジセレモニーとのトレーニングに行かせるかもしれない! エイジセレモニーの成長につながった! スキルptが30増えた 「集中力」のヒントLvが2上がった レスアンカーワンの絆ゲージが5上がった 引用元 https //bbs.animanch.com/storage/img/368777/154 ページトップ 5つ目(≫170~173) SS筆者22/02/21(月) 19 56 06 【お弁当には思惑込めて】 オグリキャップとレスアンカーワンの早朝ダンスレッスンにも慣れてきたある日、二人のレッスン時間よりも早く目が覚めた。 せっかく起きたし普段はしない散歩で気晴らしでも、と学園の外を歩いていると、見慣れた葦毛のウマ娘とすれ違う。 『オグリキャップ、おはよう!』 「ああ、おはよう、トレーナー。」 『もう自主トレしていたの?』 「そうだな。この時間なら人も少なくて走りやすいんだ。」 他の生徒はもとより、熱心なトレーナー陣でもこんな時間から動き出す人は中々いない。 『熱心なんだね』 そういわれたオグリキャップが、照れたように頭の後ろに手をやる。 「ありがとう。でも、今はトレーナーもそんな熱心者じゃないか。」 『そうだね』 そんなオグリキャップを前に、ふと、疑問が湧いた。 『こんな早くからトレーニングして、お腹は空かないの?』 「実は……とても空いているんだ。ただ、今我慢すれば、あとで美味しい朝ごはんを食べられるんだ。」 はにかみながらそう答えるオグリキャップの言葉に、思い当たるものがあった。 『もしかして、この間言っていたお弁当?』 「そうなんだ!イチのお弁当は、トレーニングをした朝ごはんにぴったりな献立でな……!」 オグリキャップが嬉しそうに耳を振る。 「これを食べるために、朝早起きしているところもちょっとだけあるんだ。」 思い出したのか、お腹がぐう、とひとりでに鳴っている。 「それに、イチと朝におしゃべりできるのは、とても楽しい時間なんだ。良かったら、トレーナーもどうだ?」 その言葉を聞いて、レスアンカーワンの反応を想像する。きっと、いい顔はしないだろう―― そう思って、オグリキャップに返事する。 『いや、大丈夫だよ。』 「そうか……イチに頼んで、トレーナーの分も作ってもらおうか。」 『それは大変だろうから。あと、ここで出会ったのは内緒ね。』 「言わない方がいいのか?……なんだか不思議なことを言うんだな。」 顎に手を当てて、オグリキャップが考え込んでいる。 もう少しだけ、学園に戻る時間は遅らせよう。 そう思いながら、走るオグリキャップを見送った。 二人のダンスレッスンが始まるくらいの時間に戻ってくると、遠目に、ベンチに横並びで座る二人のウマ娘が見えた。 会話の内容はわからないが、ずいぶん楽しそうに会話をしている。 ……オグリキャップは前のライブで完璧に踊れていたし、今日くらいは遅れてもいいだろう。 もう一周り、学園の中を散歩することにした。 その時、ふと閃いた!このアイディアはエイジセレモニーとのトレーニングに行かせるかもしれない! エイジセレモニーの成長につながった! 体力が30回復した 「栄養補給」のヒントLvが2上がった レスアンカーワンの絆ゲージは最大だ ページトップ Part8 1つ目(≫39) SS筆者22/02/24(木) 22 57 23 自分用に書いてるSSからちょっとだけおすそ分け ※閲覧注意かもしれないんだ オグリが、私の肩に頭をのせる。 かすかに感じる、冷たい空気の流れ。 「……イチから、いいにおいがする。」 「……何よ、オグリ。」 オグリは顔をぐりぐりと押し付けながら、後ろから私に手を回している。 私も眺めていたスマホを置いて、オグリの頭に後ろ向きのまま手を伸ばしてやる。 おとなしく撫でられていたオグリが、口を開いた。 「……イチは。」 「なあに。」 「同じウマ娘の私と、その、こうやって、一緒に暮らしていて。」 「うん。」 「……嫌じゃないのか。」 何を言われているのかわからず、しばらく呆然とする。 思わずぷっ、と吹き出す。 イヤじゃないから、困ってるの。ホントに。 「好きにすればいいじゃん。」 「えっ。」 「変なとこでマジメすぎ、キャップ。」 オグリが顔を上げたのか、手が弾かれる。 「私は、イチに無理をさせてしまってないか。」 「あのね、キャップ。」 ぐいっ、と身体をオグリのほうに回す。 私の好きな、私だけが見れるとても綺麗な目とまつ毛。 頬に手を当ててやりながら、言ってやる。 「アンタじゃなきゃ、イヤなんだって。」 了? ページトップ 2つ目(≫45~47) SS筆者22/02/25(金) 00 40 38 僕は彼女の前にひざまずく。 街の明かりが空に反射して、うっすらと彼女の、美しくも力強い脚が眩く目に映る。 勇気を振り絞って、顔を上げる。彼女の顔を、真っすぐ見つめる。 ウマ娘は皆、端正な顔立ちをしている。 それでも、今、僕の目の前で口に手を当てて驚いた顔をする彼女は、他の誰にも負けないくらい、とっても美しい。 その姿勢のまま、彼女に手を伸ばす。 誰も見ていない場所なのに、えらい緊張する。 彼女もレースに出る前は、こんな気持ちだったんだろうか。 胸の奥から何か熱いものがこみあげてきて、喉が締まってしまい、声が上手く出せない。 口だけをパクパクと開閉させながら、何とか言葉を作り出そうとする。 「っあ、あのっ。僕とッ。」 声が裏返る。何をしているんだ。格好悪いじゃないか。 それから僕の喉は、声を出せという脳の命令を一切シャットアウトしてしまった。 お願いだ、一世一代のお願いなんだ、動いてくれ。 冷や汗と焦りで頭がいっぱいになる。 ほら、僕がモタモタしているから、彼女も涙目になってしまったじゃないか。 「頑張って。」 彼女が、口元からこちらに手を伸ばして、僕の手を取る。 「頑張って、貴方。」 彼女が涙声で、微笑みながら僕に語りかける。 ああ、なんて弱い男なんだ、僕は。応援されるなんて。 二軒隣のホソノさん、「求婚なんておめえ、バッと言うだけだ!」なんて、嘘じゃないか。 彼女の手の感触にすがるように、力を振り絞る。 「ぼ、僕と。」 「はい。」 「僕と、けっ、こんを。」 「はい。」 彼女の目元から、涙がこぼれる。 なんて、美しいんだろう。 言葉にするんだ、動け! 「僕と、結婚、してくれませんか。」 その言葉の後、身体が前にいきなり引っ張られて浮く感触がする。 冷たい風を一瞬感じた後、身体の前方と背中に、熱い感触。 気が付けば、彼女が僕のことを抱きしめていた。 「ありがとう、待ってました。」 「あ、あのっ!まだあるんだ!」 泣きながら僕のことを抱きしめる彼女の肩を軽く叩く。 「もう、これだけでも私は嬉しいの。」 「そうじゃなくて、もう一つだけ、お願いッ!」 彼女が不思議そうな顔で、僕の顔を覗き込む。 「貴女に、もう一つだけ、贈りたいものがあるんです。」 「もう何もいらないわ。貴方の言葉とこれまでの時間で、もういっぱい。」 「これからの僕の時間も貴女にあげます、でも、一瞬だけ離してくれますか。」 また驚いて涙目になる彼女を何とかなだめる。 名残惜しそうにする彼女のハグから外れて、もう一度ひざまずく。 僕も勇気を出して、もう一つ、練習したセリフを言う。 「貴女の効き脚を、前に出してもらえますか。」 彼女がまた、口に手を当てて目を丸くする。 何かを察したように、ゆっくりと右脚を前に出してくれる。 これまで彼女を支えてきた、彼女の命。 その右足のふくらはぎに手を当てて、軽く浮かせる。 僕はそのまま、脛に顔を寄せて、軽く口づけをした。 了 ページトップ 3つ目(≫116~124) SS筆者22/03/02(水) 18 21 43 前がほとんど見えないほど景色が曇ったお風呂場で、身体を擦る。 目を細めて鏡をにらみつける。今後ろを通った金髪っぽい子、やたらスタイル良かったな。モデルみたい。 石鹸を鏡に塗ろうかと思って、めんどくさくなってやめた。 ここまでやる必要ある?って思うくらい熱くて、暑いお風呂が、学園寮の特徴の一つだ。 脱衣所までしっかり湿気が満ちて、ドアを閉めておかないとあちこちに水滴がついてしまう。 以前、生徒会が広報のためにいろいろな場所の撮影をしようとしたとき、お風呂はカメラのレンズが曇りすぎて映像にならない、って理由で映像が使わ れなかった。 熱いのが苦手な子は、辛そうな顔をしながらシャワーだけで済ませていく。 でも、1か月も経つと、お風呂につからないと取れないくらい身体に疲れが溜まってくる。 私も熱いお風呂がダメなほうだった。 子供のころは、お母さんに『100数えるまで出てきちゃダメ』って言われて、ぶーたれた顔で数えてた。 今じゃ、100でも1000でも数えてやれると思う。 何なら、もっと熱いほうがイイって言って、追い炊きし始めるかも。 浴場が閉まる時間に来たことが無いから知らないけど、噂によれば最近入学した後輩ちゃんが、お風呂場にバラを浮かべて入っているらしい。 こんな暑いのに、よくやるなあ。 まだ見ぬ後輩ちゃんに思いを馳せていると、お風呂場の上記よりもっと熱い風が、身体の横から流れてくる。 それと同時に、あーっ!って悲鳴に似た甲高い声。 サウナから水風呂に移動した子たちのものだろう。 レース前の体重調整をする生徒たちのために、浴場にはこれまた信じられないくらい熱いサウナも併設されている。 使う人なんているのか、と入寮した当初は思っていた。 しかし、レースを控えた先輩たちや、たとえ模擬レースでもまじめにやりたい、なんて意識の高い子たちが続々とサウナに入っていく光景は、もはや日 常の一つだ。 『マジでダルい』って言いながらコギャルな先輩たちが入っていくのはなんだか笑えるし、真面目な子たちが真面目な顔しながら入っていく威圧感はと んでもなく力強い。 出てきた子たちが、シャワーで汗を流した後に水風呂に入って、一斉に叫んだり身体を派手に震わせるのはもうコントなんじゃないかと思える風景だ。 誰も使っていなかったら、逆に「お、明日は皆オフの日なのね」とか思うくらい。 あのサウナ自体は、いくら長風呂できるようになったからと言っても、今の私にはまだつらい。 いつか、私もあそこに入ることがあるんだろうか。 強いウマ娘たちの秘密の一つが、あそこに隠されてるんだろうか。 熱に取り囲まれながら、そんなことを思う。 お風呂に浸かって、一日を反省する。 午前の座学に、お昼の「スペシャルランチ争奪特別」に、トレーニング。 小テストは一発合格点、スムーズに抜け出せた特別レースには無事勝てて美味しいお昼を食べれてとってもハッピー。 坂路をとにかく駆け上がるトレーニングでは、教官の言う細かく脚を動かす走法で少し楽に走れることを知った。 そのあと、ふざけてアイツみたいに走ったらびっくりするくらい疲れた。 教官からも目をつけられて『やめておきなさい』ってちょっとだけ注意を貰う始末。 まだ、私には真似できない。ムカつくけど。 でも、いつかは必ずアイツにほえ面書かせてやるんだから。 明日はキャベツの芯を使った浅漬けでもお弁当に入れてやろう。きっと嫌がるに違いない。 明日の話は明日の朝考えればいいか、と思い直して、白く曇った天井を見上げる。 換気扇が一生懸命回っているけど、どこまで効果があるのやら。 天井に向かって、ぐーっと一つ伸びをする。 身体から疲れが抜けていくのを感じる。 うん、今日もまあまあ、一日よく頑張った。 「なんか最近イチ、必死だよね。」 お風呂から戻って、部屋で尻尾の手入れをしているとき、ルームメイトのモニーが話しかけてきた。 ちょっとカチンとくる言い方に、思わず冷たい返しをしてしまう。 「ん、何が?」 「私たち負け組がさー、必死にいろいろやっても、良くてにぎやかしなワケよ。」 突然かけられた、イマイチ反応に困る言葉にどう答えるか、ちょっと考えてしまう。 うーん、そうかな、とひとまず誤魔化すように返事する。 「だって、早いヤツらはもうトレーナーがついたり、チームに入ったりしてるんだよ?」 「まあ、私たちはまだってだけでしょ。」 冷たくなりすぎないような感じで返事する。 モニー、本名はエイジセレモニーって子だけど、ちょっと気難しい。 私のノリにも趣味も合ういい子なんだけど、こういう感じにネガティブな方からものを言う子だから話すのが難しい。 毒を吐く、っていう感じじゃないんだけど、思わず耳に入るとちょっと気持ちが陰るようなことを自然に話しちゃうタイプ。 発言に無責任……なのかな。意地悪なヤツって印象は持ちたくないからこれ以上は考えないけど。 とにかく、悪い意味でクラスに一人はいるようなタイプの子だ。 「いやいやいや、ちょっと考えてみなって。」 そういいながら、クッションを抱えてベッドに座り直している。 「集団指導で10,能力が伸びるとするじゃん。」 「うん。」 「それに比べたらさ、少数でじっくり指導したり、個人に合った指導をしてくれるチーム所属組はさ、15とか20とか伸びるわけじゃん。」 そうなのかな? 「まあ、そうかもね。」 「そう考えるとさ、集団で燻ってる時間が長けりゃ長いほど、先に上手くいってる子たちとはどんどん差がつくワケ。」 わかる?とか言ってわざとらしく天を見上げるように天井を見る。 「今、トレセンのウマ娘に求められてるのは早熟なエースたちってワケなんだよね~。」 私に話しかけてるのか、一人で勝手に落ち込んで納得してるのか。 こういうの、本当に反応しづらいからちょっとやめてほしい。 話の前後で微妙につながってないのが、どこかで良くない記事か何かを読んだだけなんだろうなって感じがする。 「でもさあ、3年以上頑張ってる先輩たちもいるじゃん。」 「その人たちはもう収まるところに長い時間収まってるからできるわけよ。」 「どういうこと?」 「つまり、遅くてもトレーナーにもファンの人に長く応援されてるってこと。」 うーん、分かんない。どういうことだろう。 ちゃんと話を聞くのがじれったくなってきてしまったので、直球ストレートに質問することにした。 「モニー、今日なんかあったん?」 「なんかって?」 「何か嫌なことでもあった?」 「いや、別に?ただ、ちょっと思うところがあってさ~。」 これか。何か物申したいワケね。聞いてあげようじゃないの。 「思うところって?」 「だから、イチのことだって。」 「私?」 「そ。えー、ここまでの話でわからん?」 分かんないから聞いてるの、とも言わない。 どうやってもう一つ深堀しようかな、と尻尾をいじる手を止めて考えていると、モニーが言葉を続けた。 「イチが最近必死になってるって話よ。」 「あー、さっき言ってたやつ。」 「そうそう。あの『ぽっと出』との話!」 キャー、とか言いながらこれまたわざとらしくクッションに顔を埋める。 「アイツがどうしたっていうのよ。」 「イチさあ、最近朝起きるのめっちゃ早いじゃん。」 「まあ、別に?」 「あれさ、弁当作るためって話、マジ?」 「マジだけど。」 私の返事に、こらえられなくなったようにあっはっは、と笑い出した。 「いやー、マジなん?!」 「弁当って言っても、嫌がらせのためだし。」 「いやいや、有り得んって。」 そう言って、また吹き出している。 「普通、嫌がらせしようってなったときにはそういう発想に行かないって。」 「でもアイツ、すごい食べるからいいかなと思っただけ。」 「弱点でも探ろうって?いやー、無理っしょ。」 思わぬ正論に面食らっていると、思いもよらぬことをモニーが言う。 「イチ、ほんとはあれでしょ?レースに勝てないからってぽっと出に媚び売ってるんでしょ?」 「は?何言ってんの?」 聞き捨てならない言葉に、すかさず噛みつく。 「アレはアイツの調子を落としてやろうってイタズラなの。」 「ムリムリムリ、そんなのムリだって。」 ニヤニヤした表情で、モニーがこちらを見ている。 「あれでしょ、本当は卒業した後の人生設計なんでしょ?」 「どういうこと?」 「だから、レースに勝てない私たちが卒業した後の進路ってコト。」 「進路?」 イチ、あれでしょ、と悪い楽しみを覚えたように話し続ける。 「もう引退後の寄生先探してるってことでしょ?」 「ハァ?何言ってんの。」 「レースと違って素早いじゃん?」 モニーの言葉に、胸が穴が開いたように、ヒュッと冷たくなる。 「マジでモニー、言葉選びなよ。」 「いやいや、事実を指摘してるだけだって。」 モニーは一切悪びれない顔をしている。 「私はちょっと尊敬してるワケ。真面目に今を頑張るんじゃなくて、先のことを考えて動くってのは頭イイよ。」 相手の言葉に答えるように、耳の付け根が痛いほど引き絞られる。 「何、ケンカ売ってんの?」 「ちょっと何、耳後ろに回して。売ってるわけないじゃん。」 こわ~、とか言いながら目を丸くしている。 どこまで本当だか分かったものじゃない。 モニーはこういうこと言うってわかっていても、実際に言われるのとは話が別だ。 「アイツにはひたすら嫌がらせをしているだけだし、私はそれを何かに役立てようとか全く思ってない。」 「いや、それはさ。」 「この話、終わりたいんだけど。」 ピシャリと言い放つ。 本気で怒ってるのが伝わったのか、モニーは何か言いたそうにしながらも口を閉じた。 しばらくお互い無言の気まずい時間が流れた後、消灯を知らせる放送が流れる。 真面目に従わない子も多いし、なんなら私たちもそっち側の生徒だけど、今日だけは二人ともおとなしくベッドに入る。 5分経った後、電気が消える。 チリチリとまだ燻ってる頭と胸が、おとなしく眠らせてくれない。 どうせ向こうもそうなんだろう。そう思って、背中越しに呼びかける。 「あのねモニー、もう一つ言っとくけど。」 「……何、ゴメンって。」 「私は真面目にレースに勝とうと思ってるから。トレーナーもつけるし、重賞レースで必ず勝つから。」 食い気味に、モニーの返事に自分の言葉を重ねる。 「確かに早熟なエースが求められてるかもしんないけど、私は走れるだけずっと走ってたい。」 「いや、でも勝てなかったら意味ないじゃん。」 「だから勝つつもりで走るの。私は勝ちたい。」 さっきまで言われてきた酷い言葉に復讐するように、挑発する。 「文句言うだけ言って結局勝てないようなウマ娘に、私はなりたくないから。」 すると、後ろのベッドが大きく軋む音がした。 「は?アンタそれ、私のこと言ってる?」 「言ってる。」 エイジセレモニー、と本名で呼びつけてやりながら、言葉を突き付ける。 「私は、アンタにだけは負けたくないって、今思ったから。」 「は、何それ。ライバル宣言かなんか?」 「それでもいいよ。アンタには絶対負けない。」 「……カッコつけてんじゃないわよ、オグリギャルのくせに。」 「でも上がり3Fは私のほうが速いから。アンタのこと、捕まえたし。」 「たまたまでしょ、バ場が良かったのよ。」 「最初にゴール板を駆け抜けたやつが勝つってルール、知らないの?」 大人げないな、と思いながらも、モニーを挑発する言葉が止まらない。 返す言葉もなくなったのか、さっきまでの私みたいにうんざりしたのか、もう一度ベッドを軋ませる音を立てて、モニーは何も言わなくなった。 モニーをすっかりやっつけてしまった私は、小さくない罪悪感を抱えていた。 でも、あんなこと言われて、怒らないウマ娘なんていないはず。 勝ちたいという本能に逆らえるウマ娘なんて、絶対にいない。 だから勝てばとびきり嬉しくなるし、負ければとびきり悔しくなる。 幸い、モニーと私は走る距離も馬場も同じで、いつか同じレースで走ることになるかもしれない、いいライバルだ。 明日もまた一つ、アイツよりも、モニーよりも、誰よりも強くなるんだ。 そう思いながら、チリつく胸をぐっとこらえて、毛布を頭までかぶって目を閉じた。 了 ページトップ Part9 1つ目(≫22~34) SS筆者22/03/12(土) 19 52 53 イチに、トレーナーがついた。 模擬レースで1着になったある日、トレーナーのほうからスカウトがかかったらしい。 封筒を抱えながら、やたら機嫌のよさそうな日があったのを覚えてる。私が何を言ってもニコニコな上の空で、心配になったくらいだ。 まあ、そのこと自体には驚かなかった。 私と同じような趣味とかノリしてるけど、トレーニングやベンキョーは真面目にやる。 だからと言ってガリ勉とか、図書館にこもるような感じとか、そういうのでもない。 学年に数少ない超優等生――ヤエノとかチヨちゃんみたいな――ってワケじゃない。 気軽に絡めるツレで、側にいるのが嬉しいルームメイト。 真面目な分、この間よくわかんない流れでケンカ、というか言い合いにしちゃったこともあったけど。 その真面目さが、トレーナーの目を引いたんだろう。 ああ、これで優等生サマと私で、さらに差が開いて行ってしまうんだな~なんて、自分にウソをつく。 私が持っていないものを、イチが先に手に入れていく。 相手の努力をバカにして、結果だけ見て文句を言うのは簡単だよね、ってきっとイチは言う。 それでも、毎日夕方にいい笑顔を浮かべてトレーニングするイチを見ると、イジけずにはいられなかった。 ある日、ちらりとイチの姿をトレーニング場で見かけた。 去年のダート王者で最近引退した、クロガネトキノコエセンパイを相手に併走トレの最中だった。 イチもイチのトレーナーもペコペコお辞儀していて、相手の二人のほうが困っていた。 軽い打ち合わせをしたのだろう、時間を置いて始まったトレーニングは、正直言って、クロガネセンパイとの力の差が大きすぎるように見えた。 イチは必死に、どうにかして食いついてやろうともがくように走っていたけど、クロガネセンパイがちょっとでも姿勢を下げると、抜けるように距離が空く 。 長いストライドを武器として、芝もダートも長い間走り続けてきたセンパイの走りのセンスは、暴力的なまでにイチ突き放していく。 センパイもやたら気合が入っていて、合図が出ているにもかかわらず、イチをギリギリまで抜かせようとしてなかった。 トレーニングなのに勝つつもりでやっていて、なんで引退したんだって笑える感じの走りをしていた。 あれがG1レースを勝つウマ娘の持つ、勝ち気の強さってヤツ? 去年のダートを支配した『鉄人』に必死に食らいつこうとするイチは、メチャクチャ苦しそうな顔をしていた。 ゴールの目印を横切ったイチが、風に吹かれる木の棒みたいに、パタンと倒れる。 最後の一本が終わったのだろうか。 ウッドチップのコースに仰向けに倒れこむイチは、疲れと悔しさと、これから自分が走ることになるかもしれない対戦相手達の壁の高さに、うんざりするよ うな感情を混ぜた顔になっていた。 そんなイチの顔を見るのは、自分が負け続けることのようにツラかった。 それから私は、ガラにも無く図書室に脚を向けていた。 私のルームメイトを徹底的に叩きのめしたあのセンパイについて、もっと知りたくなったからだ。 図書室の扉を開けると、眼鏡をかけて髪を三つ編みにした、いかにもって言う姿でカウンターに座る図書委員が目に入る。 その子は読みかけていた本から顔を上げて、こちらに軽く会釈している。 『怒るとメチャクチャ怖い』と言われているけど、ホントーなんだろうか? 図書室なんて普段来たことないので、こちらも首だけで会釈しながら、その子に話しかける。 「スンマセン、ちょっと調べたいんですけど。」 「はい。どんな本ですか?」 「えー、センパイについて調べたいんです。」 メガネの子は首を横にひねっている。 「ウマ娘についての資料……ということでよいでしょうか?」 「あっ、そう、それで。」 「わかりました。ええと、お名前を聞いても良いでしょうか?」 クロガネトキノコエです、と伝えると、見た目とはかけ離れたスピードで机のキーボードを叩いて、何かを印刷してくれた。 「はい、こちらがトキノコエさんについて書かれている資料の一覧です。」 2枚に分けて印刷された紙を受け取ると、文字と暗号の山。 目が文字を全く追ってくれなくて、すぐ質問してしまう。 「エート、これをどうすればイイ?」 「あ、もしかして、図書室のご利用は初めてでしたか?」 そういうと、膝掛けを脇に置いて、カウンターから出てきてくれる。 私よりも背の小さい図書委員さんは、キラキラした目でこちらを見上げる。 「資料探し、お手伝いします。ぜひついてきてください!」 それから渡してもらった資料集を、横にドンと積み上げる。 つい最近引退したばかりなのにすごい量だ。 紙の文字を読むのは慣れてないし眠くなるけど、頭を振りながらガンバって読み進める。 読んだ矢先に忘れてしまうから、気になったことはスマホにメモ。 メモの量が増えていくうちに、色んなことが分かった。 センパイは、『身体が弱い』『腰回りが緩い』ってずっと言われ続けてきた。 それは生まれ持った体質だったみたいで、それを無理に克服しようとした結果、身体を壊しかけてしまったことがあるらしい。 「弱いところを補強する」トレーニングをしていくのはフツーだけど、クロガネセンパイはダメだった。 それでも、センパイは勝つことをあきらめなかった。 とにかくたくさんレースに出て、経験を積むようにしていたみたい。 どんなに負けても、鉄は叩けば叩くほど強くなるんだと言わんばかりに、とにかく走っていた。 3戦目のレースでデビューをした後、毎年走っていない季節が無いくらい、芝ダート問わずいろんなレースに名前が載っている。 センパイのトレーナーへのインタビューでも、『焦ってトレーニングを積むようなことはしません』『ゆっくりと、大器晩成してもらえれば』っていろんな 記事で言ってる。 詳しいレース経歴は読み飛ばしたけど、戦ってきたメンツがはっきり言ってヤバかった。 ジャパンカップでルドルフ会長の2着にまで食い込んだロブストティーガーセンパイに、逃げウマ娘としてメチャクチャ勝ったデュークダウンセンパイ。 これだけのウマ娘たちを相手に、大きなケガをすることもなく、泥臭い勝負根性で戦い続けたセンパイは、まさに『鉄人』だ。 ひたすら揉まれていって、その姿がファンを虜にしていって、センパイは走り続けていた。 弱いところを叩くのではなく、得意なところを伸ばしながら能力を上げる方向に舵を切ったのが、センパイのスゴイところだ、と思った。 最後の資料から気づいたことをメモに書き込んで、資料を脇に置く。 積み上げられた山が私の右側から左側に移っていることに気付く。 ぐっ、と伸びをすると、図書室がもうすぐ閉まる時間。周りにはまばらにしか人が残っていなかった。 山を崩して本棚と委員の人に返しながら、考える。 できないことを無理に直さなくてもいいんだ。 得意なところで頑張るのは、私にはチョー嬉しい。 上手くできたらチョーシに乗って、もっと伸びればいいってことだから。 私の武器は何だろう。 欠点はたくさん見つかるけど、そういえば、得意なところを見つけようとしてこなかった。 何かが得意って言って、それができなかったときに打ちのめされたくなかったから、わざと無視していたのかもしれない。 でも、今日トレーニングコースで見たイチの姿が、私の頭にこびりついて離れなかった。 ケンカした夜に言われた『アンタには負けないから』の言葉も、頭の中に響いて止まらない。 いい加減、イイワケするのはよそう。 私の得意なことって、なんだろう。 私の、得意なことは。 正直言って、私は脚が速くない。 イチと真面目に競走したら、多分、トップスピードの差で差し切られてしまう。 実際、トレーナーがつく前にイチと走った練習レースでは、きっちり差されていた。 イチがオグリキャップの真似をして走るようになってから、最初のころは『オグリギャル』って言ってからかっていた。 ところが、チリも積もればというものなのか、マネ続けていれば最後は本物になれるのか、最近のイチはメキメキと強く走るようになっていた。 それを見て、普段イチとつるんでいた私たちもちょっと燃えたし、ムカついたし、少し自信を無くした。 真似をするだけで強くなれるんだったら、いくらでも真似する。 けど、そう普通は上手くいかない。 オグリキャップの真似をするイチの真似をしたところで、それは私の力には少しもならない。 ウンウンとうなって考えてみるけど、いいアイデアなんて一つも振ってこなかった。 私の武器は何だろう。 ベンキョーやレース戦術書、教官の指導でいろんな戦い方を学んだけど、それを現実に落とし込んでみると驚くほど結果がついてこなかった。 分からないし言われた通りにやってもわかんないなら、とりあえず走ってみっか。 図書室を出て、すっかり暗くなった廊下を昇降口に向かって歩く。 練習届出してないけど、別に走っても怒られないっしょ。 へとへとになるまで走ってやる、と決めた。 あれから1週間たった、模擬レース本番の日。 胸にトレーナーであることを示すバッヂを付けた人や、観戦ので見に来たウマ娘たちで、座席兼階段のあたりは埋まっていた。 あれは近くの小学校からの校外学習だろうか、ジャージに紅白帽をかぶったちっちゃい子たちがこちらに手を振っている。 前日に、イチに『見に来てよ』とからかい交じりに誘ったけど、普通に予定があるからパスって言われてしまった。 なんともったいない。この私が勝つところをみすみす見逃すなんて。 仲いい人に見られる方が変に緊張して良くないのかなと思う。 今日の私は、普段よりもキアイが入りまくってる。 そんな心持ちで出走メンバーを見やると、他の子たちもメラメラとキアイが入ってるように見えた。 今まで『いくら天下のトレセン学園でも、皆そんなマジになってない』って思っていたのは、間違いだったのかもしれない。 私がマジになって走ってなかったから、マジになってる子たちが見てる風景に追いついていなかっただけなんだ。 正直、今でもマジになってる自分がケッコー恥ずかしい。 そんな気持ちを振り払うために、軽く飛びあがって熱をほぐす。 1着になるのが、どこかカッコ悪いと思ってた。 本当はそんなことなくて、負けてヘラヘラしてるほうが、実はカッコ悪いんじゃないかって。 誘導係に連れられて、ゲートに入る。 ゲートは苦手だ。 狭くて、暗くて、そのくせ走らなきゃいけないコースだけ見せつけてくる。 隣からは、息まいた熱が、私の肩と頬を舐めるように撫でる。 ここを失敗したらお前は負けるんだ、って思わせてくる。 深呼吸して、目の前の扉を睨みつける。 テメー、あんまりチョーシ乗んなよ。 今日は私の番だ。 私が、アンタたちをブッツぶしてやる。 芝、2000mの中距離、2枠3番の内枠。 メイクデビュー戦でもあんまり開かれない距離に、ワザワザ登録した。 私の武器は何だろうか、ってずっと考えてきた。 図書室でめっちゃベンキョーしたあの日の夜、イチの走っていたトレーニングコースを全力で、何度も何度も走った。 私のほかにも何人か自主トレしてる子たちがいて、一緒に走った。 1周目。頭の悩みは、ちっとも晴れなかった。私より先に走っていた子に、何度かかわされた。 3周目。身体は熱を持ち始めたけど、やっぱり悩みは晴れなかった。私より先に走っていた子に、1回だけかわされた。 5周目。やっとまともに走れるくらいに息が整ってきた。私より先に走っていた子は、だいぶ息が上がっていた。 7周目。悩みについて考えるのが、やっと面倒くさくなってきた。私より先に走っていた子の音が、聞こえなくなった。 9周目、だと思う。まだまだ、まだ走れる。私より先に走っていた子は、スタート位置で座り込んでいた。 もういいだろう、と思って脚を止める。私より先に走っていた子たちを、私は立ったまま見下ろしていた。 脚は、確かに遅い。 では、その脚の長さはどうだ。 私はこれまで、負けたくなくていろんなものから逃げてきた。 逃げるのは得意だ。簡単だし。 駆け引きできる頭も、最後に全部ブチ抜く豪脚も持ってない。 誰かと真っ向から勝負するのも、ビビッちゃって苦手だ。 なら、最初からハナを取る。 長めの距離を、いの一番にブッ飛ばして、他の連中を置いていく。 誰かと勝負しないで、私一人で勝負を終わらせればいい。 得意なものをひたすら伸ばして、生かして、一番最初にゴール板を横切る。 『逃げは勝ちの定石ではない』 『最初は良くても、レース勘がつかなくなるから後々苦労することになる』 そんなお説教、知ったことじゃない。 スタミナバカのガン逃げ、絶対ついてこさせないから。 早く、早く開いて! 一秒でも1ミリでも、先に飛び出さなきゃいけないんだから! 早く! 『ゲート収まって……今、スタートです!』 自分でゲートを押し開けるつもりで、すぐさま飛び出せ。 0.1秒でも遅れたら、もうおしまいだ。 後ろを振り向くな。 前を見続けろ。 折り合いをつけるな。 多少掛かったって、どうせみんな私と同レベルだ。 捕まるな。 スタミナしかない私は、逃げ続けるしかないんだ。 上手に曲がろうと思うな。 余計なことを考えず、一番内側を取ろうとこらえ続けろ。 前へ押して、押して、押しまくれ。 2000mの長い距離、坂も全部まとめて、押し尽くせ。 「6」の数字を通り過ぎたら、準備。 立ち続ける余力も残らないくらいに、ブチ撒ける用意をする。 「4」の数字を通り過ぎて目の前に開ける、誰もいない最後の直線。 なんてサイコーの景色なんだろう。 見たことない景色に、少し面食らう。 前へ、前へ、進むんだ。 「2」の数字を通り過ぎて、脚の動きは変わっていない。 誰がどこにいるかなんて、知ったこっちゃない。 あの目印の前に、一歩でも、一秒でも速く、早く! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 『エイジセレモニー、エイジセレモニーです!2000mの長丁場を見事、逃げ切ってしまいました!』 ゴール板を横切って、一番最初に聞こえてきた、会場に響き渡る実況の声。 見ていた皆の視線が、私に向いている。 レース場のものほどじゃないけど、拍手と歓声と、ザワザワとどよめく声。 聞き耳を立ててみると、『まさか逃げの子が出てくるとは』みたいな内容が聞こえる。 胸の奥から、喜びと快感が湧いてくる。 初めて勝ち取った、一着。 もう立ち上がれないつもりで全力を尽くしたけど、まだまだ真っすぐ立てるくらいに、体力が残っていた。 イチが言っていた『絶対に勝つ』って、こういう気持ちだったのか。 勝利の余韻に浸っていると、誘導員さんから声をかけられる。次のレースがあるから動いてほしい、と。 こんなところで文句言っても仕方ないから、言われた通りロッカールームに戻って、シャワーを浴びて、着替える。 今日の夕飯はどうしようか。せっかく勝った日なんだから、ちょっと豪華なものを食べてもいいかも。 あ、イチにねだってみるとか? そんなことを考えながら学園を歩いていた時、声をかけられた。 「そこの子、模擬レース見てました。……あの?」 大人の人の声。ウマ娘の声じゃ絶対ない。 頭の中に雷が落ちたみたいな衝撃が来て、背筋が伸びる。 顔がひとりでににやけてしまっている。 「はい、何ですか?」 「単刀直入に聞くけど、今、専属のトレーナーさんってついてるかな。」 来た! いません、いませんとも! 「いや、今はフリーですね。」 そう返事をすると、そっか!と言って、肩から下げていた鞄を漁っている。 しばらく探した後、取り出してきたのは一つの封筒だった。 「今日の模擬レース、見てました。もしよかったら、これ。受け取ってほしい。」 「マジですか!ホントに?」 「ええ、とてもいい逃げっぷりでした。ぜひ。」 褒めてもらえる言葉がむず痒い。 この瞬間、サイコーだわ。一日上の空になる気持ちが分かった。 差し出された封筒を勢いよく受け取って、わきに抱える。 「トレーナーさん、正しいスカウトしてますよ。マジで。」 「そう?他の人が声をかける前に、と思ってさ。」 私は空いてる方の手を差し出して、言ってやる。 「一緒に、頑張っていきましょ。私、勝ちたいヤツがいるんです。」 それを聞いたトレーナーは、うん、と一つ確かに頷いて、私の手を取った。 「わかった。じゃあ、その子に勝てるよう、一緒に頑張ろう。」 待ってなさいよ、イチ。 アンタばかりに先へ先へとは逃がしはしない。 出遅れたけど、私ももうすぐ追いついてやるから。 ケンカを吹っ掛けたのは私だけど、勝っちゃえばこっちのモン。 今日はイチと一緒に夕飯を食べよう。そこで、報告してやるんだ。 ようやく走り出せた実感を得た私は、来週からのトレーニングが楽しみで仕方なかった。 了 ページトップ 2つ目(≫47~53) SS筆者22/03/14(月) 20 27 02 「……あ~……」 「……う~ん……」 「はぁ……」 「……もう。」 「オグリ!そんなコソコソしてなくてもいいじゃない!」 「……」 「オグリ!バレてるんだからね!」 「な、なんで分かったんだ、イチ。」 「葦毛って自分が思ってるより眩しいもんなの。」 「そ、そうだったのか。すまない……」 「いや、なんで謝ってるの。意味わかんないって。」 「……なんで出てこないのよ。」 「い、いや。側に行ってもいいのか、ちょっと分からなくてな。」 「……そりゃいいでしょ。となり、空いてるし。」 「そうか、そうしたら、そちらに行くぞ。」 「うん、うん?」 「なんで立ちっぱなしなのよ。」 「それは、隣に座ってもいいのかどうか、分からなくてな。」 「なんか今日ヘンだよ、オグリ。」 「そ、そうだろうか?」 「そうです。どうしたの。」 「うん、その、今日は何の日か分かるか、イチ。」 「3月14日、だけど。」 「そうだ!だから、何の日か、分かるか?」 「あぁ~……円周率の日ね。」 「え、円周率?」 「うん。3.1415926535……あとなんだったかな。」 「おお、すごいな。暗記したのか?」 「小学校の時の友達で100桁言える子がいてさ、面白がって言ってもらってるうちにちょっと覚えちゃった。」 「イチはすごいんだな……いや、そうじゃないんだ。」 「あ、ごめんごめん。」 「それで、今日は何の日か分かるか?」 「え~、パイの日だね。」 「ぱ、パイ?」 「そう。パイ。」 「どうしてパイ……なんだ?」 「さっきの円周率とおんなじ。πって言うじゃん。」 「そうなのか?」 「えっ、数学の時間に……」 「私はてっきり、アップルパイとか、ミートパイとかの……」 「あー、ああ。そういうことでもあるよ。私はデザートっぽいのより、ごはんな感じのパイのほうが好き。」 「そうなのか。私は……うん、どちらも好きだな。」 「そういえばまだ作ったことなかったなあ。今度、クリークさんとかタマモ先輩とかみんな誘って、パイでパーティしよっか。」 「おおっ、それはとてもいいな!もう、今からおいしそうだ。」 「こら、まだ日付も人も決めてないのに。」 「……はっ。そうじゃないんだ!」 「わっ、何、オグリ。」 「イチのパイ料理はすごく楽しみだが、違うんだ。」 「何が違うってのよ、あ、私が洋風な料理作るのはおかしいって?」 「ちがうんだイチ、そういう話じゃないんだ。」 「あ、今日が何の日か、って話だったね。」 「そう!それだ。」 「え~~~っとね、う~~ん……」 「……分からないだろうか。」 「……アハハ、降参。もう思いつかないや。」 「私はてっきり、イチが本当に分からないのかと……」 「ごめんごめん、なんか様子がおかしかったから、ちょっとイタズラしちゃった。」 「むぅ……イチは意地悪だな。」 「そんなしょげないでよ、オグリ。ちゃんと謝る。」 「うん。」 「ごめんなさい。」 「うん。ありがとう。」 「それで、つまりホワイトデーね。何、お返ししてくれるの?」 「もちろん。」 「別に、私はオグリにチョコ、あげてなかったじゃん。」 「でも、イチはとても美味しい生姜焼きを食べさせてくれたじゃないか。」 「……あ!そうだった、そうだった。」 「だから、私もお返しをしたくなったんだ。」 「えー、ありがとう。何くれるの?」 「……それなんだが、その。」 「どうしたのオグリ、なんか今日、歯切れ悪くない?」 「最初は、ホワイトデーらしく、マドレーヌとかマカロンとか、そういうものでお返ししようかな、と思ったんだ。」 「うん。」 「ただ、さっきイチが言ってくれた通り、イチが贈ってくれたものはチョコではないから、普通のお返しはふさわしくない、とも思ったんだ。」 「お返しでもらえるものなら、なんでも嬉しいのに。」 「いや、それは違う、と思って……それで、これを。」 「ん、なんだろう、これ。」 「待ってくれ、イチ。」 「な、何。中、見ちゃダメ?」 「いや、ぜひ見てほしいんだ。ただ、プレゼントについて、悪く思わないでほしい、とだけ……」 「あー、分かった、けど……」 「うん。よろしく頼む。」 「じゃあ、開けるよ?」 「わっ、カッコイイ包丁!」 「ペティナイフ、というらしい。」 「すごいきれいだね、これ。」 「私は詳しくないが、野菜にも魚を捌くにもこれ一本、衛生面も安心なものだそうだ。」 「どこで見繕ったの。」 「実は、私の地元がある隣の市が、刃物で昔から有名なところなんだ。」 「えー、そうだったんだ。」 「うん。なんでも、包丁やナイフは世界一らしい。地元の誇りだ。」 「ちょっと中から出して、握ってみてもいい?」 「もちろん!」 「うん。……わ、軽い。」 「これでもっと、イチが料理を楽しんでくれたら、私も嬉しい。」 「ありがとう、オグリ。嬉しいよ。」 「私のほうこそ、ありがとう。美味しいお肉のお礼だ。」 「教えてくれた通り、今度、お魚捌いてみるね。ありがと。」 「あの、イチ。……あっ。」 「わ、危ないって。どうしたの、しまうからちょっと待って。」 「すまない。……それで、イチ。」 「うん。」 「私は、イチとの縁を終わらせたいとは、全く思っていないからな。」 「はっ?……あ、さっき言ってた、悪く思わないでほしいって、そういう?」 「ああ。贈り物で刃物を贈るのは、良くないという記事もたくさん見てしまって……」 「なんだっけ、なんかあれだよね、マナーがどうのみたいな。」 「イチならきっと大丈夫だと信じてはいるんだが、どうしても疑いの気持ちが晴れなくて。」 「大丈夫だよオグリ、分かってる。嬉しい。」 「良かった。イチを疑ってしまって、すまない。」 「わ、そんな謝んなくてもいいじゃん……あ、そうだ。……はい。」 「そ、そんな、イチ、お金なんていらないぞ!」 「いや、受け取ってほしいんだって!」 「イチ、これは私からのお返しなんだ。どんなに安くても、お金はいらない。」 「違う違う、そうじゃなくて!」 「イチ、大丈夫だ。そんなにお小遣いに困っているわけではないから、その5円玉をしまってくれ。」 「ごえんのお返し!」 「5円でも、お返しのお返しは……!」 「だから、ご縁!」 「ご、ご縁?」 「オグリが心配してくれて、切れかけちゃったご縁の、お返し。」 「ご、ご縁、か。」 「そう!だから、はい!ちゃんと握って。」 「わっ、イチ……なるほど。」 「うん。ゲン担ぎとか、なんかそんな感じ。」 「……そうか。そうだな。ありがとう。」 「こういうダジャレっぽいの、日本語っぽくてありそうじゃん?」 「うん。その感じは、なんだか分かるぞ。」 「ふふ。ナイフ、ありがとう。大切にする。」 「大切にする……使って、もらえるよな?」 「いや、もちろん使う使う。早速明日から活躍してもらいますよ。」 「本当か!もしできるなら、その包丁を使った一番最初の料理は、私が食べたいな。」 「分かった。お魚は無いけど、何か美味しいもの作ってくるよ。」 「ありがとう。明日の朝が楽しみだ。」 「私も。」 了 ページトップ 3つ目(≫117~132) SS筆者22/03/21(月) 23 05 44 「ねえモニー、明日、タマモ先輩来るから。」 イチが部屋でくつろいでいた私に声をかける。 「タマモ先輩が、ナニ?」 「いや、その、明日さ、私、いないんだ。」 やけに照れたような顔をしながら、返事をしている。 「え、なんで?」 「オグリの奴がさ、明日、二人で話さないかって誘ってきたの。」 「……えー、マジ?」 「うん、それで、すぐそばにいたタマモ先輩がさ、『二人きりのほうがええやろ』って言ってくれて。」 「……ああ。」 「それで、一晩だけ部屋を交換しようって言って、さ。」 マジか。寮長にチクってやろうかな。 「悪いんだけど、ゴメン。」 「ちょっと、ルームメイトほっといてそれは、ヒドくない?」 「フジ寮長には内緒でお願い!」 うわ、見透かされてた。 「まー、いーけどさ。」 「ありがと、助かる。」 ○●〇●○●〇●○●〇●○●〇● 「おー、ジャマするで。」 「あー、こんちは。」 昨日言っていた通り、タマセンパイが来た。 「せっかくジャマするから、菓子持って来たで。」 「え、マジですか?あざっす!」 レジ袋からにんじんチップスを取り出して、見せてくれる。 私も小型冷蔵庫からスポドリを出して、紙コップに注ぐ。 「おっ、おおきに。」 「いや、ウチのイチが、すみません。」 軽く、平謝りする。 「いや、ほんまにあの二人仲ええよなあ。」 「ね、なんか妬けちゃいますよねえ。」 タマセンパイがお菓子の袋を開けて、つまんでいる。 「ほうか?別にまあ、そんな珍しい話でもないしなあ。」 「まあそうですけど、いざ自分のルームメイトがって思うと、なんかイヤじゃないですか。」 「ウチはそういうのあんまり気にせえへんからなあ。」 ポリポリ、と小気味よい音を鳴らせている。 「なんや、モニちゃんは実は、オグリの恋敵だったりするんか?」 タマセンパイがニヤニヤしながら、わざとらしく悪い顔をして聞いてくる。 センパイからその話題を振ってくれるの、待ってました。 「そうなんです、実は、ずっとイチのことが好きで。」 すると、大げさに顔を手で覆って、ワー!と叫び出す。 「えー、そんな昼ドラみたいな話、あるんやなあ。」 「はい。まあ、気づいたのは最近なんですけど。」 センパイが身体を前に乗り出してくる。 「どんなとこが好きになったん。」 「えっ、まあ、近くでずっと見てましたし。」 「せやなあ。普段、ご飯とかも一緒に行ってたんか?」 「あ、いや、お互い仲いい子のグループあるんで、そういうわけでもないですね。」 「そうなんか。休みの日とかはどうするんや。」 「休みの日も、あんまり一緒に出掛けたりとかは無かったかも……」 タマセンパイが、だんだん怪訝な顔になっていく。 「モニちゃん、奥手なんか?」 「いや、友達からはそういうタイプじゃないって言われます。」 私の言葉に、腕を組んで首をかしげている。 「私のほうが先に好きだったのに、オグリに取られて、納得いかないんです。」 「納得いかん、か。」 「はい。だって、私、ずっと前からイチのこと見てましたし。」 私の言葉に、嬉しそうな顔をしていたタマセンパイが、お菓子をつまんでいた手を止めた。 「うーん、いや、モニちゃん、それは多分好きとは違う気持ちやで。」 私はすかさず、タマセンパイの言葉に噛みついた。 「なんですか、私が、イチのことが本当は好きじゃないって言うんですか。」 「そや。本当は、イチちゃんのことなんて好きやないねん。」 私の言葉に素早く、ピシャリと言葉を返してくる。 「イチちゃんのことが好きなんやのうて、ただ羨ましいだけや。」 「意味わかんないです。どういうことですか。」 「イチちゃんはオグリにべったりで、オグリもイチちゃんにべったり。それはわかっとるやろ。」 「はい。」 せやけど、と言ってセンパイがベッドの上であぐらをかく。 「別に、イチちゃんからモニちゃんには、なんもしとらんやんか。」 「そうですけど、それがイヤなんですっ。」 うーん、とタマセンパイが腕を組みなおす。 「モニちゃんはオグリより先に、好きや!とは言っとらんのやろ?」 「あたりまえじゃないですか。ルームメイトなのに、そんなこと言ったら普通ドン引きですよ。」 せやなあ、と身の詰まってなさそうな返事が返ってくる。 「ほな、そんな怒られても、イチちゃんはなんも分からんやろ。」 「そりゃ、そうですけど……でも、ムカつくじゃないですか。」 「それ言うとったら、モニちゃんは出遅れた上に後出しジャンケンしとるやん。そんなん、ズルすぎるやろ。」 正論を突き付けられて、グゥの音も出ない。 こらあかんな、とセンパイは天井を見上げている。 「モニちゃんが一方的にカッカしてるだけやんな?」 「そうですよ。イチばっかり幸せになってるみたいで、羨ましいんです。」 私の言葉に、タマセンパイがパチン、と一つ、手を鳴らす。 勢いよくセンパイが右手の人差し指で、こちらを指さした。 「それや!」 「はっ?」 「いや、モニちゃんそれやで。よう気づいたな。」 指さしてきたかと思うと、また腕を組んで、一人でウンウンと頷いている。 「イミ、分かんないんですけど。」 「いや、せやからそういうことやって。」 一人で納得してるような素振りをして、何も言わないセンパイにイライラがつのる。 「センパイもなんか、ムカつきますね。」 「ちょちょちょい、それは酷いわ。」 こちらにツッコミを入れるように、平手で空気を叩くふりをしている。 「ほんとは、自分もわかっとるんとちゃうんか?」 「なんですか、バカにしてるんですか。」 言葉のとげを隠そうとも思えなくなる。もう、年上とか、そういうのは関係なくなった。 『私はすべてを分かってます』みたいな態度、ムカつく。 何を見たいかもわからないのに、助けを求めるようにスマホを取って、真っ暗な画面にカラフルな何かを映す。 親指だけが滑らかに動くけど、私の脳みそは何にも見つめていないみたいに、どの情報も頭の中を滑って落ちていった。 「あー、こらあかんな。すまん。」 自分の世界に閉じこもった私を見かねたのか、センパイが頭を下げている、ように見える。 センパイの謝罪に、反応もしたくない。 そのまま、重苦しい静けさが部屋を包む。 エプロンをあしらった、イチの目覚まし時計が鳴らす、カチ、カチ、という音だけが響いている。 私がこうして世の中の理不尽に燃えている間に、イチはオグリに何を話しているんだろうか。 どっちかが膝枕して、二人は仲よく夢の中にいるのか。 心の中の澱みを吐き出すかのように、少しだけ勢いよく、ため息をついた。 今、センパイの部屋では、きっとこの私の部屋とは違う風景が流れているんだろうな、とスマホの光を目に取り込みながら考える。 タマセンパイも呆れたのか怒ったのか、何も言わなくなった。 ガタガタ、と窓が音を立てて鳴り始める。その後、ポツ、ポツと水滴がガラスに当たって弾ける音。 別に雨まで降らなくていいじゃん、と、全く無関係なところにも心が反応して苛立ってくる。 こんな気持ちで、こんな音を聞かされて、どうやって夜を過ごせというのか。 叫び出したいけど、センパイがいる以上、声を出すのも憚られる。 苛立つ熱が私の中で暴走しそうになった手前くらいで、パン、と快活な音が一つ、部屋の中に轟いた。 驚いて、スマホから顔を上げる。 「おし!モニちゃん、着替えぇ。」 タマセンパイがベッドから軽く飛び降りて、四股を踏むような姿勢を取っている。 「は?」 「いや、せやから、着替えぇ。走りに行くで。」 全くつながらない唐突な言葉に、理解が追いつくまで時間がかかった。 「走りに?」 「せや。ジャージあるやろ、はよ着替えって。」 肩を入れて、ストレッチを始めている。 「バカなんですかセンパイ、外、雨ですよ。」 「モニちゃん、なかなか手厳しいなあ。言葉がほんまに痛いで。」 ふざけるように、センパイが胸を両手で押さえて、悲しそうな顔をする。 「いや、そういうの、マジでいらないんで。」 「いらなくてもやってしまうんがウチなんや、堪忍やで。」 「そういうのもいらないです。」 何をバカなことを言っているんだろう。 真面目に取り合ったら損すると思って、ベッドに横になる。 すると、よっ、という掛け声をかけながら、タマセンパイが無理やり私を持ち上げた。 思わず、スマホを取り落す。 そんな小さい身体のどこに、こんなパワーがあるんだ。 「ちょっ、やめて、何してんの?」 「そんな気持ちで寝っ転がったって眠れやせえへんやろ。ほれ、立った立った。」 それに、と私を持ち上げたまま私の目を見て、言葉を続ける。 「GⅠ3勝、3冠バたちができなかった天皇賞を春秋初連覇した、『白い稲妻』が一緒に走ろうって言うてるんやぞ。」 「……だから、何だって言うの。」 「引退してる身やけど、ウチのトレーナーの元には併走トレーニングの依頼がぎょうさん来とるんや。こんなチャンス、中々無いで?」 そりゃ当たり前でしょ、って思う反面、後から走りたくなっても走らせてもらえないウマ娘なのは間違いない。 「ウチのでっかい胸を借りた上で、モニちゃんの気持ちを誤魔化せるんや。ちょっと雨にぬれても、得しとるやろ。」 そういうセンパイの目は、ギラギラと光っていて、『いいえ』とは言わせない迫力がこもっていた。 これがGⅠを勝ったウマ娘のもつ、胆力というか、迫力というものなんだろうか。 まるでガラの悪いヤンキーじゃないか。 「……胸はともかく、分かったんで、降ろしてください。」 ちょちょちょい!とお決まりのような反応をしながら軽くドツかれたが、タマセンパイは私を地面に降ろした。 観念した私は、ジャージに着替えるために、寝間着のボタンに手をかけた。 「おおー、ええやん!ちょっと肌寒いくらいがちょうどええで!」 イチのジャージを勝手に借りて、ぶかぶかに余らせた袖を捲っているタマセンパイが叫ぶ。 夜も少し深まって、小雨も降ってきたトレーニングコースには、当たり前だけど、誰もいなかった。 「センパイ、そんなデカい服で走れるんすか。」 「おー、今、身長小さいってバカにしよったなぁ?」 うりうり、と言うように肘で小突いてくる。 こうしていると、ただのかわいらしい葦毛のウマ娘にしか見えない。 上下に揺れる青赤のリボンをつけた、身長の小さい、愉快な子だ。 この身体のどこから、すべてをブッちぎる走りが湧き出てくるのか。 私の前をセンパイが小走りでかけていく。 「ほな、ここスタートな。」 タマセンパイが、慣れた様子でダートコースに線を引く。 「それで、距離はどうする?」 こちらに顔を上げて、タマセンパイが私に聞く。 「いや、別に、何mでもいいけど。」 「ほうか。そしたら突然やけど、一つ問題や。」 タマセンパイが指を立てる。 「このダート、一周は何mでしょーか。」 「え、そんなの、別に知らないっすけど。」 そう答えると、またわざとらしく目を手で覆って、あちゃ~、と声を上げている。 「アカン、アカンで、モニちゃん。」 「何なんすか。」 「自分が走るコースやレースの条件くらい、ちゃんと覚えとらんと。」 何を教官みたいなことを言っているんだ。 「ちなみに、正解はセンロクや。」 「は?」 「1600mってことや。」 「良く知ってますね。」 「せやろ?ま、ウチはここのコース、使ったことないんやけどな。」 飄々と言葉を話すタマセンパイに、メラメラと気持ちが湧き立つ。 「さすが、重賞ばっかり出てたセンパイは違いますね。」 「ほうかなあ。ダートも随分前に、走ったっきりやしなあ。」 ワザとやっているのか、それとも天然なのか。めちゃくちゃに煽られていることだけは分かった。 もう、センパイに喋らせたくない。 ここで走って、勝ってやる。 勝って、黙らせる。 「ほな、行くで。よーーーい……」 ドン、という言葉を合図に、思いっきり土を蹴り出す。 そのまま、後先考えないで、全力のハイペースで飛び出した。 スタミナには自信がある。1600m――センロクなら、テキトーにブッ飛ばせば大きなリードが取れる。 勝てないだろう、なんてもちろん思わない。 絶対に勝てる。 ダートのトレーニングコースは、私たちのほうが多く走るからだ。 芝のコースは、タマセンパイ含めて強い子たちに使われてしまうことばっかりだ。 その分、私たちはダートを走る。 経験と慣れでは、絶対に私のほうが勝ってる。 文字通り、土をつけてやる。 借りたジャージをドロドロにして、怒られてしまえばいいんだ! 私の野望は、かくも簡単に打ち破られた。 本当のレースなら怒られるかもしれないような展開だった。 3コーナーに差し掛かったころで、聞こえなかったはずの雷鳴は、もう後ろまで差し迫っていた。 ヤバい、と思ってギアを上げようと思った時には、相手の加速は終わっていた。 追い抜いた後も、そのままスピードを上げていた。 私に格の違いを見せつけるかのように、グングンと伸びていって、私に5バ身以上差をつけてゴールした。 遅れてゴールした私に、余裕綽々とした表情で声をかける。 「おう、最初の勢いは良かったやんけ。」 「まだ、別に、1周目ですから。」 私の返事に、やれやれ、とタマセンパイが肩をすくめる。 「そんなんやからオグリにも出遅れるんや。レースは一回しかないんやで?」 真っ当な正論に、私は黙るしかなかった。 「なんや、なんも言うことないんかい。もう一回とか言うんかと思ったけど。」 どこまで本気で言ってるんだ。 ムリな勝負をふっかけて、確定的な実力差を見せつけて、その上でもっと煽りをかけてくる。 今までトレセン学園で感じたことないほどの熱と怒りが、胸の奥から湧いてくる。 それでも、目の前の勝負に勝ちたい、と思ってしまうのは、ウマ娘だからなんだろうか。 「……もう一度。」 私は、ひねり出すように声を上げる。 「おっ。なんやて?」 「もう一度っす。私はまだ走れるんで。」 タマセンパイはにやり、と笑う。 「ええやん、その意気や。グズるだけあって、諦めるようなヤツではないってことやな。」 「GⅠ取ってるからって、バカにしないでくださいよ。」 「おう、分かっとる。モニちゃんの合図で良いで。」 そう言って、スタートの準備を取っている。 絶対に勝ってやる。 なんなら、相手が潰れるまで再戦して、『勘弁してや』って言っても走らせてやる。 ケンカを売ってきたのはアンタなんだから。 私は、スタミナだけは、あるんだ! 「おうモニちゃん、もう終わりかいや。」 ぜえ、ぜえ、と軽く肩を上下させながら、タマセンパイが私を見下ろす。 あれから何度『もう一度』と言ったのか、このコースを何周したのか、もう覚えてない。 全力で逃げているから、相手が追い込んできているから、そんなレベルの話ではなかった。 ダートだから、芝だから、そんな話でもない。 ただただ、圧倒的に、私の力が足りていなかった。 ショックと疲れで地面にへたり込んで立ち上がれない私に、雨が容赦なく打ち付ける。 「モニちゃん、ウチが何のレースで勝ったか、知っとるやろ。」 思いついても、口から漏れてくるのは荒い呼吸ばかり。 日本で最長の平地G1レースを勝っているその実力は、多少環境が変わったところで揺らぐものではなかった。 悔しい。 それでも、悔しかった。 雨雲が光を反射して、薄明るくなっている空を見つめながら、言葉が漏れる。 「……意味、無いじゃんか。」 「なんや?」 一人でにこぼれた言葉は、もう一度自分に戻ってくるようで、酷く惨めに聞こえた。 「もう、私に、意味なんて無いじゃんか。」 「意味やと?」 「イチも取られて、有利なのにアンタに勝てなくて、もう何にも残ってないじゃん。私。」 タマセンパイはしばらく黙って、こちらに向き直った。 「意味なんかハナっからあるもんかい。最初から、全部諦めがちに取り組んどったんやろって。」 けどな、とタマセンパイは一つ呼吸を置く。 「ええ逃げやった。スタートの反応もいい。ただ、他の能力が足りとらん。」 「いいですよね、センパイは能力が足りていて。」 私が不貞腐れるように答えると、タマセンパイがズン、ズンとこちらに歩み寄ってきた。 へたり込む私の腕を強引に握って、思いっきり引き上げられる。 「うわッ。」 「ウチに能力が足りてる、やと?」 そう言い放つ先輩は、明らかに怒っていた。 「ウチはな、精一杯努力したんや。他の連中を見返してやる、環境なんか関係ない、そう思って、ナンボでも努力してきた。」 据わった目で見つめられて、喉が詰まる。 怖い、と思った。 「他のウマ娘が羨ましくなることもぎょうさんあった。せやけど、やればできると思うて、腐らずにのし上がってきたんや。」 そういい終わると、握っていた手を放す。握られていた場所が、雨に当たっているのに、じん、と熱くなる。 ドスの効いた声で、タマセンパイのこれまでが込められた言葉は、鈍器のように私の心を強く打った。 「……でも、私は、どうしたらいいんすか。」 タマセンパイは、私のすがるような疑問に、すぐ答えた。 「勝つんや。」 「えっ。」 「トレーニングして、勝って、勝って、勝ちまくるんや。」 タマセンパイの顔を見上げる。 「イチちゃん――いや、イチに、レースで勝て。戦績で勝て。タイムで勝て。なんでもええ。勝つんや。」 真っすぐな目で、タマセンパイが私を見る。 「モニちゃんが羨んだらアカン。羨ましがられるようになるんや。」 タマセンパイが、雨に肩を濡らしながら、言葉をつなぐ。 「自分、分かったやろ。モニちゃんは別に、イチのことが好きなんやのうて、羨ましいんや。」 羨ましい。 「自分にはオグリほど自分のことを好いてくれる人がおらん、自分よりも早くトレーナーがついた、自分よりもタイムがいい……他になんか、あるか?」 「……イチは、私より料理ができる。」 「せやな、せやけど、それは全部イチが自分で動き出して、勝ち取ったもんや。」 そうだ。 私は、必死になって何かやっているイチを、高みから動かないで見ていただけだった。 誰かに見てほしくて、その高みにいるのがまるで、大人ぶってるようで、ずっとしがみついていた。 その気持ちを、たまたまルームメイトになったイチにぶつけていただけだった。 「それを羨ましいって言うと自分が弱く見えるから、好きだってことにしてただけや。」 ま、王様気取りでベソかいとっただけってことやな、と言って、上に伸びをする。 「タマセンパイ。」 「おう、なんや。もう一本行くか?」 「私に、レースを教えて。」 「高くつくで。」 「……何したらいいの。」 せやな~、と少し考え込むフリをして、こちらを見る。 「まずは、未勝利戦突破やな。」 「タマセンパイが教えてくれたら、それ、払える。」 「おっ、言うやんけ。」 タマセンパイが、口の片側だけ上げて、こちらに手を伸ばす。 「なぁ、モニちゃん。」 「はい。」 「今、勝ちたいか?」 「うん、めちゃくちゃ勝ちたい。」 センパイの手を取る。 そのまま、グッ、と引き上げられて立ち上がる。 「戦って勝ちたいと思えるヤツ、おるか?」 「いる。顔も身長も、得意なことも知ってる。」 ウンウン、とセンパイが頷く。 握っていた手を一度ほどいて、握手し直す。 「お願いします、センパイ。」 「おう、大船に乗ったつもりで、任しとき。」 その言葉を聞いて、わざと誰もいない空をつま先立ちで見上げる。 「ん、こりゃまた、立派なモーター漁船だなあ。」 「そうそう、後ろにはちゃんと壊れた時用のオールも一緒に……ってコラ!それじゃ小舟やんけ!」 胸を手の甲で叩かれる。 私、このセンパイとならやれるかも。 センパイの雷は、私を高みから引きずり落しただけじゃなくて、どこに行けばいいかも照らしてくれた。 やっと、ここまで落ちてこれた。 今度は何をされても壊れないような、立派な塔を、自分で建ててやる。 二人で特別感に浸っているとき、突然、背後から声が聞こえた。 「ポニーちゃん?タマモ先輩?こんな時間に、雨の中、何をしているのかな?」 振り返ると、懐中電灯と傘を持って、不気味な笑顔を浮かべる寮長が経っていた。 音もなく近づいていた寮長に、二人で声にならない悲鳴を上げて、跳びあがる。 スタートダッシュの速度の差でタマセンパイだけ捕まっちゃったのは、多分、別の話。 私のタイムが次の日のトレーニングで少しだけ良くなったのも、多分、タマセンパイと一緒に走ったから……だと思う。 了 ページトップ 4つ目(≫164~173) SS筆者22/03/27(日) 00 01 37 「おうオグリ、おはようさん。」 とてもよく親しんだ、しかし、朝には聞きなれない声で目が覚めた。 声のした方向に首を向けると、タマ――ルームメイトで、友人で、最高のライバル――が、ジャージ姿でこちらを見ていた。 「どうしたんや、タヌキに化かされたような顔して。」 その場で軽くトン、トンと飛び上がりながら、不思議そうな顔をしている。 「お、おはよう。タマ。」 「おう、おはようさん。」 そのまま肩を入れて、肩甲骨と脚の関節を伸ばし始めた。 いつも私が起きるときにはタマが寝ているから、つい面食らってしまった。 タマがストレッチをしながら、口を開く。 「ちょいとオグリ、朝練付き合ってや。」 「……タマ?」 タマの口から出てきた思ってもいない提案は、寝ぼけている頭をすっかり通り過ぎて、何を言っていたのか分からなくなってしまった。 「ちょいオグリ、珍しく寝ぼけとんな。」 「いや、タマが朝のトレーニングを提案するのは、珍しいな、と……」 「せやろ、今日は気が向いたんや。そら、着替えた、着替えた。」 そう言うやいなや、タマは私のシーツを持ち上げる。 「今日は休みだし、タマはもう引退したじゃないか。」 「せやけど、たまには走らんと身体がなまるねん。ほれ。」 そう言って、私のジャージを取り出して私のベッドに置く。 ずっと競い合ってきたタマとゆっくり走る機会は、中々無かったことに気付いた。 私は、タマの申し出を、喜んで受けることにした。 それから、いつもの朝と同じくらいの時間、いつもよりも少し軽いメニューを、タマと一緒に走った。 いつものような、一人で静かな街を感じながら走るのとは違って、私のものではないもう一つの足音を聞きながら走るのは、心なしか、とても賑やかだった。 誰かと他愛のない話をしながら、ゆっくり、流すように走って、心地よい風を感じる。 タマも、川沿いの知らない風景や、いつもすれ違う犬の散歩をしている旦那さんとの会話や、川に映る朝日を楽しんでいるようだった。 私の前を走っていたタマが、だんだんと歩くくらいまでペースダウンして、こちらに振り返る。 「おお、オグリ、こんなことしとったんやなあ。」 「うん。もう少しペースは上げているが、気分がいいぞ。」 「ほんま良かったなあ。もっと早く聞いとくべきやった。」 ま、そん時はオグリとバチバチやっとったんやけどな、と笑っている。 朝日を背に、朝日よりもギラギラ輝く明るい笑顔で笑うタマは、本当に眩しかった。 「そうしたら、そろそろ戻ろうか。」 私の言葉に、タマは何か都合が悪いのか、きょろきょろと周りを見回す。 「どうしたんだ、タマ?」 「いや、なんでもないんやけどな。」 そう言ったかと思うと、河川敷の土手に、すとん、と腰を下ろした。 「もう少ししゃべってこうや、せっかく休日なんやし、ゆっくり戻ってもええやろ?」 「あ、ああ。いいぞ。」 自分の隣の草むらを、ぽんぽん、と叩くタマの隣に腰を下ろす。 「今日のタマは、なんだかいつもと違うな。」 「せ、せやろか?たまったま早く起きただけやで?」 タマモクロスだけにな!と、いつものタマからは聞かないような言葉が飛び出してくる。 「……タマ、やっぱり、調子でも悪いのか?」 「何言うとんねん!スベったって言外に言うなや!傷つくわ!」 ぎこちない笑顔になったタマの横で、朝日を浴びながら、いろいろなことを話した。 それからしばらく話した後、「おし、もうそろそろええやろ」と、タマが立ち上がる。 「引き留めてすまんかったなあ、オグリ。」 「いや、タマとゆっくり話せて、私も楽しかった。」 そう言うと、タマは、へへ、と鼻の下を人差し指で、恥ずかしそうに擦っている。 「腹も減ったし、帰ろか。」 「そうだな。もう、お腹がぺこぺこだ。」 いつもよりもゆっくりなペースで、学園まで戻った。 ●◇●◇●◇●◇●◇●◇●◇●◇●◇●◇●◇●◇●◇ 「お、朝トレお疲れっす、タマセンパイ。」 「おうモニちゃん、ご苦労さんやったな。」 朝のトレーニングから帰ってきた私たちを、モニー――イチのルームメイトのウマ娘だ――が出迎えてくれた。 気さくそうに挨拶を交わす二人が珍しくて、思わず質問する。 「二人は、仲が良かったのか?」 私の質問に、二人は目を合わせて、にやり、と笑った。 「ちょっとね、いろいろあって」 「せやせや、いろいろあったんや。」 そう話すモニーの目の奥には、一緒に走ったときのタマと、同じような色で燃える炎のような、強い思いが見えた。 思わずタマの方を見やると、一緒にG1レースを走ったときとは異なるが、しかし、モニーが宿しているものと同じような熱を、目の奥に蓄えていた。 思わぬプレッシャーを感じて、背筋に緊張が走る。 「ほんなら、オグリも腹減っとるやろうし、行こか。」 こちらを向いたタマの目は、朝、川沿いで見せてくれた目に戻っていた。 「行くって、どこへ?カフェテリアはこっちじゃないはずだが……」 混乱している私に、モニーが反応する。 「カフェテリアはまだ開いてないっしょ。」 彼女の言葉に、タマがうんうん、と頷く。 二人が阿吽の呼吸とでもいうようなテンポで会話を進めている。 どうにも、話において行かれているような気がしてならない。 「ま、とりあえずついてきて。」 寮の共用ラウンジに近づくと、いつもと違うことに気付く。 遠くからでもわかる、誰だってお腹が空くような、香ばしいいい香りがラウンジから漂っている。 扉を開けてラウンジに入ると、一番大きいテーブルの上に、カフェテリアでしか見られない、『あの』料理が用意されていた。 5重にも積まれた特大ハンバーグ、その下に敷かれたたくさんのナポリタン、添えられたブロッコリーに、ポテトフライ。 その手前には、蓋がされた赤い汁物の器と、大きめのお茶碗に山のように盛られた、白く輝くご飯が用意されていた。 目に飛び込んできた風景に、思わず、お腹が鳴る。 「あっはは、オグリ、反応が早いって。」 モニーがお腹を押さえて笑っている。 「す、すまない。いつもなら、ご飯を食べている時間を過ぎているから……」 「分かっとる、分かっとる。イチちゃんのお弁当やろ。」 タマの言葉に、イチのお弁当を思い出してしまって、またお腹が鳴ってしまう。 ひとしきり笑い終わったのか、涙目になっているモニーが、私を案内してくれる。 「さ、座った座った。」 「こ、これは、どういうことだ、モニー?」 「ええから、手ぇ合わせて、いただきますって言うんや。」 モニーが椅子を引いて、タマが私の肩を掴んで座らせる。 「二人は食べないのか?これは、誰が作ってくれたんだ?」 私の質問に答えず、二人は手を合わせて、ニコニコしている。 「まずは、いただきます、や!」 「そ、いただきます、でしょ。」 「い、いただきます。」 色々な疑問が私の中をめぐっていたが、手を合わせてみると、その疑問よりも空腹が優に勝って、どこかへと消えていく。 二人に聞くのは、これを食べてからでもいいだろう。 それから食べ始めたハンバーグ定食は、それはもう、とてもとても美味しかった。 お肉の味がしっかりと引き立つ、肉汁たっぷりのハンバーグ。 ホロホロと崩れるように柔らかい、どんな風に煮込んだのかもわからない、にんじん。 もちもちと、水分とケチャップのおいしさをたっぷり吸いこんだ食感の、おかずになりそうなナポリタン。 汁物は、味の濃いハンバーグのお皿から寄り道すると、口の中がさっぱりして心地の良い香りが広がる、優しい、透明なお吸い物。 見事に山の形に盛られた白いご飯は、私の好みを知り尽くしているような、完璧な炊き具合だった。 朝から、こんな素敵なものが食べられるなんて。 私はどれだけ幸せなのだろう、と思っているうちに、お箸は止まるどころか、加速していった。 「それじゃ、本日のシェフのご紹介です~。」 モニーの声に顔を上げると、キッチンのほうを指さしている。 その指先の向くところから出てきたのは、髪の毛を三角巾の中にきちんとしまったエプロン姿の親友だった。 「イチ!」 初めて見るイチの料理姿が何故か嬉しくて、思わず立ち上がってしまう。 「ちょっと、オグリあんた、まだ食べてる途中じゃん。」 「す、すまない。エプロン姿のイチがかわいくて、つい……」 私の言葉に、タマとモニーがなぜか後ろに首を勢いよく向けたかと思うと、肩を細かく震わせている。 「……お粗末様でした。」 イチは居心地が悪いのか、手を後ろに視線を横に向け、手を後ろで組んでいる。 キッチンが暑かったのか、顔が真っ赤になってしまっていた。 「……ケーキは、午後ね。まだ、お昼にもなってないから。」 「ケーキもあるのか!」 「うん、そっちは、私だけじゃなくて、クリークさんのお手伝いもあるから、美味しいはず。」 イチの言葉に、私は首を振る。 「このハンバーグもとても美味しいぞ、イチ。」 「うん、まあ、ありがと。」 皆が、笑顔のままイチを見ている。 しばらく誰も何も言わなかったが、モニーがイチに合図を出している。 「ねえ、イチ、言うこととっとと言いなって。」 イチはそれでも横を向いたまま、肩だけ、もぞもぞ、と動かしている。 それからしばらく、沈黙が流れた後、イチが口を開く。 「お誕生日、おめでとう。」 イチの言葉に、横の二人が手を、パン!と一つ、大きく鳴らす。 そうしたかと思うと、二人で『ハッピーバースデー、オ~グリ~』と、バースデーソングを歌ってくれた。 イチも、真っ赤な顔のまま、少し遅れて、歌ってくれている。 タマの突然の誘いですっかり忘れてしまっていたが、自分の誕生日であることを思い出した。 3人の心遣いに、心が強く打たれる。 私は、とても良い友人を持った、と思った。 「ありがとう、みんな。とても嬉しいよ。」 「……別に、その。」 そういって、イチが下を向く。 モニーがやれやれ、と言った様子で、イチにツッコミを入れている。 「イチ、あんたね、別にってのは無いでしょ。」 「……誕生日なのに、別に、は無かったね、ゴメン。」 「素直に、オグリのために心を込めて作りました、って言えばいいじゃないの。」 モニーの提案に、イチが噛みつく。 「ね、ねえ!ちょっと、モニー、あんた、バカ!」 「ば、バカは無いでしょ、バカは!」 今にも言い合いが始まりそうになった矢先、タマがするりと間に入って、二人の距離を腕で開けている。 「オグリの誕生日なんだから、素直になんなさいよ、イチ。」 「す、素直って、簡単に……!」 「なんなら、ずっとアナタのことが好きです、って言っちゃえばいいのに。」 茶化すようなモニーの言葉に、イチの顔がさらに赤くなる。 タマは何も言わずに、ただ二人の距離を、楽しそうな笑顔を浮かべながら開け続けていた。 「好きですって、ちょっと、アンタっ。」 「ホントのことじゃん、こないだなんかタマセンパイ追い出してさ。」 「それは、そのっ。」 二人の言葉に、私も以前、タマにお願いしたことを思い出して、恥ずかしくなる。 「ハイハイ、お二人さん、そこまでや。」 タマが二人の会話に割って入る。 「そういうわけで、誕生日おめでとさん、オグリ。」 「ありがとう。もしかして、タマが私を朝のトレーニングに誘ったのは……」 「そういうこっちゃ。イチちゃんの手際がいいお陰で、無理に引き延ばさんでもよくなったんや。」 タマの言葉に、言い合いをしていた二人が静かになる。 「ちゃんと前々日くらいから準備してたのよ?」 「せやで。イチちゃんなんかなあ、ハンバーグのタネを仕込むのに、えらい丁寧に時間かけてたんやから。」 「そうそう。ハンバーグだけじゃなくて、にんじんの丸ごと煮も、スパゲッティも、茹でブロッコリーも、やたらこだわっちゃって……」 「せやせや。ベジブロス、やったか?ちゃんと作りたい言うて、カフェテリアの人に頼み込んで圧力鍋やら赤ワインまで、無理言って借りてきたんやで。」 「そんなにこだわってくれたのか、イチ。とっても美味しかった。」 何故か、イチが顔を赤くしたままうずくまる。 「あの……もう、洗い物したい……」 「ホントすごいこだわりだったよ、イチ。」 「ほんまになあ。そうや、ナポリタンは……」 タマが何か言いかけようとしたとき、うずくまっていたイチが、勢いよく立ち上がって、テーブルを指さした。 「いくら誕生日で、いくらオグリが良く食べると言っても、朝からこんな量は迷惑だったでしょ!」 目尻に何故か涙を浮かべて、大きな声を上げている。 迷惑だなんて、そんなことは全くない。 イチの料理は、いつも、どんな料理でも、本当に美味しくて、ずっと食べていたいと思うくらいだ。 素直な私の気持ちを、イチに伝える。 「いや、イチの料理なら、私はまだまだ食べれるぞ。」 私の言葉に、イチは、うぐっ、と苦しそうな声を上げる。 「大丈夫か、イチ?」 「あんまり食べ過ぎて、体調でも崩しちゃえばいいのよ!」 これ以上は無いんじゃないか、と思うくらい赤い顔で、イチが私を指さす。 私の言葉が聞こえているのかいないのか、目を白黒させているイチに、タマとモニーが首を傾げた。 「いや、そないなことは起きへんやろ。」 「そうっすよね、オグリが体調を食べ物で崩すことはないっしょ。」 二人が似たような手つきで、イチにツッコミを入れている。 困っている様子のイチを助けるべく、なんとか、フォローの言葉を入れる。 「……あっ、いや、でもお母さんからもらって、ずっと大事にとっておいたおにぎりを食べた時は、さすがにお腹を痛くしたぞ。」 そういうと、二人は黙ったままこちらを向いて、やれやれ、と言った様子で、私にも同じように手の甲を当ててきた。 「ど、どうしたんだ、二人とも?」 「いや、なんちゅーか。」 「似たもの同士だよね、二人。」 イチは、口を開けたまま固まってしまった。 何とかイチをほぐしてあげなければ、と思った私は、お箸でハンバーグを一口分取り分ける。 そのままイチの手を取ってこちらに寄せる。 「ちょっ、オグリ、何して。」 「イチ、あーん。」 言われるがまま、というより、元々開いていた口にハンバーグを入れる。 タマとモニーが、わっ、と口に手を当てて驚いている。 固まっていたイチも、もぐ、もぐとハンバーグを食べ始めた。 「どうだ、おいしいだろう。」 しばらく食べていたイチが、飲み込んでから口を開く。 「……確かに、おいしい。」 「私の親友が、誕生日の私のために作ってくれたんだ。」 「いや、その……そう、だね。」 「うん。ありがとう、イチ。最高の誕生日プレゼントだ。」 私の言葉に、少しイチの口元が緩む。 やっぱり、イチには笑顔が良く似合う。 「イチ、一つ、言いたかったことがあるんだ。」 「何、オグリ。」 私はしっかり息を吸って、はっきりと、イチに伝えた。 「イチ、ごはんのおかわりは、あるだろうか?」 少し笑顔が戻っていたイチの目が、私の言葉に、また白黒に戻る。 しかし、少し間をおいて、ふふ、と笑った。 「……しょうがないな、あるよ。どのくらい?」 「最初と同じくらいで、頼む。」 うん。 イチは、「しょうがないな」と言いながら、私の大きなお茶碗を受け取って、キッチンの方へ向かってくれた。 了 ページトップ Part10 その1(≫154~159、161) SS筆者22/04/21(木) 21 49 11 「……あれ。」 「わっ。……ああ、モニーじゃないか。」 「こんな時間に何やってんの、オグリ。」 「いや、それは……」 「もしかして、私と同じ?」 「そうだと思う。なんだか、眠れなくなってしまって。」 「珍しくね?オグリってメッチャ寝つきいいって、タマセンパイ言ってた。」 「うん、私もそう思うんだが……今日は、目がさえてしまった。」 「さては、ハラペコ?」 「モニーはすごいな。タマみたいにお見通しだ。」 「いやいや、お腹鳴ってるし。それで、なんでラウンジなんかにいるの。」 「……最初は、外に出れば何か買いに行けるんじゃないか、と思ったんだ。」 「それで玄関に行ったけど、まあドアが開いてなくて、戻ってきた、みたいな?」 「敵わないな。本当にタマみたいだ。」 「そうだとしても、電気くらいつけたらいいじゃん。」 「どこにスイッチがあるのか、実は分からなかったんだ。」 「なにそれ。」 「モニーはどうしてここに?」 「……別に。何か寝れなかっただけ。」 「そうだろうか。それにしては、ずいぶん怖い顔をしているぞ。」 「……あんたも、十分タマセンパイみたいじゃん。」 「そ、そうか?なんだか、照れるな。」 「褒めてな……いや、褒めてることにしとくわ。」 「それで、どうして。」 「……はぁ。あのさ。」 「うん。」 「オグリって、レースの前日、緊張する?」 「レースの前日に?」 「そ。……いやー、なんか恥ずいわ。」 「恥ずかしがることはないだろう。……そうだな、緊張するというより、わくわくする気持ちのほうが大きいかもしれない。」 「……そ。スゲーね、やっぱ。」 「タマがどう思っているかは分からないが……私と、きっと同じじゃないだろうか。」 「いや、タマセンパイはああ見えて結構、緊張しいだよ。」 「そうなのか?意外だな。」 「うん、自分で言ってた。」 「最近、モニーとタマは一緒にトレーニングをしていると思うんだが。」 「げっ、なんで知ってんの。」 「この間、偶然見かけたんだ。」 「……まあ、ちょっとね。アンタも、イチと良く真面目な話、してんでしょ。」 「うん。最近のイチは、どんどん強くなっているんだぞ。」 「……知ってる。いつか、一緒に走ることになるんかな。」 「そうかもな。私は二人が一緒に走るところを見てみたい。」 「……いや、御免こうむるわ。」 「なんか、私もちょっと、お腹減った気がするな。」 「おお、本当か。しかし、どこに食べ物があるのか、分からなくって……」 「……お、食べ物、あるかもよ。」 「どこにあるんだ?」 「キッチン。普段イチとクリークちゃんくらいしか使う人いないけど、ちょっと入ってみようよ。」 「そうだな。何かあるかもしれない。」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「どれ、お邪魔しますよっと。」 「電気は……これか。」 「わっ、眩し……うわ、キレー。」 「本当か?……おお、本当だな。」 「イチ、あんなナリしておいて、結構几帳面なんだなー。」 「ああ、そうだぞ。筆入れの中身や、教科書の揃え方が綺麗なんだ。」 「いや、聞いて無い、聞いて無い。」 「そ、そうか。すまない。」 「ルームメイトと仲良くしてくだすって、ありがとうございます。」 「それを言うなら、私も、モニーがタマと仲がいいのは、とても嬉しいぞ。」 「ばっ、あれは仲いいとかじゃなくて、シテーカンケー?なの。」 「シテーカンケー?」 「いいでしょ、もう。ほら、冷蔵庫開けてみよ。」 「あ、ああ。そうだな。」 「どれどれ……うーわ、すーごい量のタッパー。」 「作り置きでいっぱいだな……カレー、ひじきの煮物に、これは肉じゃがだろうか。」 「なんで、どれもちょっと小さめなんだろう。」 「そうだな、たくさん作っておいた方が楽そうだが。」 「ね。どうしてだろ。」 「……見ていると、ますますお腹が空いてくるな。」 「……食べちゃおっか。」 「……いいんだろうか。」 「ちゃんと洗えば、まあ、いいんじゃない?」 「ううむ、クリーク、イチ、すまない。」 「私は……あ、これなんかがいいな。」 「モニーはこういうのが好きなのか。」 「ちょっと、オヤジ臭いとか言わないでよ。」 「私も好きだぞ、ちくわとキュウリ。」 「アンタはなんでも食べちゃうでしょって。」 「イチとクリークが作ってくれたものは、より美味しいしな。」 「分かる。とりあえず、肉じゃが、チンするわ。」 「お箸は……これか。」 「とりあえず、いただきます。」 「いただきます。」 「……ねえ。」 「どうした、モニー?」 「ちょっと、その、話せてよかった。オグリがイチと仲いい理由、ちょっと分かった気がする。」 「私も話せてよかった。またお互いに寝れないときがあったら、今度はタマの話を聞かせてくれ。」 「……タマセンパイとは、オグリとイチみたいなんじゃないから、面白くないっしょ。」 「そうじゃなかったのか?」 「だから、シテーカンケーだって。」 「ううむ、難しいな。」 「……はい、これでオッケー。それじゃ部屋、戻るか。」 「うん。おやすみ、モニー。」 「ん。おやすみ、オグリ。」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「きょ、今日はお弁当が無いのか!?どうしたんだ、イチ。」 「……昨日の夜、キッチンにネズミが湧いたのか、キレイにおかずがなくなってたんです。」 「そ、そうなのか。」 「ごていねいにちゃんと全部洗ってくださって。」 「う、うん。」 「個人的にはそのネズミ、毛色が灰色じゃないかな、って思ってるんだけど。」 「は、灰色だけじゃないぞ。」 「……だけ、ねえ。」 「……あっ。」 「……。」 「い、イチ。その。」 「今日は朝ごはん、抜き。それと、夜ちゃんと食べること。」 「すまない、イチ……」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「なんやモニちゃん、青い顔して。」 「すみません、ちょっと胸やけが。」 「胸やけ、て、寝る前に何か食べたんか。」 「あ、いや、そういうわけじゃ? ないんですけど。」 「そうやなあ。モニちゃんがそんな、オグリみたいなこと、するとは思えへんしなあ。」 「そ、そうですよ!」 「昨晩は最後、何食べたんや?」 「えー、ちくわにキュウリさしたやつですね。」 「なんや、エラいおじさんっぽいもの食べたんやな。」 「いや、たまたま見つけちゃって。」 「カフェテリアでそんなもん出しとったんか?」 「んー、あー、まあ、そんな感じです?」 「ほーん。ま、ええわ。ほんなら今日も走り込みからやってこか。」 「えっ。」 「レース近いんやろ。ほれ、いくで!」 「ちょ、ちょっと待ってください、わき腹がーー!」 了 ページトップ その2(≫189~192) SS筆者22/04/26(火) 00 27 15 「……おはようさん。」 「わっ。……なんだ、タマモ先輩じゃないですか。」 「ジャマするで、イチちゃん。」 「こんな深夜にどうしたんですか。」 「それを言うたら、イチちゃんこそキッチンで何しとるん?」 「なんか、寝れなくなっちゃって。スマホいじってたら、なおさら寝れなくなって。」 「そうやったんか、実はな、ウチもやねん。」 「タマモ先輩もですか?」 「せやせや。脳みその裏の方が、なーんかチラチラ光ってしゃあないねん。」 「そういうとき、ちょっとありますよね。」 「それで、イチちゃんは明日の仕込みかなんかか?」 「はい。どうせ3時間後には起きてるので、今やっちゃおうと思って。」 「ホンマ感心するわ。」 「……そんなに感心されるようなことじゃ、ないです。」 「誰かのためにメシ作るんは、結構大変なことやで?」 「それはそうですけど、私のはちょっと、事情が。」 「事情なあ。」 「……そうです。」 「タマモ先輩、やっぱ寝たほうがイイですって。」 「なんや、ウチのボケは眠気でキレが落ちるって言うんか。」 「さっきもよくわかんないこと言ってましたし、ほんとに。」 「んあー、やっぱ眠気には勝てないのねー、なんてな。」 「あくびしちゃってるし。良かったら、ちょっと味見程度に食べていきますか?」 「いや、ウチはもともと食べられへんからなあ……なんなら、ちょっと作らせてほしいわ。」 「え、タマモ先輩、料理するんですか。」 「せやでー。家ではチビたちによう食べさせたもんや。」 「えー、そうだったんですね。」 「どれ、冷蔵庫を拝見……あれま、モヤシあるやん。これ借りてもええ?」 「いいですよ、どれ使ってもらっても大丈夫です。」 「ほな、それじゃこれと……お、春雨。ネギに、おお、はんぺんもあるやんか!」 「……味は醤油としょうが、お砂糖でいいですか?」 「おおー、イチちゃん、分かっとるやん。」 「あれっ、お肉はいらないんですか?」 「お肉なんて高くて買えたもんちゃうわ。一軒家が建ってしまうで。」 「別に、使ってもらって大丈夫ですよ。」 「ええねんええねん、あんがとさん。」 ●○●○●○●○●○●○●○●○ 「どれ、タマモクロス特製、もやしと春雨のうま煮や!」 「……わ、お肉無いからもっとしょっぱくなっちゃうかな、と思ってました。」 「どや、うまいやろ。」 「もやしとはんぺんは庶民の味方や。」 「……なんか、やっぱり、私の料理よりあったかいですよ。タマモ先輩の。」 「ほんまか?どれ、ウチももらうで。」 「あっ、ちょっと、それは私の。」 「う~ん!なんや!めっちゃ美味しいやんけ!」 「それは、クリークさんから教えてもらったからで。」 「いやいや、こんなんを毎日食べれるオグリは幸せもんやな~。」 「……そうでしょうか。」 「せやで。オグリに『もっと感謝せえ』くらい言うたれ。」 「……ありがとうございます、タマモ先輩。」 「な、なんや。真面目な顔して…… 恥ずかしいやんけ。」 「いや、なんか、その。一緒に料理出来て良かったな、って。」 「そか。イチちゃんも、モニちゃんに負けんように頑張ってな。」 「はい。ありがとうございます。」 「……どれ、そろそろ片づけて部屋戻ろか!おっかない寮長にカミナリ落とされたらたまらんからな。」 「後片付け、やりますよ。」 「そうはいかへん、そしたらどっちが早く戻れるか競争や!」 「え、わ、タマモ先輩、洗剤そこじゃないです!」 了 ページトップ
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レベル5あたりから取れる特殊スキル Shift押して任意の場所にアンカーひっかけて引っかけた場所まで高速移動するスキル Shift押しっぱでホールドできるから位置調節できるがホールドしているといい的 移動中にも当然攻撃は当たるから撃ち落されることもしばしば しかもアンカーの距離には限界がある。レティの色でわかるからしっかり距離を把握しろ SPも当然消費するからご利用は計画的に。 基本的に引っかけられない場所はない。地面でも壁でも天井でもどこでも刺さる 使いどころ 奇襲に使う。いきなり横や裏から出て行ってダガーなりプラズマソードなりブチかましてやれ。 攻撃の最中にいきなりアンカーで飛翔してみるのもアリだがHPないときはやるな死ぬ。 TDではボールを所持してSPに余裕がある場合ゴールまで一瞬でとべる。タッチダーウンwwwwwwwwwwwwwww 所持していない場合でもやっぱり奇襲に使える。敵陣地に突撃してアース投げてやれ。ぼっかーんwwwwwwwwwww vipではスタイリッシュさを追求しトリックが重視されている。アンカー() トリックができないやつはとっとけ。できても試しに取っとけ捗るまじで トップアンカーになるとTDで活躍できるがやっぱりトリックのほうがかっこいいねせやね 小ネタ アンカー使うときにアンカー発射せずシフト押しっぱにして スペース押すとアンカーキャンセルしてジャンプできる SPの続く限りできるから3段ジャンプくらいまでは余裕でできる マリオもびっくりやで 対策 近接武器で殴る アンカスが調子乗ってる部屋あったらレールガンでレイプしろ ST2ならどこでもアンカス撃てるように橋壊しとけば王道の柱に隠れながらゴール上にいくやつが蜂の巣
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目次 目次Part16(≫184~189)≫183より派生 Part17その1(≫62、≫64~66)≫35より派生 その2(≫155)≫153より派生 Part18その1 ”0日目”(≫35~39) その2 ”1日目”(≫47~52) その3 ”2日目①”(≫63~67) その4 ”2日目②”(≫71~75) その5 ”2日目③”(≫82~86) その6 ”最終日①”(≫93~97) その7 ”最終日②”(≫103~105、109) その8(≫155~159) その9(≫179)≫177より派生 その10(≫186~187) Part19(≫118、≫121) Part20その1(≫73~77) その2(≫97、≫99~108、≫110~115) その3(≫169~170) Part16 (≫184~189)≫183より派生 ≫183 二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 20 42 10 なあイチ、寒くなってきたから何か温まる料理を作ってくれないか 了船長22/10/07(金) 03 23 43 ≫183 「……うん?」 「んん、なにかおかしなことを言ってしまっただろうか」 「いや、アンタがリクエストするの珍しいなって」 「そうか…… そうかもしれないな。いつも、イチが作ってきてくれるから」 「夏にもそんなこと言われたような」 「ああ、ナスの入ったそうめんか! イチは何でもよく覚えているんだな」 「なっ、別に、アンタが一人で思い出してるだけでしょ」 「おお、そうか」 「んもう、待ってて、なにか作ってくるから」 「ふふ」 「何よ、エプロンつけるのがおかしいんですかっ」 「エプロンを手に取るイチがさまになっていて、かっこいいなと思ったんだ。もう一度見たいくらいだ」 「別に見せようと思ってません。……何ニヤついてるのよ」 「いや、イチと将来一緒に暮らせたら、とても幸せだろうなと思ったんだ」 「なっ、ばッ、あんた何を」 「……あれ、イチ?」 「もういい! バカっ!」 「あっ、イチ! ……ううむ、ストレートな言い方ではイチに逃げられてしまうんだろうか…… タマの言うとおり、ズバっと言ってみたのだがな……」 ……あったかいもの。 朝のお布団。クリークさんと作って食べるできたての朝ご飯。朝日が柔らかく照らす校門前のベンチ。早朝トレーニングを済ませてきたオグリ。南中の太陽が当たる教室。トレーニングしているときの自分。夕日の差すミーティング中のトレーナー室。お風呂。夜のお布団。 トレーニングが終わって、更衣室ですれ違うオグリ。たまにタマモ先輩。部屋で寝転がってるモニー。夜食にありつこうとするオグリ。あいつの手、いつもあったかいな。 あったかいものを探すと、必ずオグリの顔や後ろ姿が思い浮かんでは首を振って解消しようと試みる。理由は分からないはずだと一生懸命自分に語りかける。それもこれも、あのギャル軍団とモニーがからかってくるからいけないんだ。何かに付けてオグリギャルだ通い妻だって、余計なことを言ってくる。 何が『将来一緒に暮らせたら』よ。アイツもまるで余計なことしか言わないじゃない。どうして私が、一人だけでこんなに困らなきゃいけないの。あんな澄ました顔でしれっと言い放つなんて、ズルい。私だけモヤモヤさせられる。 私は今でも何をしたらいいか分からなくて、あんなにみっともなくオグリの前で思いを吐露したにも関わらず、未だにキッチンに立っているっていうのに。 アイツばかり、次に何をすればいいかが分かっているような気がしてならない。私だってそうなりたい。 すっかり熱を帯びた手を冷やそうと、桂剥きしている輪切にした大根の回転スピードをあげる。作り始めた頃はできるわけないと思っていたけど、すっかり慣れたものだ。みるみるうちに皮がまな板の上に落ちていく。……まだ、お母さんがやるよりは分厚いけど。 できたそばから片方だけに十字の切れ込みを入れる。こうすると、味の染み込みが良くなって美味しい。赤々としたにんじんもたっぷり切る。 ガスコンロで火にかけておいたお鍋のお湯に大根を入れて、下茹でする。その隣では卵を入れた雪平鍋が、くつくつ、と弱火で一生懸命卵を温めている。またその隣では、昆布のだし汁にいっぱいの鰹節を入れた大きなお鍋が、ぐらぐら、と煮えている。 下茹でしている間に、別の料理で使おうと思っていたちくわと厚揚げ、こんにゃくを冷蔵庫から取り出す。練り物は食べやすいけど満足感のあるように切り、こんにゃくは切ってから塩を振っておく。こうすると、臭みのもとが余計な水分から抜けるのだ。と、お母さんが言っていた。 それぞれ下準備をしている間に、お出汁から鰹節を引き上げる。ザルの上からギュッとお箸で絞り出して、美味しいところを余さず使えるようにする。丁寧にすくいだすと、お鍋の底まで綺麗に透き通った、琥珀色のお出汁の完成だ。 出来上がったお出汁にお醤油、みりん、お塩とお砂糖を入れておつゆにする。ちょっと味見を一つ。……うん、美味しい。しょっぱい。このくらいがちょうどいい。 お出汁に大根、厚揚げ、こんにゃく、たまごの順に入れ、沸くまで中火で火にかける。ぐつっ、と沸いたらすぐ弱火に直す。ここから、50分くらい待つ。 そのあとはちくわとかの練り物やお肉類。今回はお肉が無いから、入れてからは短めに仕上げてしまってもいいかな。 待っている間に、剥いた大根の皮をポン酢につけ込んで浅漬けにする。ザクザクと切る音と、クツクツとお鍋が煮える音がキッチンにこだまする。 別に、本当ならここまでやらなくてもいい。スーパーまでひとっ走りして、おでんの素を買ってきてやってさっくり作ってしまえばいい。私は料理が好きなだけで、手をかけてこだわるのが好きなわけじゃない。 お金も時間も手間もかけて作った料理を、わざわざ写真に撮って誰かに見せびらかすような趣味もない。ご飯を作るのに一番大事なのは、やっぱり美味しく栄養を取れて、お腹いっぱいになることだと思う。 誰かに食べてほしいとか、自分がこだわりたいとかだったら、それはまた別の話だけど。 出汁を一から取るほど時間をかけているのは、アイツに一分でも多く空腹感で困ってもらうためだ。これは私のアイツに対する、小さな復讐。ワケわかんないこと言って混乱させてきたんだから、せいぜいお腹を空かせてるといいわ。 ついでに私もおいしいもの、食べたいし。 物思いにふけりながら包丁と手を動かしていたら、大根の皮を切り終えた。まとめて浅漬けの素に放り込む。あとはおでんが煮えるのを待つだけだ。 ……つい勢いでおでんにしちゃったけど、食べてくれるかな、アイツ。薬味は何が好き…… いや、苦手なんだろう。 私は冷蔵庫の中に、ゆず胡椒やカラシが残っていないか、探してみることにした。 準備を始めてから1時間半以上。ようやく、出汁からすべて自分で料理したおでんの出来上がり。 蓋を取ると、ふわりお出汁の優しい香りが部屋を包む。換気扇に全部持っていかれてしまうから、逃がさないようにすぐに消す。 にんじんを一切れ菜箸でつまんで、味見。わっ、熱い。口の中で少し冷ましながら、少し噛む。じゅわっ、と甘味とお出汁があふれてきて、これも熱い。 あったかい料理にしては、ちょっとやりすぎちゃったかな。 とんすいとお箸、れんげをを二人分持って、オグリの待つ机まで小走りで向かう。果たしてオグリは、すこししょげたような様子でそこにいた。私を見かけると、耳をピンと立たせて、顔がぱっと明るくなる。 「イチ!」 「何、そんなに期待したような顔して」 「ずっと待っていたんだ。もしかしたら、本当に怒ってしまったのかと思って……」 そう言うやいなや、また耳が倒れる。ずっと待ってたなんて、犬か、まったく。 「そう思うんなら、もうふざけて言わないでよ」 「すまなかった、イチ」 私がもたなくなっちゃうから、と言いかけた理由をぐっと飲み込む。ずいっ、と持って来た食器をオグリの前に置いてやる。 「もしかして、お鍋か?」 「まだナイショ」 「だが、もう出来たんだな!」 「そうね、それはできてるわ」 機械に電源が入ったかのように、ぶるぶるっ、と身体を震わせている。思っていたリアクションと違ったので、少しだけギョッとした。 「ああ、待ちきれない。イチのお鍋料理が楽しみだ」 「オグリね、お鍋なんて正直なところ、スープの素に野菜とお肉と、適当に放り込んで煮ただけの料理なのよ」 よせばいいのに、自分の――本当は自分だけじゃなく、この世のお鍋料理すべてを――くさすような言葉が口から漏れてしまう。そんな自分に、少なくない嫌気と後ろめたさが生まれて残る。でも、オグリはそんな私のみっともない言葉も意に介さない様子で、私の目を見つめていた。 「それでも」 オグリはそう強く言い切って、一つ息を吸った。 「それでも、誰かが誰かのために、時間も手間もかけて作るものが料理だと思う。作り方が楽とか、そういったものは関係が無いとも思う」 オグリは、あの日私の部屋で、二人きりで話した時と同じような目をしていた。 「一人でも自分自身のためだし、二人以上ならなおさらだ。その料理はきっとあったかくて、素敵なものだ」 あっ、でも冷たい料理だったらどうなるんだろうか…… と、余計な言葉を挟みつつ。 「私は、イチの料理が楽しみだ。もし叶うなら、毎日食べたい」 そう言い終わると、ぐぅ、とお腹のなる音が響く。オグリがお腹と後頭部に手を当てて、恥ずかしそうに微笑む。 「どうやら、私のお腹もそう思っているようだ。早く食べよう、イチ」 私は、目の前のスーパー・スターがまぶしすぎて、座っている彼女の顔を真っすぐ見ることすらできなかった。何と答えればいいかもわからなかった。 けれど、おこがましいことはわかっているけれど、きっとこの人はそんな自分も受け入れてくれてしまうのだろう――――あの時みたいに、とも思った。 うつむいたまま、頭に浮かぶ言葉をそのまま音にする。 「……おでん」 「……イチ?」 「お肉のない、ヘルシーなおでん。今日の献立」 私は顔を上げて、オグリの顔を見る。私が強くなるための、もう一歩。 「ちゃんと出汁から全部作ったから。脂は少ないけど、ちゃんとおいしいはず」 オグリの返事を待たずにまくしたてる。 「残したりしたら、許さないから」 アンタは、とても強くて大きいから。 「明日の分まで食べちゃってよね」 色んな人に支えられた私の料理は、必ず美味しいと思うから。 「鍋敷きかタオル用意して待ってて、持ってくる」 キッチンの方へ振り向いて、歩き出す。 私だって、次に何をすればいいか分かるんだから。 私だって、貴方を満たしてあげられる。 あったかいものが冷めないうちに、私はキッチンまでの道を、少し足早に歩いて行った。 了 ページトップ Part17 その1(≫62、≫64~66)≫35より派生 ≫35 二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 19 41 54 この前食べさせてもらったおでん、とても美味しかったぞ。でも、その……すまないが、お肉も食べたいんだ。わがままを言ってすまない。 了船長22/10/15(土) 00 15 45 ≫35 「……」 「どうしたんだイチ、そんな目をして」 「なんでもないわよッ」 「待ってくれ、怒らせてしまったのか」 「普段から野菜ばっかりでごめんなさいねッ」 「そういうわけじゃないんだ、イチ!」 「座って待っててッ」 「また、行ってしまった…… ううむ、タマ、素直に食べたいものをリクエストするのも良くないようだぞ……」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 図々しいったらありゃしないわ、オグリのやつ。この間作ってもらったからっていい気になって。 オグリより、頼まれたら断れない自分の方にムカムカする。モニーがそばにいたら「惚れた弱みね」とかしたり顔で言ってくるに違いない。ますます気持ちがつのる。 そんなんじゃないし。 誰かに「お腹が減った」って言われたら、誰だって見て見ぬふりできないでしょ。 誰にも聞こえないように毒づきながら献立を考える。このままオグリのリクエスト通りにお肉を使うのは癪に思われて、どうにか的をずらしてやろうと必死に考える。 冷蔵庫を開けてみるけど、やっぱりというべきか、お肉料理をたっぷり作れるほど買い込んでいるわけではなく、牛こま切れ肉が1パックだけ。本当はクリークさんがカレー用に冷凍してくれているお肉があるんだけれど、他の人の食材を勝手に使うのはためらわれる。許してくれそうだけど。 う~ん…… いきなり頼まれたけど、少ししかできませんでした、なんてのは自分のプライドが許さない。どうしたものかと思い、業務用冷蔵庫の迷宮をもう少しだけ探検する。 すると、灯台下暗しとはこのことか、いつも食べているのに思い出せなかった「お肉の宝箱」に出会うことができた。これだ。 宝箱の包装をはがし、八等分に切る。それらをキッチンペーパーの上に置いて水気を吸わせておく。 その間に、玉ねぎをくし切りに、ごぼうはささがきにしてお水につける。 お醤油、みりん、酒をそれぞれ大さじ4くらいで合わせて濃いめに味付け。砂糖も同じ量で2回いれ、お水も計量カップの三分の二くらい。菜箸で軽く混ぜながら砂糖を溶かし、フライパンに流し入れる。 中火にかけて、ごぼうを入れておく。くつくつ、と沸くのを待って、沸いてきたら脇に寄せる。空いたスペースに主役たち、牛肉を入れてやる。 でも、主役たちの出番は長くない。色が変わったらすぐ引き上げる。ゴメンね、ちょっと待ってて。開いたところに玉ねぎを入れて、また一煮立ち待つ。お肉のうまみとすき焼きみたいな香りがキッチンに漂う。もうこれだけでも美味しそう。ちょっと水気が多すぎたから、タレを追加で入れてあげる。 玉ねぎに火が通ってきたら、真っ白な宝箱を崩れないように、優しく入れてあげる。ごぼうと玉ねぎをまた脇に寄せて、本当の主役の登場だ。色も相まって、とっても輝いている。 宝箱同士の隙間を埋めてあげるように具を敷き詰めて、アクをとる。一通り取り終わったら、蓋をして10分間ぐつぐつ煮る。そのうちに、洗い物。料理の途中に洗い物をできる料理しかやりたくないよね。 まな板と包丁、生ごみをまとめたらちょうど10分。蓋をあけると、ふわりと湯気が膨れ上がって、換気扇に吸い込まれていく。その真ん中にいる私は、いい香りをたっぷり堪能した。うん、我ながらいい出来。宝箱も美味しそうな色に染まってくれた。 ここで、取り出しておいたお肉をお鍋に戻す。こうすることで、お肉が固くならずに美味しく食べれるようになる。温めるのと、食中毒防止のために、火を落とさずにもう2分間しっかり煮る。 出来上がったら、宝箱に煮汁を数回かけてあげて盛り付ける。 オグリのやつ、お肉たっぷりを期待してるなら、がっかりするといいわ。 「……あっ、イチ」 「お待たせ。……なんでアンタがへこんでるのよ」 「イチを怒らせてしまったんじゃないかと思ったんだ」 「怒ってないですッ」 「怒ってるじゃないか」 「怒ってないったら。はい、これ。お望みのお肉料理よ」 「これは、肉豆腐か」 「お肉はお肉でも、『畑の肉』よ。たっぷりなんか食べさせてあげないから」 「ありがとうイチ。色のついた玉ねぎも、とても美味しそうだ。いただきます」 「はい、召し上がれ。……わっ、何よ」 「おいしい!」 「……そ」 「とっても美味しいぞ、イチ! イチも一緒に食べないか?」 「なっ、私は作ったんだから、いらない」 「それは違うぞ、イチ。このお皿には、お豆腐が8個入っている。1パックを切ってそのまま調理しているはず」 「……だから何よ、私が多めに作って食べたかもしれないでしょ」 「ううん、そうしたらもっと時間がかかっていると思う。さあ、ほら。美味しいぞ」 「お箸も一膳しか揃えてないから」 「私がイチの口まで運べば大丈夫。さあ」 「ちょ、ちょっと、もう、分かったから」 「うん。待ってくれ、熱いかもしれない…… よし。冷ましたぞ」 「そこまでしなくても…… あ、あー……」 「どうだ、イチ。美味しいだろう」 「はふっ、はっ…… うん、美味しい」 「イチが作った料理だからな。とっても美味しいんだ」 「……」 「どうしたんだイチ、そんな目をして」 「……ありがとう」 「ん、イチ? もう一度……」 「なんでもない」 「何か言っていなかったか」 「なんでもないったら」 「そ、そうか…… じゃあ、もう一口どうだろう。代わりばんこに食べよう」 「ちょっと、もういいって」 「一緒に分けよう。私ばかり食べていたら、不公平だ」 「私が出してるんだから、別にいいってば、ね、垂れて汚れるからよしなさいって」 「イチの料理を一緒に食べたいんだ。もう一つお箸を持ってこよう」 「食べてる間に席を立ったらお行儀悪いでしょっ」 「それもそうだな…… うん、やはり代わりばんこに食べるのがいい。ほら」 「なっ、あ、あーん……」 「いつもありがとう、イチ。やっぱり、将来もイチの料理が食べたいな」 「……そうですか。お粗末様でした」 「まだ食べ終わっていないぞ?」 「なんて言えばいいかわかんないの! オグリの、ばかっ」 「ふふ、今はそうでもいいかもしれない」 「良くない!」 了 ページトップ その2(≫155)≫153より派生 ≫153 二次元好きの匿名さん22/10/28(金) 02 52 01 自分の中のモニちゃんのイメソンです 「もう意外と辛いのに」の部分でおや?と思いました なので落書きしました 引用元 https //bbs.animanch.com/storage/img/1111171/153 了船長22/10/28(金) 21 24 42 ≫153 「ほなモニちゃん、出かけるで」 「は、出かけるってどこにですか」 「どこもヘチマもないねん、着替ええ。撮影に行くっちゅーことや。ほれ、おいてくで~」 「撮影? なんも聞いてないですよ、待ってって」 ○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○● 「やあ、タマにモニー。遅かったじゃないか」 「すまんオグリ、モニちゃんがダダこねてしもうてな」 「こねてねえっす。イチもいるじゃん」 「なんか、オグリに無理やり引っ張られて……」 「サプライズパーティちゅうわけやないけど、即席撮影会や。うちらの雑誌の表紙を飾ってもらうで」 「タマモ先輩、私たち、重賞も走ったことないのに」 「ええねんええねん、ウチらばっかり取られたら不公平や。二人にも格好良く写ってほしいよなあ、ってオグリと話しとってな」 「そうだ。さあ、モニーから順番だ」 「控室はこっちな。メイクさんに顔整えてもらお」 「ちょ、ちょい、タマセンパイ、小さいのに力つっよ!」 「小さいは余計や!」 ○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○● はーい、じゃあまずはアップで一枚撮りまーす。これだ! と思う表情を作ってくださいね 「そんなこと言われてもな」 準備ができたらいつでも言ってください 「うーん……じゃあ、これで」 おっ、挑戦的でいいですね。それでは撮ります。カメラの中を見るように、視線ください。 了 ページトップ Part18 その1 ”0日目”(≫35~39) 了船長22/11/05(土) 23 01 51 私は日本ウマ娘トレーニングセンター学園――「中央」トレセンの――生徒だ。 走るのが特別好きってワケじゃなかったけど、ここ一番だけ頑張ってみっか、と試験やレースで少しだけ頑張ってきた結果、ここにいる。 取り立ててメチャクチャ強いとか、速いとか、そういうことは一切ないけれど、私はここで生活している。 色んな能力を積み上げていこうなんて熱意もないし、これから頑張って成り上がってやろうというような気概もあんまり無い。 真剣に取り組んでないのは失礼だろう、中央の学生なんだからヘラヘラするな、ってご意見もよーくわかる。でもこの通り結果は出しているんだし、これは才能でしょ。ときっと私は胸を張る。 私のことを恨む人がいるなら、どうぞご自由に恨んでほしい。『人を呪わば穴二つ』なんて言葉はまるっきり嘘で、呪われて落ちるほうは気にしすぎ、呪ってるのに落ちるほうはただの準備不足なだけだ。私はそう信じて疑わない。 「どうして」も「こうすれば」もない。タイミングを見逃さずにチャンスへ飛び掛かって、するべき時に自分のできることを全力でする。結果は後からついてくる。もっと言えば、その人の能力に見合ったところまでしか出てこないから、事実上決まっているようなものだ。 悩む暇があったら行動するべきだし、可能なら準備を整えて飛び出すべき。そうすれば、後は多少手を抜いてもうまくいく。 誰かに合わせて自分の気持ちや行動は変えなくていい。相手がどう思っていようと、私のスタンスを変える必要もない。私の調子を決めるのは私で、何がベストかを決めるのも私だ。 私を本当に祝福できるのは私だけだ――まあ、いい結果が出た時に褒められるのは、悪い気持ちにはならないけど。 とにかく、私はそうやってここまで来て、ここに居る。 その日、私の目覚めは最悪だった。起き出すときの様子が、いつもと違いすぎているからだ。 いつも通りだったのは、私が起きたときにルームメイトの姿が部屋にもういなかったところだけ。 違ったのは、どんどんどん、とドアを叩く大きな音が部屋に響いていたこと。びっくりして跳ね起きる。スマホを確認すると、いつもよりも2時間以上早い。 寝ぼけてる目でドアを見つめたあと、タオルケットに包まり直す。でも、鳴りやまない。ドアを叩く音はむしろ強くなってもいた。加えて、私の名前まで呼ばれ始めた。 ああもう、なんで同室のレスアンカーワンじゃないんだ、と思う。早朝に起き出して何かしてるのはそっちの方です、私は寝てるハズなんです。 身体を起こしてスリッパを履く。名前を呼ばれてしまったら反応しないわけにはいかない。ワザとゆっくりドアまで歩いて、ドアノブに手をかける。 ノブを回し切った直後、扉が勢いよく開け放たれた。柄にもなくわっ、と声が出る。 視界に飛び込んできたのは、エプロンを握りしめながら肩で荒い呼吸を繰り返し、涙目になっているGⅠウマ娘――クリークちゃんだった。 「モニーちゃん、助けてください」 そう言って、私の手を取る。悪意があるわけじゃなかったけど、驚いてしまった私は思わず、抵抗するように腕を引いてしまった。それでも、クリークちゃんはすがるようにして、手を放してくれなかった。 「なんなん、一体」 「イチちゃんが、イチちゃんが」 焦りと涙でえづいてしまい、うまく喋れていない。とにかくこの人を落ち着けてないとことが進まないと思い、肩をさすって落ち着いてもらえるよう手伝う。 「イチがどうかしたの」 「イチちゃんが脚から血を流して、倒れて」 「えっ」 「イチちゃんがキッチンで倒れていたんです、真っ青で」 言われた数秒間、時間が止まったような気がした。自分の耳を疑う。 「マジで?」 「はい、一緒に朝ごはんとお弁当を作っていたら、突然」 包丁を持ったまま倒れちゃったんです、と息も絶え絶えになりながら話している。あまりにショックだったのだろう、話しながら彼女もふらつき始めた。さする手で肩を掴んで支える。 「ちょっ、大丈夫?」 「私は大丈夫なんです、けれど、イチちゃんが」 「イチは今、キッチンにいるんだよね」 私の問いかけに力なく頷く。彼女を部屋の中に引き入れて、ベッドに座らせる。 「フジさん呼んでくる。ここで座ってて」 「でも、私も」 「まずは落ち着かんとでしょ、後でまた呼びに来るから」 それだけ言って、部屋を飛び出す。納得するまで説得し続けたら、倒れてるらしいイチにたどり着くのが遅くなる。 私は朝日が差し始めて薄暗くなった寮の廊下を、校則をまるっきり無視して、レースさながらのスピードで駆け抜けた。 今思うと、フジさんを起こすために寮長室のドアを叩きまくった私とクリークさんは、よく似ていたような気がする。唯一違っていたのは、部屋から出てくるスピードくらいなものだ。 珍しく髪の毛がハネていたフジさんだったけど、イチがキッチンで倒れてるそうです、と伝えると表情が切り替わった。 「モニーちゃんが最初に気付いたのかい?」 「いや、クリークちゃん」 「今どこにいるのかな」 「私の部屋で休ませてる」 うん、とフジさんが神妙な顔で頷く。 廊下を走りながら情報交換を済ませる。風紀委員が見たら驚くスピードだ。凄いスピードで二人とも走っているのに、私の気持ちは目的地のキッチンから少しずつ離れていった。想像できないものは、見たくない。 でも走っていればいずれはたどり着く。その先では、見慣れたルームメイトが真っ青になって、薄暗い中でも銀と黒に光輝く恐ろしい刃物と一緒になって倒れていた。その脚からは赤黒く小さい粘性をもった液体が一筋、つらりと垂れてもいた。 脚が傷ついているのを見ると、私はともかく、フジさんも少なからず、自分の命が脅かされたような気持になっているようだった。 「モニーちゃん、傷口を」 「救急箱とか?」 「うん、確かその戸棚」 少しだけ震えた声でフジさんが指示を出す。それを聞いて、私もすぐに反応する。私もフジさんも緊急事態に対応するのが得意なんじゃないか、と現実逃避めいたことを考えてしまう。 救急箱の中からガーゼと絆創膏を取り出して、気を失っているイチに向き合う。一つ息を大きく吸って、ぐいと力を込めて傷口をガーゼで押さえる。そのガーゼの上からフジさんが包帯を手早く巻いていく。 二人とも無言のまま手早くイチの左半身を下側に向け、頬の下に手を添わせる姿勢に直す。 「そうしたら、私は宿直の警備員さんを呼んでくる。モニーちゃん、ありがとう」 「ん、クリークちゃんの様子を見てくる」 「うん。二人で休んでいて。大変だったね」 別れの言葉もそこそこに、キッチンを足早に離れる。まだ解決したわけじゃないから、私も安心できなかった。 部屋に戻ると、少し回復したのか、平静を取り戻したクリークちゃんが迎えてくれた。 「イチちゃんは」 「大丈夫、フジさんが人を呼んできてくれるから」 「ありがとうございます」 「いや、ヘーキです。ウチらも休みましょ」 時計を見てまだまだ寝直せるくらいの時間だと判断した私は、タオルケットに包まりなおした。私たちにとって大事件過ぎて、想像よりも長い時間が経っていたように感じられた。 いつもはスマホを見続けないと寝つけなかったのに、この時ばかりは、目を閉じた途端に気を失うようにして眠りについた。 ページトップ その2 ”1日目”(≫47~52) 了船長22/11/06(日) 23 04 16 もう一度ベッドの上で目が覚めたあとも、それはまるで釈然としない一日だった。 いつも通り朝の身支度を済ませて鞄を手に取るけれど、頭の裏がチリチリと小さく燃えているような感覚が止まらなかった。あんなものを見てしまったら、心配せずにはいられない。 部屋を出ると、なんとなく脚がキッチンの方に向く。ドアから覗いてみるともうそこにイチの姿はなく、何もなかったかのように片づけられていた。 唯一、イチのスマホだけが台の上に残っていた。それだけ回収して、鞄に入れる。手に取って画面に表示されたロック画面には、メモアプリのスクリーンショットが表示されていた。 どんだけマジメなの、あいつ。 スーパーへの買い出しのメモだろうか、食材の名前がずらりと、それも野菜ばかり書き連ねてあった。どうしてそんな食材ばかりが書いてあるのか、さっぱり分からなかった。 どうせ毎朝アホみたいに早い時間に起き出して料理するんなら、野菜料理じゃなくて美味しいもの作ればいいのに―― そのメモと今朝の惨状に思考が引っ張られてしまったせいか、授業にもトレーニングにも、まるで身が入った気がしなかった。どうせ普段から全力投球、って感じではないんだけど。 朝に時間をとてつもなく遅く感じた分、昼間の時間が逆に素早く過ぎていくようだった。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 一日の終わりに寮の自室へ戻ると、イチが自分のベッドに横たわって眠っていた。 てっきり病院か保健室に送られたのだろうと思っていたから、ドアを開けて目に飛び込んできた光景にギョッとする。 イチは顔を青くして、眉間に重そうな皺を寄せて、もがくように苦しそうな呼吸を繰り返している。時折、んん、とこらえるような声。脚が寝ていても痛むのか、と思ってかけ布団を少しめくって脚を見ると、綺麗に巻き直された包帯が目に入る。 どうして倒れてしまったのかは分からないけれど、なにかにひどく苦しんでいることは明白だった。 眉間の皺だけでもとってやりたいと思って手助けできそうなことを探すけど、まるで思いつかない。せめて、スマホだけでも充電しておこう。 カバンからイチのスマホを取り出して、サイドテーブルから伸びた充電ケーブルに差し込む。慰めるつもりで、オグリのぬいぐるみのすぐそばに置いておく。いつか皆で出かけた時に、私が取ったものだ。 私はクレーンゲームが楽しいから取っただけで、「サイドテーブルにでも置いとけば」とか言ってぬいぐるみ自体はイチに押し付けた。 タマセンパイも乗っかって、「アンタがこれ持ってき」と言っていた。 実際、イチがどれだけこれを気に入ってるのかは知らないけれど、時折手に取ってじっ、と眺めるときもあるから、少なくとも悪いようには思っていないハズ。 改めてぬいぐるみを見直すと、呆けたような、まるで罪のない顔が私を見返してきていた。 イチがやっているようにぬいぐるみとにらめっこをしていると、とんとん、と部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。 ドアの方に振り向いて、開いてますよー、と少し声を小さくしながら返事をする。 「突然すまない、お邪魔してもよいだろうか」 ドアを開けたのは、ぬいぐるみがそのまま大きくなったようなウマ娘――オグリキャップだった。ぬいぐるみと同じように、罪のなさそうな顔をしている。 部屋に入って来るやいなやベッドで寝ているイチに気付いたのか、驚きと心配が織り交ざった表情に切り替わる。 「やっぱりか」 「やっぱり?」 「今日はまだ、イチに出会っていなかったんだ」 そう言いながら、イチのベッドのわきに膝をつくように屈む。 「いつもは毎朝、イチに会うから」 「毎朝?」 オグリの言っていることがイマイチ飲み込めない。やたら早起きするイチが、どうやらオグリキャップと毎朝会っているらしい。 朝という言葉と、オグリの共通点を考える。早朝の自主トレに出ているのは有名な話で、こちらに移籍する前もとても熱心だったことはトレセンの皆が知っている。 私が黙り込んでいると、話が分からなかったと思ったのか、オグリが屈んだままこちらに向き直る。 「実は、毎朝お弁当を届けてくれるんだ」 「は?」 「ずいぶん前からだと思うんだが、私が早朝のトレーニングから帰ってくると待ってくれている」 並列するにはふさわしくない単語が二つ聞こえ、私の脳は輪をかけて考えることにリソースを割き始めた。朝に、お弁当。しかも待っているらしい。 朝からトレーニングするオグリに料理を届けるには、少なくとも同じ時間かもっと早くに起き出さなければいけない。今朝、イチが倒れていたのはキッチンで、エプロンをつけていた。 そもそも、どんな弁当を作るって言うんだ。この健啖家を弁当一つでおとなしくさせるには、とんでもない量を持っていくか、硬いとか味気がないとか、はたまた嚙み切れないような食材を使って、満腹中枢をひたすら刺激するしかない。 そんな食材、この世にあるワケ――いや、スマホのロック画面。 「その弁当って、野菜ばっかし?」 脳裏に浮かんだ仮説を確かめようと、やや興奮気味に質問を投げかける。 「そ、そうだ。イチから聞いたのか?」 オグリの反応を差し置いて、まるで推理小説のクライマックスを読んでいるときのような、謎が一気に解ける快感が脳の中を駆け巡った。 確定じゃあ無いけれど、イチの行動が腑に落ちた――わざわざオグリに野菜だらけの弁当を早起きしてまで差し入れているらしい。 そこまでやるなんて、やっぱり恋心か。嫌がらせのつもりでやるなら、他の人が見ているところで差し入れるほうが効果的なんじゃないだろうか。 「苦しそうな顔をしている…… 心配だ」 イチのおでこに手のひらを当て、顔を伏せている。 「まあ、たまたま貧血とかだったんじゃないの」 オグリの声で現実世界に戻ってこれた私の浮ついた返事に、うん、とオグリが頷く。 「立ち寄ったとこで悪いんだけどさ、イチのこと見ててくんない? シャワー済ませたい」 「分かった。モニーが戻ってきたら私の番だな」 イチをオグリに任せて、私は浴場へ向かった。 お風呂場まで来たものの、浴槽に浸かる気分でもなかった。元からじっくりお湯に浸るような性分でもないのも相まって、シャワーですませて浴場から出る。 髪と尻尾の水気を取りラウンジで少し休憩していたら、知り合いの子から「寮長が探してたよ」と話しかけられた。サンキュ、とだけ返事して寮長室に向かう。 朝よりは控えめに寮長室の扉を叩く。開いているよ、と声が響いた。 扉を開けると、腰かけていたフジさんが立ちあがって私を招き入れた。 「一日お疲れさま、モニーちゃん」 「ども、お疲れです。朝はありがとうございました」 「いいや、モニーちゃんのおかげだよ。とても助けられた」 お茶でもどうかな、とフジさんがポットにお湯を入れ始めた。水で大丈夫です、と返事する。 「イチちゃんの様子はどうかな」 「メッチャ苦しそうに寝てます。今はオグリが看病中」 「そうか…… 毎年、何人かはいるんだよね。無理をしてしまう子が」 自分の分のお茶と、私の分のお水を見つめながら声に出す。 「イチのやつ、いつもめちゃくちゃ早く起きてるんすよ。もっと寝とけばいいのに」 「そうなのかい?」 「どうも、オグリに毎朝弁当差し入れてるみたいです」 へえ、とフジさんが顎に手を添える。 「そんな頻繁に、どうしてだろうな」 「さあ、イチが起きたら聞いてみますよ。メニューも野菜料理ばっかしみたいだし」 「野菜?」 そう伝えると、フジさんは顎に手を当て、ふむ、と何かに考えを巡らせ始めた。 静かになってしまった部屋で水を数口飲んでいると、フジさんの視線を感じた。傾けたコップの影からちらりと覗くと、彼女と目が合う。予想していたけれど少しギョッとする。 「おんなじこと考えてますかね」 「もしかしたらね」 「無理しちゃう理由って、好きだからですか?」 「いや、憎いからという時もある」 はあ、と息を吐きだして椅子から勢いよく立ち上がる。 「水、ありがとうございました。オグリと代わってきます」 「そうしてきて。こちらこそ、来てくれてありがとう」 寮長室を出て、自室へ向かう。今朝走ってきたときと同じ道筋をゆっくり歩く。 あのマジメでお堅そうなレスアンカーワンが、オグリキャップに恋? 意外とカワイイところあるんじゃん。恋愛にはあんまり興味なさそうだし、なんならウブっぽく見えたけど。 部屋でイチの顔を見つめているであろうオグリを思い浮かべると、良いペアなんじゃないだろうかと思う。ライバルは多そうだけど。 自室の扉を開けると、果たしてそこには、私が思い浮かべていた通りにイチの顔をのぞき込むオグリがいた。 「お帰り、モニー」 「遅くなってゴメン、フジさんに呼ばれてた」 交代するよ、とオグリの肩を叩く。 「イチ、起きてなさそうだね」 「ずっと苦しそうだった」 寮長室で考えていたことが頭に引っかかって、私もオグリの横顔を意識してしまう。コイツ、マジで美人だな――ルームメイトが寝込んでいるというのに、少しばかり浮かれた気持ちになる。 部屋から出かかったオグリが、モニー、とこちらに振り返る。 「イチが起きたら、教えてくれ」 「あい、分かった」 オグリを見送ってばたん、と扉が閉まる。時折うめくイチと、部屋で二人きり。 消灯の時間ではないけれど部屋の電気を落として、スマホを手にベッドに横たわる。 おやすみを言う相手のいないさみしさの代わりに響く画面を叩く音。その日は、普段なら読み終わっても眠くならないネットの記事が読み終わる前に眠りに落ちた。 ページトップ その3 ”2日目①”(≫63~67) 了船長22/11/06(日) 23 04 16 薄明るい部屋で目が覚める。いつもならイチが開けるはずのカーテンは、今日もまだ閉まっていた。 身体を横に向けて隣のベッドを見やる。うずくまるような姿勢に変わっているけれど、相変わらず眠っているイチがいるだけだった。私はベッドから起き上がり、カーテンを開け放った。朝日が目にいきなり飛び込んで来て、思わず目を閉じる。 眩む目に視界が戻ってきたころ、部屋の変化に気付いた。スマートフォンの場所がズレている。一度は起き出して触っていたらしい。 もう一つ、妙な違和感を覚えた。サイドテーブルが広くなっている。正確に言えば、スマートフォンだけが机の上に乗っていた。側に添えていたぬいぐるみが消えていたのだ。 寝ぼけて落としたのかな、と思ってテーブルの裏を覗き込む。イチがマメに掃除するからか、ホコリも被っていない綺麗な床が見えるだけだった。 一体どうして――まさか、捨てた? ゴミ箱を覗き込んでみたけれど、何も入っていない。たまに見つめるくらいには気に入っているようだから、そんなワケはない、と心の中でつぶやく。もちろん、ベッドの下にもいなかった。 昨日の夜の寮長室の話が思い起こされる。恋か、その対偶か。 自分はてっきり、恋心だとばかり思っていた。不器用なマジメ屋さんのレスアンカーワンが、地方から来たヒーロー、しかも流行の中心人物に惚れこむ。かわいらしいストーリーだ。 けれど、本当はぬいぐるみを見えないところに捨てるほど憎んでいたとしたら――いやいや、それじゃあいつも見つめていたことの説明がつかないでしょ、と自分で否定する。 部屋の真ん中に棒立ちになって、目の前のベッドでうずくまるイチを見下ろす。私は、この数分間で、彼女のことが分からなくなっていた。 とりあえず、オグリには何も言わないでおこう―― 考えにふけっていた私の頭に、校内の予鈴が容赦なく時間を知らせる。私は何にもまとまっていない思考を部屋において、慌てて寮の玄関口へ向かって飛び出した。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 釈然としない一日。それは昨日の話だ。今日は、受け入れ難い一日だった。 私は誰かのせいで自分のパフォーマンスが下がるような、そんなヤワなウマ娘じゃないと思っていた。これまでのレースも逃げまくって勝っていたから、私は一人で強くなれると信じていた。 そんな自分のアイデンティティを否定されたような気がしたからだ。ルームメイトがちょっと分からなくなったって言うだけで、小テストもトレーニングのタイムも何もかも、目に見えるように調子が落ちていた。極めつけは、私物のパソコンがエラーを出しまくったこと。――これは、私のせいじゃない。 どんなに調子が悪くても空腹感だけは一丁前に主張をしてくるようで、肩を落としながらカフェテリアの列に並ぶ。ハンバーグを見ると、またお腹がぐうと鳴る。 言葉通りつつくようにハンバーグを小さく切って、口に運ぶ。おいしいから、いいか。 こんな小ささで切ってたら時間がかかりすぎる――と思っていたら、おう、と声をかけられた。 「お疲れさん、モニちゃん」 「あー、タマセンパイじゃないすか。そっちはオグリ?」 そうだ、とおかずの山の向こう側から声が聞こえる。オグリが手に持っている食事量は、朝食を食べられていないからか、普段よりご飯もおかずもうず高く積まれているように見えた。 二人が机の向かいに座って、いただきます、と唱えて食べ始める。そういえば言ってないな、とばつが悪くなったので、いただいてます、と二人にならう。 「モニー」 「ん?」 「あれから、イチは起きただろうか」 オグリの目が料理の山の向こう側からかろうじて見えるくらい食べ進めたとき、オグリに質問される。部屋から消えたオグリのぬいぐるみのことを思い出し、本当のことを答えるかどうか少し逡巡とした気持ちになる。素早く口にハンバーグを放り込んで、噛んでいるふりをしながら考える時間を稼ぐ。 さて、どっちで答えるべきかな―― 「いや、見てないね」 「そうか……」 「クリークから聞いたで、えらいこっちゃな」 「寝返りは打ってるっぽかったけど、多分起き上がっては無いと思うわ」 それらしい理由を取ってつけて、ウソをつく。オグリは絶対に心配する。昨日の夜に会話したぶんだと、おそらく不調になるくらい落ち込むだろう。この私が堪えてるくらいだから、オグリはなおさらだ。 「イチちゃんなら大丈夫やって、オグリ。アンタに似て身体の丈夫な子やから」 「私もそう思う。だが、それでも心配だ……」 言葉尻に口が進むにつれ、オグリの箸の動きが遅くなっていく。言い切るころには、左手で持っていたどんぶりご飯をお盆に戻し、肩も首も落としてしまっていた。 「うわ、珍しいな」 悪気は全くなかったけれど、目の前の光景につい、正直な気持ちを呟いてしまった。 彼女の顔を見つめながら、オグリキャップが食事中に箸を止めるほどにまで、レスアンカーワンというウマ娘は彼女に影響を与えていることを知った。 「元気だしいや、オグリ。アンタが落ち込んでもイチちゃんが元気になるわけとちゃう。いつも通り食べて、イチちゃんが起きた後には、いつも通り迎えてあげようや」 タマセンパイの言葉に、うん、と少ししおれたような声で返事をしている。すると、ブルブルと震えた後にガタッと椅子から立ち上がり、腕を肩と同じ高さまで上げ始めた。 「ほっ、ほっ、ひっ、ふー」 「何それ」 「元気を出すおまじないだ。イチにも届いていたらいいな」 タマセンパイと二人で、呼吸をくり返すオグリを見上げる。見つめているうちに私たちにも、食べ進めるだけの元気が湧いてきた。 「なんか協力できることがあったら言ってな、モニちゃん」 「あい、ありがとうございます」 私は、いただきますを言い遅れたご飯の席で、ごちそうさまだけはみんな一緒に合わせて言うことができた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 扉の戸板を叩く。こんこん、という軽い音が響く。少し関西の訛りが入ったような返事が、扉の向こう側から返ってくる。 「はいはいはいー、と……お、モニちゃんやないか」 「お疲れ様っす」 入り入り、と扉を開けようとしてくれるタマセンパイの上から、それ以上開かないように手で扉を掴む。少し屈んで、耳に向かって小声でささやく。 「オグリっていますか」 タマセンパイは耳をピクリと動かし、声の調子を合わせてくれた。 「いや、今はおらんで」 「今、オグリが何やってるか知ってますか」 「風呂行っとる。行ったばかりやから当面は返って来んで」 あざっす、と声の調子を戻して返事する。タマセンパイも部屋の中に迎え入れてくれ、私はオグリの座るベッドに腰かけた。タマセンパイは自分のベッドの上であぐらをかくように座った。 「どしたんや、モニちゃん」 「相談に来ました、イチとオグリのことで」 うん、と準備していたようにタマセンパイが頷く。ヒソヒソ話をした段階である程度検討はついていたのだろう。 「どんな内容や」 「実は、イチが昨日――今日の夜中に、起き出してたっぽいんです」 私の言葉に、ホンマか! と驚いている。 「なんでそう思ったんや」 「昨日寝る前にイチのスマホを充電しといたんですけど、それがずれてたんです。あと、ぬいぐるみが無くなってて」 「ぬいぐるみ?」 「ちょっと前に、皆で外出した時にクレーンゲームで私が取って、タマセンパイがイチに渡したやつです」 うーん……と首を10度くらいだけ横に傾けた後、そんなんあったなあ、と言って目を見開く。思い出したみたいだ。 「置いてたとこの向こう側とかに落ちただけとちゃうんか」 「いや、ベッドの下まで探したんですけど、完全に無くなってて」 私の返事のあと、しばらく、部屋の中を沈黙が漂う。タマセンパイが腕を組んで、何か考えている。 「……まさか夜中のうちに、イチちゃんが捨てた言いたいんか」 「でもそれしかなくないですか?」 そうなんよなあ、と言って、天井を仰ぎ見る。 「そしたら今夜もまた起き出すかもしれんなあ」 「私もそう思うんすよ。だから見張りをつけたいと思って」 「寝ずの番かあ」 うーん……と、首を今度は縦方向に、けれど90度くらい傾けるようにして考え込む。 「フジがええって言うかやな」 「言いますよ、頼めば絶対」 前のめりに説得を図る私の姿勢に、タマセンパイが腕を組んだまま、先ほどよりも深くうなる。 ページトップ その4 ”2日目②”(≫71~75) 了船長22/11/08(火) 23 09 36 「ま、頼んでみよか」 しばらく悩んでいたタマセンパイが顔を上げる。私もその返事が嬉しくて、思わずベッドから立ち上がった。顔色を伺う限りいささかの心配は残っているようだけれど、腹を決めてくれたらしい。 「モニちゃんだけで一晩中はしんどいやろ、何人か協力してもらおか」 「助かります、クリークちゃんは乗ってくれると思います」 「クリークなら安心やな。オグリも心配やろうし、戻ってきたら当番決めよか」 「ダメ!」 タマセンパイが出した名前に、私は反射的に食いついた。驚いたタマセンパイがベッドの上で小さく跳ねる。 「オグリはダメです。呼んじゃマズい」 「なんでや」 「なんでもです。話がややこしくなるんで」 「どういうことや」 「どうしても」 理由を知ろうとして、タマセンパイから繰り返し飛び出してくる質問すべてにノーを突き付ける。私はタマセンパイが折れてくれるまで同じ流れを反復した。 そうこうしている内に、ただいま、という声と一緒に湯上りのオグリが帰ってきた。私たちはヒュッと息を吸って黙り込み、目線だけを合わせてこれまで何もなかったように振る舞う合図をした。 「やあ、モニー」 「おす、ジャマしてるよ」 「二人ともどうしたんだ、そんなに肩を張って」 「なんでもないねん、ほな、ちょいと出かけてくるわ」 あまりにも不自然な流れで、タマセンパイが部屋の外に出ようとする。 「どこに行くんだ?」 「あ~、ちょいとフジに用があんねん」 「私も行こうか、タマ」 ついてこさせちゃゼッタイにマズい。私は慌てて会話に割り込む。 「いやいやいやいや、私が行く。部屋戻らなきゃいけないし。あ~、オグリはその、尻尾と髪、乾かしときな」 「分かった。あっ、そのまま部屋に戻るのか?」 「うん」 「少しだけ待っていてくれないか」 そう言うと、オグリはドアを閉めることすら忘れ、半開きのまま部屋を飛び出していった。タマセンパイと顔を見合わせて、安堵のため息を一つつく。扉を締め直しながらタマセンパイがつぶやく。 「ウチらの息、ぴったりやったな」 「助かりました」 「理由は知らんけど、オグリに聞かれたらよくないらしいっちゅうことだけは分かったからな」 この辺の察しの良さはさすが年長者だ。一つしか違わないなんて思えないほどしっかりしている。 「今のうちにクリークに連絡しといてくれへん?」 私はスマホを取り出して、寮長室まで来てもらうように手早くメッセージを打ち込んで送信した。たまたまタイミングが良かったのか、すぐに『わかりました』と返事が返ってくる。 オグリに言われた通り、部屋で待ち始めて5分。もう行っちゃいませんか、と言おうとしたまさにそのとき、慌てた様子でオグリが戻ってきた。 「待たせてしまってすまない。これをイチに届けてくれないか」 手に持った白い花を一輪、私に差し出す。タマセンパイも目を丸くして花を覗き込んでいる。 「どこから持って来たんや」 「美化委員の人に貰って来たんだ。何か、お見舞いに合うものは無いかと頼んできた」 「ガーベラか。ええ色やな」 白いガーベラを注意深く受け取る。しっとりしているが、上に向かって伸びる花弁を見つめながら、私はこの花が「ガーベラ」という名前を持っていることしか分からなかった。 それでも、目の前にいる二人の毛色に似た光を放つそれは、たとえ一輪でも強い意志と希望を感じさせていた。 「部屋に花瓶、あったかな」 私の独り言に、オグリがはっ、と息を呑む。 「そ、そうか。すまない、また少し待っていてくれるか。すぐ借りてくる」 言いながら後ろを向き、また今にも部屋を飛び出そうとするオグリの腕を、タマセンパイが掴む。 「ええってええって、フジに言うたら借りれるやろ」 「そうそう。花、ありがと。イチのベッドの側に置いとくよ」 「よろしく頼む。早く、良くなってほしいな」 「それじゃ、おやすみ」 「ほな、ちょっとの間だけ留守番頼むで」 オグリに軽く手を上げ、タマセンパイの部屋から立ち去る。私たちはフジさんの部屋に向かって、真っすぐ歩きはじめた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 昨日の夜とほぼ同じ時間、また寮長室の、しかも同じ椅子に私は座っていた。淹れてもらった水も同じくらい減っていた。昨日と違うのは、机の上にガーベラを差した花瓶が置いてあることと、私の側にもう二人生徒がいること。 「つまり、夜、イチちゃんが起き出しているかもしれないから、皆で看病したいということだね」 そうです、と私は間髪入れずに答える。クリークちゃんも私の隣で、うんうんと頷いてくれている。 「脚を切ってしまったのに、お医者さんのOK無しで歩き回るのは危ないですから、すぐ近くに誰かいたほうが良いと思うんです」 毅然とした声と面持ちでクリークちゃんが意見する。いつものふんわりとした、語尾を伸ばすような喋り方からは想像できない、固い意志を感じさせる調子だった。 ゆっくりと私たちの話を聞きこんでいたフジさんが、おもむろに口を開く。 「モニーちゃんの話だと、イチちゃんはオグリのぬいぐるみを自分でどこかに置いてきてしまった……」 そうつぶやくと、ふむ、と顎に手を当てて何かを考え始める。 「部屋にはぬいぐるみは無かったんだよね?」 「ゼッタイ無いです。部屋の外にあるのは間違いない」 「イチちゃんの脚の傷の様子は見たかい?」 「見てないですけど、ぬいぐるみをどかしたいだけならベッドに寝たままでもできますよ。部屋の外に出すには歩くしかない」 そうだよね、とフジさんがもう一つ小さくつぶやくと、また考え込むモードに入った。 机の上に視線を向けるフジさんを見つめながら、私は昨日の話を思い出していた。この学園の子が無理をしてしまう理由は二つ。好きだからという理由と、憎いからという理由。 今朝の出来事が起きるまでは、「まさか、イチに恋バナがあるなんて」と無邪気に楽しんでいた。しかし、改めて一つ一つ状況を解きほぐすと、もしかしたらもう一つの方だったのかもしれない、と思わざるを得なくなってきた。 それまで傷つける素振りも無かったものに人に知られず手をかけたくなるような衝動の名前を、私はまだ知らない。私はそれが怖くて、それに従ったイチのことも少し不気味に思ったし、心配にもなった。 それを知りたい気持ちと、それは違うと言ってやりたい気持ち。その二つが私の中でせめぎ合っていた。 「……分かった。看病してもいいよ」 じっくり考えていたフジさんが顎から手を外し、私たちを見る。 「ありがとうございます。良かったぁ」 クリークさんが安堵したように、いつもの口調に戻る。そのゆったりとした響きが、私たちの気持ちにもいくばくかの安心感をもたらした。しかし、私たちの緩んだ気持ちを律するように、フジさんの凛とした声が部屋に響く。 「ただし、あんまり遅くまで起きているのは良くないから、午前3時までにしよう。3時間ずつで交代にして、11時から午前1時までがモニーちゃん、1時から3時まではクリーク、タマモ先輩は……」 「ウチはオグリの番やったるわ。慌てて何かしたがるかもしれんし、そっちのストッパーになる」 うん、とフジさんが頷く。 「クリークは途中からになるけど、それまでに何か準備とかはせず、きちんと休むんだよ」 「はい、わかりました~」 「何かあったら、必ず私に知らせてね。良いことでも悪いことでもいいから。常に起き出せるようにしておくよ」 作戦会議は着々と進み、各々の役割が決まる。連帯と使命感が私たちの間で共有され、不思議な熱気を醸し出していた。 ページトップ その5 ”2日目③”(≫82~86) 了船長22/11/09(水) 22 50 40 「あのっ」 その熱にあてられてしまったのか、私は思わず声を上げて真っすぐに立ち上がり、全員の顔を一瞥する。その場にいる全員の目が私に向く。そのまま、恥ずかしい気持ちが湧き上がってくるのを感じながら頭を少しだけ下げた。 「みんな、ありがとう」 「そんな、どういたしまして~」 「モニちゃんが言うてくれんかったらこうはならんかったんや、気にせんでええって」 「そうだね。モニーちゃんのおかげだ。素直に助けを求めてくれて、ありがとう」 三人の言葉に、ますますばつが悪い心持ちになってしまう。『誰かのために、他の誰かにお願いをする』という経験も気概も無かったからだ。 そんな場の空気を初めて吸った肺と脳が、情報を処理しきれずに混乱する。 「別に、そんなワケじゃ」 「モニーちゃんのおかげです、いいこ、いいこ」 「ちょっと、何」 「うふふ、よく頑張りましたね」 クリークちゃんが、まるで子供をあやすかのように目線の高さまで膝を曲げて、頭を撫でてくる。 別に、頑張ってなんか――むしろ、他人に自分のできないことを投げつけただけだ。タマセンパイもフジさんも、目元を緩めながらこちらを見るだけで止めようとは一切してこなかった。 「ああもう、解散解散。皆やることわかってるっしょ」 せやな、と言ってタマセンパイが椅子から降りて寮長室を出る。クリークちゃんは私の頭を撫でる手を止めることは無かったが、ドアの方に身体を向けてくれた。 タマセンパイに続こうとして、フジさんに呼び止められる。 「モニーちゃん、忘れ物だよ」 振り向くと、花瓶を指さしていた。両手で持ち上げて胸の高さで支える。ガーベラの花が口元まで届きそうになる。 「モニーちゃんは、ガーベラの花言葉を知っているかい」 「知りません」 「希望、純潔、律儀。清らかで明るい未来を示し、誠実さも込められているんだ。そこに、本数によっても意味が加えられる」 「そうなんですか。一本だとどういう意味なんです?」 私の質問に、フジさんは一拍間をおいて、立てた人差し指を自分の口から鼻に向けて添えた。 「『あなたは私の運命の人』」 「マジ?」 飛び出た言葉に驚き、敬語も忘れてしまった。 「うん。オグリがそこまで知っているかどうかは、分からないけれどね」 じゃあ気を付けて、と言われ寮長室を出る。美化委員の子も知らないんだろうな――と思いながらクリークちゃんとも別れ、私は自室に戻った。 寮のあらゆるところで、消灯を知らせる放送が響く。その音を合図に、電気を消して静かになる部屋と、明かりを灯しっぱなしであんまり静かにならない部屋がだんだんとはっきりしてきて、そのうち誰かに怒られて静かになる。 許可を貰った事実上の夜更かしができる非日常感とイチへの気がかりな心、好奇心がごちゃ混ぜになり、私は妙な興奮を覚えていた。クリークちゃんの来る25時まで起きて様子を見なければいけない。 部屋の電気を消す直前、イチの顔を見やる。苦しそうな呼吸音と眉間の皺は、まだそこでイチのことを押しつぶしているようだった。 パチン、と軽い音を立てて部屋の電気が消える。いつも通りの暗さにならず、軽い違和感を覚える。部屋を見回して、いつもは閉まっているカーテンが開けっ放しになっていることに気付いた。 この部屋のこと、実はイチに任せっぱなしだったのかな――少しだけ反省する気持ちが生まれてきた。次から、カーテンは自分で閉めるようにしよう。 その習慣の一歩目として、試しにカーテンを閉めてみた。部屋がいつもの暗さに戻る。 ぴったりと閉め損ねたカーテンの隙間から覗く月光に照らされた白いローズマリーと花瓶が、サイドテーブルの上に虹色の光を落として暗い部屋の中で淡く浮かび上がっていた。 私物のパソコンの電源を入れ、読む気もない記事を片端からクリックしては閉じていく。そのうち、トレセン学園のホームページにたどり着いた。 特集はもちろん我らのヒーロー、オグリキャップ。クリークちゃんもいるし、イナリの名前もあった。同情するべきか、翌年にクラシックを迎える後輩たちのニュースのスペースは気持ち小さくなってしまっていた。 注目の子の名前はドクタースパート、サクラホクトオーに、『続け葦毛の伝説に』と大仰な見出しを載せられているウィナーズサークルという子たちらしい。ずいぶん田舎っぽい服装と顔立ちで、アワアワ、という声が聞こえてくるような、困ったような笑顔を浮かべている。 そんな見出しを書かれてはいるけれど、まだ未勝利戦にしか出場していない。レースの動画ではいい走りをするのに、ゴール手前で力が抜けて1着を逃している。勝つ気が無いのかと思う。 申し訳ないけど、この子たちのこと知らなかったな―― まだまだ知らない後輩たちの名前を見つめながら、イチと時計の進みを交互に見比べる。どちらも動いていないのではないかと思うくらい、時間が長く感じられた。 この調子で、あと2時間以上も耐えなきゃいけないのか。少しずつ迫りくる眠気と必死に戦いながら、イチとパソコンの画面を交互に見る。 そんな真面目にトレーニングしたわけじゃないのに何でこんなに疲れてるんだ、と思ったときにはもう、私の意識は自分の身体から離れていた。 ヤバい、寝てた! 役割を思い出した脳が覚醒する。私の身体はバンジージャンプで飛び降りたあと、伸びきったロープが反動で戻るようにして文字通りに跳ね起きた。 慌ててイチを見る。姿勢が若干変わっていたけど、スリッパも毛布も、大きい変化はなかった。軽い動悸がする胸を落ち着かせながら時計を見ると、1時53分を示している。 いっけね、もうすぐクリークちゃん来るじゃん――と思った矢先、こんこん、と控えめに戸が軽い音を立てた。 パソコンを急いで、でも音を立てずに机の上に置き直して扉の方に向かう。スマホの光を懐中電灯代わりにして床を照らしながら、クリークちゃんを迎え入れる。 「おつ」 「お疲れ様です~。イチちゃん、大丈夫そうでしたか」 「わるい、寝落ちてた。いつからも分かんない」 「あら、一日大変でしたもんね」 「なんか体力無くなってて。ゴメン」 「交代して私に任せてください~。しっかり休んで、元気いっぱいです」 クリークちゃんがおどけて力こぶを作るふりをしている。 「さすが」 「見ててくれてありがとうございました、代わりますから、モニーちゃんはもう休んでください」 お言葉に甘えて素直にベッドの上で寝そべった。 「椅子、使って。膝掛けはイチのやつがそこにあるから使っちゃえ」 「分かりました。自分のを持ってきましたから、大丈夫ですよ」 ふわぁ、と自分の口からあくびが漏れる。ここ二日間の出来事で、元々の体力が削られているのかもしれなかった。 「それじゃ、先におやすみ」 「おやすみなさい、モニちゃん」 掛け布団の中にもぐりこんで、また目を閉じる。椅子の上でうたた寝していた時と同じように、私はするりと眠ることができた。 ページトップ その6 ”最終日①”(≫93~97) 了船長22/11/10(木) 22 13 05 光を感じて目が覚める。一度深夜に寝落ちていた分、幾分かゆっくりと起きることができた。 上半身を起こして部屋を見回す。クリークさんがどのあたりで看病していたのか分からなくなるほど、整頓して部屋をあとにしていたようだ。椅子も膝掛けも元通りになっている。 ベッドから立ち上がってイチの様子を見る。額の苦しそうな皺は取れ、顔つきも柔らかくなっていた。掛け布団のへりは曲がることなく真っすぐな姿勢で眠っており、呼吸も穏やかなものになっていた。 クリークさんが上手いことやってくれたようだ。 良かった―― 肩と頭の先に感じていた重みのようなものが、すうっと晴れたような気持ちになる。制服に着替えるために腕を上げると、昨日おとといより幾分か軽い力で高く持ち上がる。 「心配かけんじゃないよ、不器用なクセに」 思わず口からこぼれた言葉は、幸い誰にも聞かれることなく、部屋の壁に吸い込まれて消えていった。 「おはようございます、モニーちゃん」 挨拶に振り返ると、一体いつまで起きていたのか、やや疲れが見える笑顔でクリークちゃんが手を振っている。 「うわ、平気?」 「はい。あの後、イチちゃんが起きてくれたんです」 「やっぱり。朝起きたらイチの姿勢がやたら良かったから、上手くやってくれたのかなって」 「少し怖がっていた様子がありましたけど、ご飯も食べてくれて。ちょっとだけ叱っちゃいました」 そう言うと、クリークちゃんはへこんだような面持ちになる。 「どうせ何か、勝手に思い詰めて自滅してたとかでしょ? クリークちゃんが落ち込む意味無いって」 「そうでしょうか……私も少し、頑固になっちゃいました」 「いいっていいって、私たちにこんだけやらせておいて、叱られないなんて方がおかしいんだから」 この子は火山みたいに怒りを噴火させないんだろうけど、グツグツと煮えて、我をしっかりと通すタイプなんだろうと感じる。一番怒らせたくない。 「イチちゃんに食後の休憩をしていて欲しくて洗い物まで済ませていたら、寮長さんに『起き過ぎだよ』って怒られちゃいました」 「そりゃそうっしょ。夕飯作って食べさせてるところまででも大変だってのに」 ふわぁ、という音がクリークちゃんから聞こえて顔を見上げると、恥ずかしそうに口元を手で隠して涙目になっている。らしくないけれど、あくびを我慢できなくなるくらい遅かったようだ。 改めて感謝の意を伝え、教室に向かう。歩きながらも時おり口元を隠す仕草をする彼女は、『天才』と呼ばれる高速ステイヤーではなく、どこまでも人のために優しい、等身大の一人の学生だった。 夕方になって用事を概ね済ませた私は、トレーニングも放り出して寮長室へまっすぐ足を向けていた。 もう慣れた手つきでドアを数回叩き、フジさんの返事を待って扉を開ける。椅子に深く腰掛けていて、クリークちゃんと同じく、少し疲れが残って見える表情をしていた。 「一日お疲れ様、モニーちゃん」 「お疲れです。どうしたんすかその顔」 私の質問に、「いやあ、少しね」と困ったような笑顔を浮かべる。 「昨日の夜、寝ました?」 「それがね……イチちゃんが起きたのは、もうクリークから聞いたかい?」 「はい。フジさんに怒られたってところまで聞きました」 私の指摘に、『困ったな』と言わんばかりの表情を作る。 よくよく考えると、時間を過ぎて世話を焼いたクリークさんもやりすぎだけど、それを夜のうちに叱ったフジさんは一晩中起きていたってことになる。いくら寮長とは言え、身体の調子をおかしくしてしまいかねない。 「フジさんは結構変なほうですけど、ずっと起きてたのはバケモンすよ」 「モニーちゃんの言う通り、今日はちょっと大変な日だったね。うっかり居眠りしそうになってしまったよ」 にこやかに笑っているけれど、話がすれ違ってしまって上手く噛み合わない。寝不足はフジ寮長の調子すらおかしくするのかと感心してしまう。 質問を直球で投げかけるべきだと思った私は、知りたいことをそのままぶつけることにした。 「イチ、どうでしたか」 何か反応を引き出せるんじゃないかと狙いをつけて、ワザと浮ついた質問にする。ところが、笑顔をほんの少しだけ緩めただけで、表情に大きな変化は表れなかった。 「自分の中で気持ちが混乱していただけだったよ。正義感の強い、とっても良い子だ。自分のことを悪者にしたがる節もあるけれど」 青く透き通った目が遠くを見やるように壁を見つめる。私たちを見守る、優しさにあふれた目だった。 「……よく分からんけど、とりあえず大丈夫そうなんすね」 「うん。あとは、当人たちで解決できると思うよ」 「オグリとイチで?」 私がフジさんの提案に驚いていると、それに合わせたかのようにコンコン、とドアをノックする音が響いた。 「入るでー。お、モニちゃんもおったんか」 「タマセンパイ」 「お疲れ様、トレーニング終わりに呼んでしまってゴメンね」 かまへんかまへん、と手をヒラヒラさせながら私の隣に腰かける。ちょこん、という効果音を鳴らしてやりたい。 「今、なんや失礼なこと考えとらんかったか」 「え、すご。エスパーっすか」 「否定せんかい!」 タマセンパイが噛みついてくるも、どうにも滑稽さのほうが目立つ。逆に笑いがこみあげてきた。それを見て、また噛みつく。 ハイハイ、とフジさんも笑いながら会話の間に入ってくる。 「本題に戻ろう。結論から言ってしまうけど、モニーちゃんには今晩、部屋を一日だけ交換してもらおうと思う」 「交換?」 「オグリをモニちゃんの部屋に送って、二人で話し合わせようってことやんな」 「その通り。寝起きに顔を合わせても、オグリならヒートアップすることは無いだろう」 「イチが昨日の――正確には今日ですけど。夜どんな様子だったか知りませんが、ホントに大丈夫ですか」 私の疑問に、フジさんが一つ頷く。 「大丈夫。イチちゃんについては、モニーちゃんも良く知っているだろう」 そりゃあ、別に暴れたりするタイプじゃないけど――逆に、何も言わずに閉じこもって、事態が変わらなくなる可能性は捨てきれないとも思う。 「オグリはああ見えて結構ガンコなところもあるからな、何かしら突破口は見つけるやろ」 タマセンパイの助言を聞くと、一抹の不安は残るけど、それもそうか、という気持ちになった。呆けているようで、ズンズンと踏み込んでいくのがオグリの強みだ。 決まりだ、とフジさんが手を叩く。椅子から立ち上がって、部屋を出る準備をし始めた。 「オグリは今どこに?」 「まだトレーニング中やけど、そろそろ夕飯食べるころやな」 「オグリには私から伝えておこう。モニーちゃんとタマモ先輩は準備を整えておいて」 私たちも席を立つ。 「モニちゃんはもうメシは済ませたんか」 「はい。あとシャワー浴びてくるだけです」 「シャワーだけとちゃうて風呂に浸かってき。どうせオグリもすぐには戻ってこんし。ほな、また後でな」 別に疲れてないし、シャワーだけで構わない。 そう思って寮の浴室でいつも通り身体を洗っていたが、ふと、タマセンパイの言葉を思い出してお湯に浸かってみた。足先から恐る恐る水面に触れると、熱くてびっくりする。 暑苦しくてメンドいな、と思っていたけれど、慌てた様子の他の子たちに「お風呂で寝たら死んじゃうよ!」と叩き起こされるまで、自分の体力が尽きていたことに気付いていなかった。 ページトップ その7 ”最終日②”(≫103~105、109) 了船長22/11/11(金) 22 46 53 まだ湯上りでふらつく足元で浴室から部屋へ戻ってくると、自室のドアの前でソワソワと動き回る影を見かけた。 「何してんの、オグリ」 「ああ、モニー。お帰り。フジからここで待つように言われていて……」 ドアノブをゆっくり回して、音を立てないように部屋へ入る。オグリを招き入れると、イチが視界に入ったのだろう、私の横を大きめの歩幅で通り過ぎてベッドの側へ駆け寄った。そのままイチのおでこに手を当てている。 「昨日より落ち着いてるでしょ」 「うん。顔色も良くなっている」 オグリの横顔を覗くと、心の奥底から本当に安心したような、優しい表情をしていた。私は自分の身支度を整えながら、背中越しにオグリに質問を投げかける。 「フジさんからなんて言われたの?」 「『イチちゃんと決着がつくまで一緒にいてね』としか言われていないんだ。モニーは何か聞いているか?」 「う~ん……まあお互い、腹割って話してみてほしいわ。私じゃ聞けないこともあるだろうし」 手早く充電ケーブルとパソコンをまとめて、脇に抱える。 「モニーではなく、私が?」 「そう。私も正直、イチのことよくわかんないんだよね。良いやつなんだけどさ」 「そうなのか……分かった。任せてくれ」 それじゃあ、と言って部屋を出ようとする直前、オグリに呼び止められた。 「イチを任せてくれてありがとう、モニー」 真っすぐな目でストレートに気持ちをぶつけられた私は、思わず目をそむけた。 「別に、毎朝会うほど仲いいんでしょ。私よりイチのこと、詳しいじゃん」 そう言うと、オグリが顔を伏せ、さっきまで頼もしかった表情を暗くした。 「……実は、私はイチのことを良く知らないんだ」 「え?」 ゆっくりと息を吸いながら、重々しく言葉を紡ぐ。 「いつも、イチから色々なものを貰うんだ。お弁当だったり、応援の言葉だったり、元気も……だが、私は何もイチにお返しできていない。私は……イチの名前も知らないんだ」 「イチの本名ってこと?」 「そうだ。何か聞こうと思ったり、手伝おうとすると、いつも逃げられてしまう」 もしかしたら、と小さくつぶやいた後、耳を力なく前へ垂らしてベッドの側に膝をつく。 「嫌われてしまっているのかもしれない。貰ってばかりで、何かをしようとしている私に、愛想を尽かしているのかも」 そう言って落ち込んでいるオグリを見ていた私は、なんだかムカついていた。なんなんだ、この二人は。全くお似合いじゃないか。 イチもオグリもまるで鈍感だ。どんなに昔のラブストーリーでもこんな登場人物はいないだろう。なんせ、話が進まない。 私はまだ、この学園でそんなことしてくれる人に出会っていないのに――なんなら私の方が長く、イチと一緒にいたはずなのに。 そんなことを考えている自分にも攻撃的な気持ちが募っていた。自分のこのイライラと、これまで自分が積み重ねてきたことが反発しているから。 自分から相手を排し一人で強くなろうとしてきたんだから、そりゃ誰にも深く好かれはしない。そんなことはわかってる。 でも、実際に目の前で『うまくいったとき』の世界を見せつけられると、それはそれでどうしようもなくムカつく。 しかも本当のところ、イチはアンタのことを憎んでいるんだぞ―― 「ねえ、オグリ」 少しだけ棘のある声が自分の口から飛び出す。はっとした様子で、オグリが素早く顔を上げる。 「今夜中に解決してよね、マジで」 「うん。任せてくれ」 真剣な表情と一緒に返事が返ってくる。やり場のないムカムカにブーストがかかる。 じゃあ任せたから、とだけ言い残して、私は足早にタマセンパイの部屋まで向かった。 「お疲れです、ジャマします」 「おーモニちゃん、よう来たな」 少しだけ乱暴にドアを開けた私に、タマセンパイが目を丸くする。 「……どしたんや、なんかあったんか」 「別に、何でもないですッ」 「小指でも打ったんか」 「廊下を歩いてきたんだから、ぶつける所が無いですよッ」 喋りながらズンズンと大股で部屋に入り、空いているベッドに座り込む。そのままパソコンのケーブルを引っ張り出して本体とつなぎ、空いている電源を探す。 オグリの充電器引っこ抜いてええで、とタマセンパイが助言をくれた。素早く抜いて、私の分を差し直す。 「イチちゃん起きとったか?」 「いーや。まだスヤスヤしてます」 「……なんや、カリカリしとるなあ」 つっけんどんな私の口調が理解できないのだろうか、少しばかりの間をおいてタマセンパイが声を発した。振り返って見ると、手にはスナック菓子の袋を持っていた。 「せっかくやし、モニちゃんも食べるか?」 「貰います」 にんじんチップスを手のひらに乗せてもらって、一息に口の中へ放り込む。 「そんないっぺんに食べたら勿体ないやろ! 大事に食べや」 そういうタマセンパイは有言実行か、一つ一つつまみ出しては二回に分けて食べている。 「……イチがあんなに好かれてるって知らなくて。私もまあ頑張ったのに、なんかヤだなって思っただけです」 「まだイチちゃんはモニちゃんが頑張ったって分からんからなあ。起きてからちゃんと話せばええ」 タマセンパイが、ほれ、と言いながらまたお菓子の袋をこちらに出してくれる。受け取ろうとして手を差し出すと、袋を引っ込めて反対の手で握ってきた。 「うわッ」 「モニちゃんはよう頑張った。誰かに何か頼むの、得意じゃないタチやろ」 私は何も言わず、タマセンパイの手を見つめる。 「うちらもモニちゃんのこと、あんまりよう知らんかったからな。イチちゃんもどうやらお堅いだけのマジメってわけちゃうみたいやし、良かったなあってフジとも話しとったんや」 「……急に先輩風吹かせないでください」 「風も何も、こちとら稲妻サマやぞ。おおきにな」 誰かに頼りたくないのは、こういうのに慣れていないから。 いい結果ってワケでもないのに、褒めちぎられるのは気恥ずかしい。私だけが私の機嫌を取ればいい。 でも、タマセンパイにこうやって褒められるのは、悪い気分じゃない。 誰かと対話することを面倒臭がらないで、ちゃんと対話して、歩み寄る。 キザな考え方でホントは怖がってる気持ちを誤魔化さないで、必要な時にはきちんと頼る。 自分ばっかりの責任じゃ、できないこともある。 パソコンを脇に置いて、タマセンパイの手の上に重ねる。 「今日まで、ありがとうございました」 「大したことやないで、モニちゃん。今度はトレーニングの手伝いでも、やらせてもらおかな」 「イヤっす。絶対勝たしてくんないから」 イチのおかげで自分の殻を破れた私は、きっと少しだけでも、成長できたのだと思った。 了 ページトップ その8(≫155~159) 了船長22/11/20(日) 23 20 39 「優等生サマ」は今日、帰りが遅くなるらしい。ドアの脇にかけられた、時の流れをイヤでも感じさせるほど色の抜けたホワイトボードが、私に語りかける。 別に、その優等生サマがとうとうグレたから、とかじゃない。無知なフリをできないくらいには、その優等生サマと一緒に過ごしてきたつもりだ。 中央の学生、特にレース専攻で選手として走る私たちは、求められたならそれを満たせるくらいにトレーニングに励まなければいけない。ひいてはそれがファンの人――沢山いるわけでは無いケド――の笑顔にもつながるから。最初の話題には上がらないけど、3次会くらいで「そういえばあの子すごいよね」くらいのレベルにつながれば、まあまあ嬉しい。 話を戻すけど、優等生サマで私のルームメイトが遅くなる理由は、ナイターレースに慣れるよう夜のコースを走り抜く練習をするから。地方のトレセンが主催するレースでは、夜遅くまでレースをする。珍しいことじゃない。「未成年を夜遅くまで走らせるなんて、どういうことだ」なんてくだらん口喧嘩する大人もいるにはいるけど、私達はやりたくてやってるんだから口出ししないでほしい。 もちろん、遅くまでかかる練習はめちゃくちゃ疲れる。やっぱりこう、日が照らすうちにサボれるわけじゃないから、もう意外と辛いのにめちゃめちゃ追い込まないといけないから消耗が激しい。次の日の学科でうとうと船を漕いでる子がいたら「ああ、あの子は昨日、夜練だったんだな」と先生たちも配慮してくれるくらいには体力がなくなる。そんなときだけは先生に感謝です。でも小テストの量とクオリティ、落としてほしい。 ルームメイトが帰って来ないと分かった私は、いつも使っている、すっかり耳に馴染んだワイヤレスイヤホンを嵌めた。トレセン学園の合格が決まって、私以上に喜んでるパパとママに頼んだらするりと買ってくれた、ミドルクラスのイヤホンだ――ルームメイトに値段を話したら、「高くない!?」って驚くくらいの価格だけど。 もちろん、遅くまでかかる練習はめちゃくちゃ疲れる。やっぱりこう、日が照らすうちにサボれるわけじゃないから、もう意外と辛いのにめちゃめちゃ追い込まないといけないから消耗が激しい。次の日の学科でうとうと船を漕いでる子がいたら「ああ、あの子は昨日、夜練だったんだな」と先生たちも配慮してくれるくらいには体力がなくなる。そんなときだけは先生に感謝です。でも小テストの量とクオリティ、落としてほしい。 ルームメイトが帰って来ないと分かった私は、いつも使っている、すっかり耳に馴染んだワイヤレスイヤホンを嵌めた。トレセン学園の合格が決まって、私以上に喜んでるパパとママに頼んだらするりと買ってくれた、ミドルクラスのイヤホンだ――ルームメイトに値段を話したら、「高くない!?」って驚くくらいの価格だけど。 曲のサビに近づくにつれて、私の身体の揺れはどんどん大きくなっていった。もっと、もっとだ。私を満たせ。脊髄反射で動く身体が、思わず涙を流すくらいに、絶体絶命なまでに私を追い込め。 右手に握った端末の音量ボタンを大きくする方に数回連打する。単純明快だ。大きければ大きいほど、私を気分良くしてくれる。部屋の真ん中で、悦に浸れる。 正味なとこ、レースはだりいし脚は痒いし、終わったあとはめちゃくちゃしんどい。でも私は、私達はどういうわけか、それを止められない。走りたくて、なおかつ勝ちたい。一人勝ちできるならそれに越したことはない。私がレースで先頭を走り続ける理由はこれだ。一人で戦って一人で勝てば、誰も文句は言ってこない。 私の膝が音に合わせて曲げられては、また伸びてを繰り返す。身体はどんどん心地よい音に身を任せていった。 そうしているうち、少し落ち着くような緩急をつけてから、最後の大サビに入る。繰り返されるメロディと韻を踏んだ歌詞、速いテンポが大きな波となって私をトレセンの寮室ではないどこかへ運ぶ。それに合わせて、身体の揺れは大きくなっていく。私は自分の世界にすっかり浸りきっていた。 気持ちいいな―― 満足感と一緒に、ボーカルの吐息と共に音楽が終わる。すべてをやり遂げた気持ちで、太ももに心地よい疲労感も覚えた私はイヤホンを取り、寮室の天井を見つめた。トレーニングもレースも辛いけれど、時折こんな気持ちにひたれるのであれば、もう少し続けてやってもいい。 「モニー、今なら聞こえるだろうか」 背後から飛びかかってきた予想外の音に、私は鳥肌を浮かべながら跳び上がった。きっと、みっともないような声も上げていたと思う。 「その、何か辛いことがあったのなら、相談に乗るぞ」 脂汗を耳の先から流しながら振り返ると、果たしてそこには、すっかりニュースの写真で見慣れた葦毛のスーパーウマ娘が、困惑しきった表情で立っていた。 「イチにも言えないことなら、私が聞ける。大丈夫か?」 一人で最も気持ちよくて、最も誰かに見られたくない姿を目撃された私は、レースで発揮する集中力さながらに、部屋を最大速度で飛び出した。 了 ページトップ その9(≫179)≫177より派生 ≫177 二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 20 34 25 タキオンの薬で幼児化してしまったオグリ(ハツラツ)を餌付けするイチちゃん・・・ 了船長22/11/25(金) 03 54 23 ≫177 「前回までのあらすじや」 「ある日朝起きたらオグリがちっこくなっちまってさぁ大変、こんな時に限って肝心のクリークはレースで不在、とんと大変なことになっちまった。タキオンのヤツをとっちめなきゃなあ」 「騒ぎを起こさないために、何故か私とイチの部屋で預かることになったってワケ。……なんで?」 ◇◇◇◇◇◇◇ 「おねえちゃん、だあれ?」 「わ、私は……イチ。イチっていうの」 「イチ? イチおねえちゃん?」 「そうよ。ええと、よろしく、お願いします」 「うん! よろしくね……わあっ」 「あッ危ない、大丈夫? 痛くない?」 「……うう〜」 「痛かったわね、泣かないで。ほら、よいしょ! ……ね、あなたは強い子だから。そうだ、あなたのお名前は?」 「ハツラツ」 「は、ハツラツ?」 「オグリキャップだけど、おかあさんはハツラツって呼ぶの」 「ハツラツ、ハツラツ……かわいい名前ね」 「えへへ、ありがとう。……お腹へった」 「なにか食べよっか。おいで、作ってあげる」 「ほんと? やった!」 「いっぱい作るからね、全部食べるのよ?」 「うん!」 みたいな感じでしょうか(ハツラツさんはイチちゃんに抱っこされています) ページトップ その10(≫186~187) ≫了船長22/11/26(土) 02 23 35 「前回までのあらすじや」 「タキオンに元通りの薬を最優先で作らせちゃあいるが、どうにも難航しててもうしばらく辛抱しないといけねぇ」 「小さくても沢山食べるだろうと思って、私達が普通に食べる一人前を作ったらペロリと食べちゃった。……なんで?」 ◇◇◇◇◇◇ 「ねぇモニーおねえちゃん、イチおねえちゃんは?」 「……あ、ごめん、聞いてなかった、何?」 「何してるの?」 「特に何も」 「わたしもみたい」 「ん……待て待て、ベッドから降りんなって言われてんでしょ」 「でも、みたいから。よいしょ」 「高いんだからやめとけって」 「だいじょうぶ……わあっ」 「うわ、言わんこっちゃない、なーッ、もう」 「……ううっ、ぐすっ」 「泣くな泣くな、ほら」 「うぅ〜……」 「立てる? 手、掴んで。そうだ、腹減ってないか、なんか食べに行くか?」 「……いかない。お腹減ってないもん」 「あー、そうか……」 「モニーおねえちゃんのやつ、みたい」 「そんな大したもんじゃないんだって」 「やだ! モニーおねえちゃんのいじわる」 「そういうワケじゃないんだけどな、だぁー、もう。そこ座っといて」 「うぅ、ぐすっ」 「泣くな泣くな、くそー、無理だ、分かんねー」 ◇◇◇◇◇◇ 「ただいま」 「あーッ、イチ」 「どうしたの、モニー」 「私じゃ無理。代わって」 「オグリ、どうして泣いてるの」 「なんかベッドから降りたがっちゃって、うまく立てなかったみたいで」 「ハツラツ、大丈夫?」 「ぐすっ、イチおねえちゃん」 「うん。痛くない?」 「へいき。いたくない」 「うん、良かった。……一応、帰ってきてるクリークさんとタマモ先輩に連絡したほうがいいかな」 「分かった、任して」 「お願い、モニー」 ◇◇◇◇◇◇ 「呼んでくれてありがと、モニー」 「いや、別に……なんかごめん。マジで分かんなくて」 「私も分からないわよ、小さいオグリの面倒見るなんて……」 「でもなんだかんだ上手くない? あやすっていうか、自然に好かれるっていうか」 「そんなつもりは無いから、正直、自信ない。頼られてるのは嬉しいけど」 「なんかオグリも、思ったより足元緩いし」 「走るのはともかく、歩くのも辛そうに見えるのよね」 「うん……今のオグリからは想像できんわ」 「本当ね。オグリのお母さん、大変だったのかな」 「……次からホントに、目離さないようにする」 「うん。私も気をつける」 みたいな感じでしょうか(高校生くらいの年齢なら、子供に強く当たるのはいくらなんでもやらないだろうと思ったので、理解が及ばない未知の存在への小さな恐怖と意思疎通の難しさに困惑する、と解釈しました。失礼……) ページトップ Part19 (≫118、≫121) ≫了船長22/12/07(水) 22 34 12 「はぁ~」 「いいよなぁ~」 「なに、なによ、二人とも」 「イチのお肌はサラサラしなやか」 「髪もツルツル、モチモチだもんなあ」 「わっ、んもう、あ、ありがとう……ん? 逆じゃない?」 「ねぇイチ、なんの化粧水使ってるの」 「購買で売ってるヤツだけど」 「えーーーウソウソウソ、絶対ウソ。なんかいいやつ使ってる。私の知らないやつ」 「アンタが知らないお化粧品、私が知ってるワケ無いでしょうって」 「ヘアオイルとかネイルケアはー?」 「……どっちも使ったことない」 「がー、ウケん。私なんかアレもコレも試してみて、やっと何とか見つかったかなあって感じなのに」 「こないだのシチーさんの見たー?」 「見た見た。ジョーダンさんのも見た。もうスマホの画像フォルダ、二人の使ってるグッズでいっぱい」 「てかジョーダンさんのネイル知識ヤバくない?」 「わかるー。紀元前三千年のエジプト」 「ヘンナの花で爪を染めてた」 「いえーい」 「いえーい、覚えちゃった」 「ちょっとちょっと、おいてかないでって」 「ゴメンゴメン、つい」 「あの雑誌に載ってたものに頼らなくても、イチはこのお肌を維持してるのかあ」 「……まあ。ありがと。嬉しい」 「特別なこと、ホントにしてないの?」 「ご飯食べて、寝て起きてるだけよ」 「なーー、そんなわけないと思うんだけどな」 「いくら何でも、普通に過ごしてこんなにキレイにできるとは思えねーよね」 「みんな、ウチらみたいに頑張ってるハズよ」 「確かに、モニーも色々試してるの見たことある」 「そーなのよ。マジでイチが何やってるのか聞きたい」 「答えようがないわ。本当に何もしていないし……」 「何もしなくてもイチみたいなヤツを探せばいいんじゃね」 「いくら何でもそんな奴いねーって」 「条件絞ってけば一人くらいヒットするっしょ。まず、早起き」 「起きた後、二度寝しないで何かしてる。そのあとは授業受けて、普通にメシ」 「んでトレーニングして、メシ食って、追加のトレーニングやるならやって」 「風呂入ったら夜更かししないで寝る。そんでまた早起き」 「そんなことしてるヤツ、いる?」 「いーやさすがに……あーッ!」 「うわっ、何」 「いるじゃん!」 「えっ、誰、誰、誰」 「ダンナよ!」 「あー、イチのダンナ!」 「確かに、肌も髪も……うわ、割れ鍋に綴じ蓋」 「牛は牛連れ、ウマ娘は、ウマ娘連れ……よよよ~」 「もう! 何よ二人で自己解決して! あとダンナじゃない!」 了 ページトップ Part20 その1(≫73~77) ≫了船長22/12/25(日) 23 59 38 「ねえねえイチ! こっち向いて!」 「ん、何……わッ!?」 「ほい~、クリームたっぷり」 「んあんあ、あいおっ」 「『わっわっ、何よっ』?」 「イチのこんな顔初めて見た。ウケる、撮っとこ」 「んぐ、んむ……びっくりした、生クリームじゃない」 「皆でケーキ作ってて余ったスプレー缶のホイップクリームなんよ。もう一口いる?」 「……いらない」 「ちょいちょい、何ふくれてんの」 「別にっ」 「ちょっとちょっと、天下の日曜日にハッピーホリデーなんよ? レースが入っちゃってパーティに来れない子じゃないんだし、どうしたの」 「ちなみにクリスマスとお正月の曜日って必ず一緒になるの、知ってた?」 「7日後なんだからあったり前でしょ」 「……これ、間違いなく何かありましたね」 「こーれ、どうせまたダンナがらみよ」 「オグリは関係ないでしょっ。そんなんじゃないし」 「そんなんじゃない、ねえ。はいイチさん!」 「何よ」 「あーん!」 「あ、あー?」 「隙アリ!」 「んあっ、おっお!」 「『なっ、ちょっと』?」 「まあまあ、甘いものでも食べて一旦クールダウンよ」 「そうそう。ウチらに話してみなって」 「んむ、んむ……分かったけど、もう一口ちょうだい」 「お、ノッてきたね。はい、あー……」 「直接口にスプレーするのはもういいから!」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「……あー、まとめると」 「カフェテリアのクリスマスパーティで浮かれまくってたオグリ――ああいや、ダンナが気に入らなかったと」 「わざわざ言い直さなくていいわよ、そこは」 「寮ごとにやるクリスマスパーティで、いつもは作らない洋食を頑張って練習して作ったのに、ダンナが他の人からいろんなものを押し付けられていたと」 「ほんで、当の本人はごはんを貰えることが嬉しくてちゃんと全部食べまくっていて、列というか、みんなの波に割り込むことができなかったと」 「さらにオグリ以外に食べられるのがイヤだと」 「……イヤって言うか、アイツの調子を崩すために作った料理だから、オグリ以外に食べてもらうのは申し訳なくなるし……」 「でも普段、夜練する子たちの夜食とか作ってくれてるじゃん」 「それはクリークさんとか、フジさんとかに頼まれてるから別」 「ウチらを呼んでくれたら、バレンタインデーの時みたいに無理やりスペース作ったのに」 「それはごはんを持って来た、他の子たちに悪いし」 「……かーーー! ダメだ、甘すぎるー! ハッピホリデー!」 「イチさー、今日だけは魔法にかけられてもいいじゃない」 「『愛を証明するの。駆け寄って彼女を抱きしめるのよ。愛をこめて美しい歌を歌えば大丈夫』」 「意味わかんないこと言わないで」 「えっ、知らん?」 「知らないわよっ」 「このクリーム缶、他の子たちにもイタズラで使うつもりだったけど丸ごとイチにあげる。アンタもいいっしょ?」 「いいよー。またカフェテリアでもらってこよ」 「食べきれないわよ、こんなに」 「食べきらなくていいから、ちょっとここで座ってたら、ってハナシ」 「『どんなに深く愛してるか言葉にして伝えましょう。黙っていては届かないの、愛は』 「年中イチの料理を食べてくれるし、イチも料理を作ってるってことよ? イチがそう思わなくても、愛みたいなもんよ」 「……ちがうもん」 「せっかくの祝日なのにそんな気持ちで寝たら地獄の背面サンタも逃げ出しちゃうし、しばらく座ってな」 「……」 「空になったら呼んでねー」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「……はーい」 「失礼する、イチがここにいると聞いて、やってきたんだが……」 「さては喋ったな、あの二人」 「やあ、イチ。どうしたんだ、顔をそむけて」 「……別に。幸せそうだったじゃない」 「クリスマスパーティのことか。ハッピーホリデー、イチ」 「みんなのごはん、おいしかった?」 「うん。とてもおいしかった。沢山食べられて、幸せだったな」 「良かったじゃない」 「イチは、食べていないのか?」 「作ってたから食べてないわ」 「なっ、それはダメだ! イチも何か食べに行こう」 「いい。自分で作ったやつ、食べるから」 「……それなら、私も食べる」 「いつもとは毛色の違う料理だから、おいしくないわよ」 「なっ、イチ、何を言うんだ」 「今日一日、おいしいものいっぱい食べたんでしょ。わざわざ食べなくていいわ」 「イヤだ! 私が好きなイチの料理を、イチに否定してほしくない!」 「イチが作る料理で、美味しくないものなんてない」 「ま、まだ食べてもないのに」 「私は、イチとのごはんなら毎日だって食べたい。栄養も元気も、なにより素敵な時間を貰ってきた」 「……でも」 「今日は特別な日だから、イチと一緒に食べたい。二人で食べて、そのあとにおしゃべりする時間も楽しいんだ。なぜなら、私はイチのことが――あっ」 「……え?」 「分かってしまった、かもしれない」 「何によ」 「ああ、その……わ、私は、イチのことが――」 「はいイチのダンナさん、こっち向いてぇー!」 「えっ――わっ!」 「ちょっと、アンタたち!」 「おあおああ」 「口いっぱいにほおばるオグリなんて珍しくもないけど、撮っとこ」 「先に謝る! オグリにイチの居場所バラした!」 「でもこの方が上手くいくと踏んだんよ、ゴメンねー」 「このクリーム缶も二人にあげる! 私たちのことは追いかけなくていいからね、イチ!」 「それじゃおやすみー。早く食べないとお風呂間に合わないよー」 「なっ、ななな、逃げ足の速い」 「ああいおおうあっあ」 「飲み込んでから喋りなさいって」 「……ふう。嵐のような二人だったな」 「年中あんな奴らなのよ、オグリのことをダンナ呼ばわりして」 「ふふ」 「何がおかしいのよ」 「いや、嬉しいなと思ったんだ」 「はあっ、どうして」 「私はイチのことが好きだ」 「えっ」 「イチが私のことを好きかどうかは分からない。けれど、イチの友達が私のことをそう呼ぶのが、なんだか愉快だなと思ったんだ」 「……オグリ」 「不思議な気持ちだ。からかわれているとわかっていても、嫌じゃない」 「……ムカつく」 「ふふ、すまない、イチ」 「……洋食」 「ん?」 「いつもお弁当に入れてるようなお料理じゃなくて、お皿で食べるごはんよ」 「そうなのか!」 「鮭のムニエル。出来立てじゃないから、固くなってるかもしれない。もちろん温め直すけど」 「私も手伝う。その後、二人で食べよう。温めている間に、イチとおしゃべりもできる」 「……ホント、ムカつく。ガッカリしなさいよ」 「すまない、イチ」 「でも……ハッピーホリデー、オグリ」 「うん。ハッピーホリデー、イチ」 了 ページトップ その2(≫97、≫99~108、≫110~115) ≫了船長22/12/30(金) 19 58 38 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「イチ、お疲れ様」 「あ、おつかれ、オグリ……忙しくないの?」 「少し忙しい。だが、イチに聞きたいことがあるから抜け出してきたんだ」 「うん」 「イチは今年、いつ地元に帰るんだ?」 「えーと……31日に帰る予定」 「もう一つ、イチが好きな食べものはあるか?」 「好きなもの? うーん……好き嫌いは無いから、なんでも食べるわよ」 「分かった、ありがとう。この後のトレーニングも頑張ってな、イチ」 「あっ、オグリ!……行っちゃった」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「頑張っとるなあ、モニちゃん」 「タマセンパイ、お疲れです。今日はヒマなんすか?」 「いや、オグリと一緒に進路相談やらインタビューやらでちょいとせわしないな」 「こんなことで油売ってていいんすか」 「あんま良くないなぁ。せやけど、モニちゃんに聞かなあかんことがあってな」 「はい」 「地元にはいつ帰るんや」 「家ですか? 31日に帰りますよ」 「好きなごはんのおかずはなんや?」 「えー……味の濃いヤツ」 「なんや、意外と子供っぽいやんけ。ほな、おおきにな!」 「どーいうことっすか! うわ、脚はっや」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「そうしたら、次の一本で終わりにしましょう」 「そうね。今年最後の走り込みだから、集中して」 私のトレーナーさんがストップウォッチを手に私たちの方を見る。モニーのトレーナーさんは、腕時計――スマートウォッチを何やら操作している。 12月30日、空がオレンジ色に染まり始めたくらいの時間で、私たちの今年最後のトレーニングが終わろうとしていた。息を深く吸うと、冷たい空気が心地よく体温を下げてくれる気がする。 隣では、モニーが少し肩で息をしながらも軽くその場で跳ね、気合を入れ直している。それを見て、私もぐっと脚を伸ばす。 「ラス1か。絶対負けないから」 「言ってなさいよ、モニー」 悪気はないんだけれど、モニーと一緒に走ると、トレーニングの時でも思わず挑発するような物言いをしてしまう。 ほとんどの場合は向こうが始めにケンカを売ってくるんだし、私は悪くないはず。買っちゃってるのは事実なんだけど。 冷え始めた気温と裏腹に、闘争心がメラメラと燃える。モニーもきっとそうなんだろう。 「年末にトレーニングで気合を入れ過ぎました、なんて冗談にもなりませんからね」 「やり合うのはとてもいいことだけど、怪我だけは避けなさいね」 私たちの心を見透かしているように、トレーナーさんたちが注意してくれた。はーい、と揃って返事をして、スタートラインに向かう。 ゴール板の前で待つトレーナーさんたちとの距離が開いていく。 彼らが遠くなればなるほど、さっき私たちが受けた注意の言葉の記憶も同時に薄れていくようだった。 「年末イチに勝って実家に帰る。これ以上の喜びがありましょーか」 「負けっぱなしじゃ終わらせないわ、絶対差し切る」 「ここは芝じゃなくてダートコースよ? 先行逃げ切りが鉄則ってワケ」 「クロガネトキノコエさんに走り方は叩き込まれたもの、逃がすわけないわ」 私たちはトレーナーさんが掲げる合図の手旗に意識を集中させる。いつ振り下ろされてもいいように。 今年最後の真剣勝負の火蓋が切って、降ろされた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 力を出し尽くした脚の痛みと、それを撫でる風の冷たさ。 隣から少しずれて聞こえる激しい呼吸の音と、ドクドクと早く鼓動を打つ私の心臓の音。 そして、私より少しだけ後ろにいるモニー。 私は今年最後の「大一番」を無事に収めることができた。 「お二人とも、はじめから忠告を忘れていましたね」 「レースさながらの気迫だったわよ。走る前から抜け落ちていたでしょう」 呆れているけど、少し口元が笑っているトレーナーさん。モニーのトレーナーさんは、ちょっとだけ真剣に怒っているようにも見えた。 擦れた声で「ごめんなさい」と謝る。でも、後悔の気持ちは全くなかった。 私はモニーの方を振り向いて、疲労感が残る上半身を何とか引き上げて胸を張り、座り込んでいるモニーに手を伸ばす。 「どんなもんよ、モニー」 「……来年の最初のトレーニング、絶ッ対に私と走って。次は負けない」 ちらりとこちらを見上げてから、私の手を取る。私はぐっ、と力を込めて、モニーを引き上げた。 まだまだ闘志が残る目線を送るモニーを見て、はあ、とトレーナーさんがため息をつく。 「なんにせよ、今年一年お疲れ様。よく頑張ったわね」 「これでお二人とも、冬休みです。ゆっくり療養してください。宿題の方も忘れずに」 「ありがとうございました。トレーナーさんたちも、良いお年を」 「また来年もお願いしまーす」 トレーナーさんたちと別れ、私たちは着替えるためにロッカールームへ向かった。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ ロッカールームで泥を落としたり着替えてるうちに、私たちはすっかり空腹を覚えていた。 カバンを持って寮へ続く道を歩く。道の両脇に植えられた桜の木も、すっかり枝だけになってより寒さを感じさせてくる。 「ハラへったぁ、今年最後のごはんは何にしようかな」 こらえきれなくなったように、先にモニーが音を上げる。あくまで学校での最後のごはんでしょ、と心の中でツッコミを入れる。 せっかく最後の日なんだし、冷蔵庫の中身も綺麗にしたいから、最後に何か作ってあげようかな。 「ねえモニー、何か食べたいものある?」 「え、どうしたの」 「残り物でよければ夕飯作ってあげようか、ってこと」 「マジで? やったー」 アイツに年がら年中料理を作ってるうち、「特技は何ですか」と言われたら「料理です」とすぐ言えるくらいには腕が良くなった、と思う。 こうしてルームメイトにさらっと提案できる自分がなんだか嬉しい。自信がついたっていうのかな。 自分が作ったものに、他の誰かが喜ぶ。その反応を見れるのも、とても嬉しい。 モニーと話しながら寮までたどり着くと、果たして私の自信の源になった「アイツ」が、寮の玄関の前に立っていた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「おかえり、イチ、モニー」 「おつかれさん」 オグリとタマモ先輩が部屋着に袢纏を着て、寒そうに身体を揺らしている。 私たちはただいまを言う前に、同じ疑問が頭の中に浮かんでいた。 「あれっ、二人とも、まだ帰ってないの?」 「そうっすよ、タマセンパイは実家遠いっしょ」 私たちの問いかけに、二人はただ「ふふっ」「へへっ」としか返事をしなかった。 「カバンを持とう、疲れていないか」 「あっ、ありがとう……」 「ほれ、モニちゃんも寄越しぃ」 「鞄大きくないっすか? イケます?」 持てるわ何言うとんねん! とモニーがどつかれる。奪い取るようにしてタマモ先輩が鞄を持つ。打ち合わせでもしてるかのようなスムーズさ。 こちらに手を伸ばすオグリに、少し気後れしながら私も鞄を預ける。私の荷物を持っているにも関わらず、とても嬉しそうな顔を浮かべている。 「ほな、ひとまずカバン置きにいこか」 「うん。二人とも、こっちだ」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 質問に答えないまま、二人は私たちの先を歩く。何を聞いても「まあまあまあ」と流されてしまう。 オグリが突然脚を止め、ばっ、という効果音を立てるようにこちらを振り向く。どこか誇らしげな顔をしている。 「さあ、ついたぞ二人とも」 「ついたも何も、私たちの部屋の前なんだけど……」 目をキラキラさせながら、うん、と大きく一つ頷く。 タマモ先輩に助けを求めて目配せする。しかし、ニヤニヤしているだけで何も言ってはくれなかった。 オグリが扉を開け、私たちを手招きする。二人が私たちの机に鞄を置いて、こちらを向く。 「お風呂を先にするか、それともごはんにするか?」 「はあっ!?」 「タマセンパイ、オグリ、なんか変なもの食べました?」 「アッハッハ、どうしても言いたいセリフってそれかいな、オグリ」 「うん。どうしても一度言ってみたかったんだ」 「もう、ホントにバカじゃないの」 モニーもタマモ先輩もいるのに、一体何を言い出してるの、コイツ。お決まりのセリフにしてはなんかちょっと短いし。 私が答えられずに固まっていると、いつの間にか「みんな冷え取るし、先に風呂にしよか」とタマモ先輩が話をまとめてしまう。 すると、オグリが屈んで、勝手に私のベッドの下を探り出した。それを見た私の身体は、レースの発バ機から飛び出すときと同じくらいの反応速度で動き出した。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「ちょっとバカ、何してんのよオグリ!」 「何って、着替えを取り出そうとしたんだが……」 「自分でやるからいいって、ていうか、なんで私の着替えの場所なんか知ってるのよっ」 「いつも寒い時、ここから上着やジャージをここから出しているじゃないか」 平気な顔をして、むしろ止めにかかる私の方がおかしいんじゃないかと思わせるくらいに自然な動き。 ここ、私の部屋なんだけど。 背後の笑い声でハッと現実に意識が戻る。振り向いたら笑いながらひっくり返ってるモニーと、その横でタマモ先輩ドアの枠にもたれかかりながら、顎に手を当てしたり顔をしている。 「ホンマに仲ええなあ」 「ひぃ~っ、アッハッハ」 どんどん顔に熱が上ってくる。オグリを見下ろすと、何か悪いことをしたと思っていない、ヘーキな顔をしていた。 それを見て、ますます顔に熱が上る。 「デリカシーなさすぎ、ムカつく、ありえない!」 私はオグリとタマモ先輩、そして勢いのままモニーも部屋から追い出した。 ホントありえない、知ってるからって二人の前で、バカ、バカ、バカっ。 「……あの~、ふふふっ、イチさん、私の部屋でもあるんだけどな」 「知ってる!」 私は手早く替えの服を取り出して、部屋を出る。廊下で申し訳なさそうにしているオグリを尻目に、浴場まで足早に歩いて行った。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 「すまなかった、イチ、まだ怒っているだろうか」 「別にっ。怒ってない」 「ううむ、だが……」 オグリが私の横でしきりに謝っている。わたしはそれを無視して、シャンプーをするために髪の毛を前へ手繰りよせる。 二人が何やらやたらと私たちの世話を焼いてくる。意図はわからないけど、その気持ちはとても嬉しかった。 オグリが空回りしてるだけなのも分かっている。とはいえ、二人の前でいきなりあんなことを言うなんて。 「でも、自分のことは自分でやるからっ」 「うわっ、どうしたんだ、イチ」 思わず堪えられなくなって、声に出してしまう。分かっていても、怒りたくなってしまう。 嬉しい気持ちと、恥ずかしい気持ちと、ありがたいなと思う気持ち。そこにトレーニングの疲れも重なって、私の心はまだ、このぽっと出にかき回されっぱなしだ。 シャンプーをする手にも力が入る。ロッカールームで落とし切れなかった砂や泥が乾燥していて、うまく指が入っていかない。 苦戦していると、ふと、腕と肩にかかる重さがふわりと軽くなった。驚いて鏡を見ると、私の肩越しにオグリの姿がある。 「手伝うぞ、イチ。その間に身体を洗っていてくれ」 「……ありがと」 「尻尾まで流したら、お風呂で暖まろう。その後に夕ご飯だ……イチの毛は、綺麗だな」 「まだ汚れてるけど」 「洗う手伝いができて嬉しい」 脱衣所を出るまで、オグリは私の側でずっと手伝いをしてくれた。浴槽から上がるときには手を差し出してくれたりして。 オグリがドライヤーで私の尻尾を乾かしている間、私の気持ちは疲れが抜けるのと一緒にだんだん落ち着いていった。 腰のあたりに当たる温風も、私の尻尾を支えるオグリの手も、どちらも心地よく感じていた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ お風呂の身支度が終わると、オグリは私をラウンジまで案内した。ついて行った先には、私たちより早めにお風呂から上がったモニーが少しだけぐったりしながら、ケータイをいじっていた。 「モニーと一緒に、ここで待っていてくれ」 オグリはそう言うと、パタパタと共用キッチンの方へ走っていく。 「もしかして、お夕飯って二人の手作りなのかな」 「そーだよ。タマセンパイもそう言ってた」 「モニー、大丈夫?」 「湯あたりした。もーちょい待って」 私の疑問に、モニーが答えてくれる。ていうか、モニーってお風呂苦手だったんだ。 「他にタマモ先輩、何か言ってた?」 「しんどかったら水飲めって。夕飯はすぐ来るってよ」 「理由とか聞いて無い?」 「理由?」 「どうしてこんなにしてくれるっていうか、そばにいるのかっていうか」 「聞いたけど全部『ナハハ』とか言ってはぐらかされた」 あいててて、と言いながらモニーが紙コップに口をつける。お代わりを持ってこようかと聞くと「お願い」と言うので自分の分も取りに行くことにした。 せっかくだからオグリとタマモ先輩の分も持っていこう。少し苦労しながら4人分のお水を持って戻ると、エプロンを付けたオグリが、先にごはんとお味噌汁の配膳をしているところだった。 「お帰り、イチ。いなかったからびっくりしたぞ」 「ごめん、オグリ」 「もうすぐだ。あとちょっとだけ辛抱してもらえるだろうか」 一番我慢できなさそうだけど、とは口に出さずに、「うん」とだけ返事をする。 早く食べたいからなのか、やはり小走りでパタパタとキッチンに戻っていくオグリ。 お茶碗に盛られたぴかぴかのごはんと、もやし、にんじん、厚揚げの入ったお味噌汁。もしも私一人だけだったら、これだけでもう十分だなと思ってしまうだろう―― タンパク質が足りません、ってトレーナーさんには怒られそうだけど。 合間合間にお水を挟むモニーと話しているうち、お盆を持ったタマモ先輩と、その後ろからついてくるオグリがやってきて、おかずを机に並べる。 「待たせてもてすまんかったなあ。もうすぐや」 「なにかお手伝いとか」 「ええねんええねんモニちゃん、座っとって」 料理が全て並べられて、みんなで席につく。モニーも椅子に腰かけ直して、オグリは待ちきれなさそうに尻尾を振っている。 タマモ先輩が一番に、パン、と快活な音を立てて手を合わせる。 「ほな、皆で食べよか。いただきます」 ごはん、お味噌汁に、お漬物。 まずは、お味噌汁を一口すする。お箸の先端をお出汁で湿らせると、ごはんや他のおかずが器にくっつかなくなって洗い物が楽になることを知ってから、一番最初に一口飲む癖がついてしまった。 鰹節の風味を聞かせて、少しだけうすくちに作った、お野菜の甘みが染み出すあっさり仕立てた味。温かさに気持ちまでほっとする。 「どや、ええ出汁、出とるやろ」 「はい。年越しそばにも使えそうですね」 2つあるおかずのうち、色の濃いほうに箸を運ぶ。噛み応えのある食感に、ごはんの進む濃いめの味付け。なるほど、だからお味噌汁はちょっと薄めなんだ。 もぐもぐと噛んでいると、オグリが私のことをじっと見ていることに気付く。 「イチ、おいしくできているだろうか」 「うん。これ、もつ煮?」 「どて煮なんだ。私の夢で、イチに食べてほしくて作ったんだ」 期待と、少しだけ不安が混じったような面持ちで、私が呑み込むのを待っているようだった。 煮詰めたお味噌の濃い塩気と、時々混じるしょうがと刻みネギのツンとした風味。味のリズムが心地よくて、ごはんをついもう一口食べてしまう。 お肉とこんにゃくの味の違いも美味しい。 「おいしいよ、オグリ」 私がそう伝えると、ぱあっと輝いたように表情を明るくして、食べるスピード上がったようだった。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 私の横では、モニーが先にもう一つのおかずを食べているところだった。 シャキ、シャキと音を立てながら、お茶碗を持ち上げてごはんと一緒にかきこんでいる。よっぽどごはんが進むみたい。 もやしが入っているのは一目見て分かったけれど、その横の白い具はなんだろう。 「ウマいか、モニちゃん」 「メチャうまいですよ、これ」 「もやしとはんぺん、それに豆苗のうま煮や。モニちゃんの口に合うてるみたいで嬉しいわ」 私も一口分をお箸でつまんで、口に入れる。なるほど、どて煮のお味噌とは違うけれど、確かにご飯と一緒に食べたくなる味付け。 もやしの食感を楽しんでいるところに、するりと入り込んでくるはんぺんの弾力ある噛みごたえ。味がしっかりしみ込んでいて、まったく水っぽくない。 「コツがあってな、火を通した後に一度粗熱を取るのが大事なんや」 「そうなんすか?」 「寮が多くて煮汁の少ないもんにとろみをつけるんは難しいから、冷ましてやってから片栗粉を入れると失敗せえへんうま煮ができるっちゅーワケや……モニちゃん、聞いとるか?」 タマモ先輩の話をそっちのけで食べ進めるモニーに、困ったような笑顔を浮かべるタマモ先輩。でも、耳はまっすぐ前を向いて並べられていて、嬉しい気持ちがあふれ出ていた。 4人ともお腹が減っていたからか、さっきの会話が終わってしばらくの間は、食べる方に集中していた。 オグリがごはんのおかわりをして、それにモニーもついて行って、私とタマモ先輩は食べてる途中。さっきよりも多い量のごはんをふたりともよそってきて、おかずのおかわりまでしていた。 「聞いてやイチちゃん、オグリのやつな、4人分作るだけでええ言うてるのに5パックも6パックも食材買おうとしてん」 「お肉をですか?」 「いや、ネギとか含めて全部」 オグリが食べながら、恥ずかしそうに答える。 「食べるのは得意なんだが」 「ずっと見ていればわかるわよ、そんなの」 「イチの真似をしたらうまくいくと思っていたんだ。普段からたくさん買っているから」 「たしかにクリークさんと一緒に買い込むけど、それは別に一食分じゃなくて、他の子のお夜食とか、アンタのお弁当の分とかがあるから」 「オグリの場合じゃあ、そんだけ買っても一食分かもねー」 モニーの言葉に、オグリが力強く頷く。 「せやからまあ、結果的には正解やったんやけどな」 そんな話をしているうちに、またオグリが「おかわりをしてくる」と言って席を立った。モニーを見ると、もう無理、と言わんばかりの表情をしていて思わず笑ってしまう。 私とタマモ先輩が最初に食べ終わり、次にモニー、オグリが食べ終わるのはそれからまたしばらくしてからだった。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ ちょっとだけ食休みの時間を挟んでおしゃべりしていた時、オグリとタマモ先輩が突然ヒソヒソ話を始めたと思った矢先、オグリが立ち上がった。 「イチ、モニー、ハッピーバースデー!」 オグリの言葉を聞いたタマモ先輩が、顔を手で覆って椅子からずり落ちる。 「ちゃうちゃう、ハッピーアニバーサリーや」 「ああ、そうか。ハッピー……アニ……タマ、もう一度教えてくれ」 あちゃあ、と声に出して倒れこむ。 「なんすか、突然」 「ネタばらしするとな、オグリが二人のことを祝いたくなったんやと」 タマモ先輩が机にもたれかかる。 「ウチは全然かまへんし、ほんならいつやろか、って聞いたら今日がええねん言うんや」 「うん。驚かせてしまってすまなかった、イチ、モニー。だが、今日しかないと思ったんだ」 真っすぐな目に見つめられて――別にドキドキしたとかいうワケじゃないけど――私はなにか、あてつけられたように顔が熱くなった。 「ま、まあ悪い気はしないわね。考えたらずっと、私が料理を作ってばっかりだし」 「いつもありがとう、イチ。私たちも頑張って作ったんだ。喜んでもらえたら嬉しい」 「ウチも久しぶりに料理したわ。でも、モニちゃんにも――二人とも喜んでもらえて嬉しいわ。おおきにな」 「ほな、みんな明日は帰らなあかんから早いやろ。解散しよか」 タマモ先輩の鶴の一声で、私を含めた全員が席を立つ。あらかじめ持ってきていたお盆に空いた器を載せて、みんなでキッチンまで運ぶ。 洗い物をどうするかでちょっとだけ揉めた――というより、オグリもタマモ先輩も譲らなかったってだけだけど、絶対に私が洗うと言い張って説得した。 「私が一番キッチンの収納場所、知ってるので」という言葉が決め手になった。 「えー、今日はみんな、自分の部屋に帰る感じっすか?」 モニーがおそるおそると言った様子で、質問する。 「……フジ寮長って、もういないの?」 「確かいない。帰ったんじゃね?」 「……それなら、私がイチの部屋に行こう」 「モニちゃんが来るんか。分かった、構わんで」 ここに居る全員が悪いことをしている自覚があるからか、声のトーンを小さくして、寄り集まってヒソヒソ話のように相談する。 ラウンジでは他の子に聞かれてしまうかもしれないから、廊下まで出て行って、歩きながら話す。他の子たちから見たら、4人動きながら固まって顔を寄せ合う変な集団だ。 もうすぐ私たちの部屋の前だというところで、話がまとまりかけたその時、ドアのところにトランプが一枚張り付けてあるのに気付いた。思わず「わッ」と変な声を上げてしまう。 私の声で気づいたモニーがギョッとしながらトランプに近づき、貼りつけたそれをはがして裏面を見る。そこには手書きの文章が添えられていた。 『たとえ年末でも、寮のルールはきちんと守って早く寝ること!』 トランプの端に描かれた、富士山と2匹の鷹、3つのナスのイラスト。 そのカード一枚で、私たち4人へのメッセージとして十分すぎた。 「……あー、やっぱりちゃんと寝んとあかんよなあ!」 「そうっすねえ、寝ましょー! おやすみー!」 あまりにわざとらしいタマモ先輩とモニーの声。オグリも参加しようとしたところを、私が口をふさいだ。 「イチ、モニー、おやすみ。今年一年、とてもお世話になった」 「ほな、二人とも良いお年を」 「ありがとうございました、おやすみなさい。来年もよろしくお願いします」 「おつかれっす。また来年もよろしくです」 4人でそれぞれ、挨拶を交わす。すると、タマモ先輩がモニーの手を取って、頭が見えなくなる。 それはまるで、頬にキスをしているように――見えた。見えただけ。 でも、モニーが「うわッ」とか言ってるから、もしかしたら気のせいじゃないかもしれない。 「イチ」 オグリの声がする。そのあとすぐ、手を引かれる間隔。瞬間、私の身体は宙に浮くように引き寄せられた。 頬に冷たい風を感じた後、身体の前方と背中に、熱い感触。 それから、頬に少しだけ触れたような、唇ほどの広さの、熱。 「オグリ」 廊下は暗くて、オグリの顔は良く見えなかった。 でも、頬に残る熱だけは、私が思っていることが本当だと信じるに十分な証拠だった。 「……タマだけするのは、ずるいから」 「……ホント、何言ってんの」 せっかく言った別れの言葉を、私たちはもう一度言わないといけなくなった 「……タマセンパイも、来年また、元気で」 「なんや、急にシケるんちゃうぞ。ウチが恥ずかしくなってまうやろ……よう休んでな」 「来年もまた、美味しいお弁当を食べさせてくれ」 「なっ、それを今のうちから言うの、なんかムカつくわ。ポッと出のくせに、せいぜいお腹減らしておきなさいよ、オグリ」 「うん。来年も頑張ろう」 「もう一度、おやすみ」 「おやすみ、イチ」 了 ページトップ その3(≫169~170) ≫了船長23/01/11(水) 00 28 06 「おめでとさん、モニちゃん」 「え、何がですか」 「何もなんもないけど、おめでとさんって言いたくなったんや」 「そうでっか」 「お、上手くなってきたなぁ。そういうわけでパーティしよか」 「年末にやってもらいましたけど、ていうかホントに何を祝うんですか」 「理由は分からんけど祝いたい気持ちがあるねん……なんや、前にもこんな話したな」 「わっかんないなー」 「ままま、祝われといて。何か食べたいものとかないんか」 「パーティしても、タマセンパイがたくさんは食べられないじゃないですか」 「それを言われてしまうとしんどいねんな。でも、祝う気持ちはあるんやで?」 「パーティのご飯の値段っすか? それとも量?」 「う~ん……どっちもやなあ。なんか、気後れしてしまうん」 「なるほど」 「とにかくモニちゃんを祝う会なんやから。どこでも言ってくれたらついてくし、席も囲むで」 「つまり、安くて量はそこそこ、種類がたくさんあればいいんすよね」 「まあ、そういうことやんな」 「え~……おし、センパイ、業務スーパー行きますよ」 「スーパー?」 「とにかくとにかく。にんにくとか大丈夫っすよね」 「平気やけど、まさか自分で作ろう言うんか」 「いや、もちろん楽するに決まってるじゃないですか」 「何買う予定なん?」 「パスタの乾麺とパスタソース。ここらのスーパーのやつ、全種類買い占めましょ」 「なんやと」 「パスタも買いまくりましょ。全部茹でて、買ったパスタソース全部かけます」 「うおー、盛大な計画やんけ」 「種類も量もあって、手間も楽でウマくて、何よりそこそこに安い。どうっすか?」 「賛成や。ええこと思いつくなあ」 「イチもオグリも、クリークちゃんたちも呼べるし。どうせなら皆に祝ってもらお」 「それがええ、それがええ。ほな、出かけよか」 了 ページトップ
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アンダーアンカーの表の顔。 携帯電話のキャリア。 anchorとは? 辞書て引くと [名] 1 錨(いかり) 2 (錨のように)固定させるもの, 固定装置, 固定材, 留め金. 3 安定させるもの(*1) 4 (*2)(ニュース・報道番組担当の)アナウンサー((*3)newsreader);総合司会者, アンカーマン(anchorperson). ▼(*4)ではpresenterに当たるがanchorも用いられる. 男女ともに用いる. 2人以上のときはco-anchors. 5 《スポーツ》アンカー. (1)(リレーの)最終走者[泳者] (2)綱引きで最後尾の人. 6 (ショッピングセンターに客を引きつける)大型有名店, アンカー店(anchor tenant). 7 (*5)(*6)(自動車・列車などの)ブレーキ. 8 (米海軍兵学校の)どんじり生徒. 9 《インターネット》アンカー:ハイパーテキストのリンク. 10 (*7)(視聴者をくぎづけにする)人気番組. weigh anchor (1)⇒[名] (2)立ち去る, 出かける. (3)仕事を始める. ━━[動](他) 1 〈船を〉錨(など)で固定する, 停泊させる 2 …をしっかり固定する, 据えつける;〈注意・心などを〉つなぎとめる;〈望みを〉かける;(*8)(*9)(…に)しっかりと根を下ろしている, 深く結びついている(*10) 3 (*11)〈ニュース・報道番組の〉総合司会をつとめる. 4 《スポーツ》最終走者[泳者]をつとめる, アンカーをつとめる. ━━(自)(←(他)) 1 錨を降ろす, 投錨する;停泊する. 2 しっかりくっついている, 固着している [ラテン語←ギリシャ語aacutenkymacrra(かぎ). 1500年以前はancorであったが, ラテン語形anchoraにならって-h-が入れられた. △ANGLE1・2] となっている。(yahoo!辞書) 「アンカー」検索結果 取得中です。 上へ
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最新更新 v1.2.2/r20210825 古き良き従来型のストレックスアンカー。 ギミックによる特殊な性能を持つ上級者向けブキ。 パラメータ オモサ 4.0kg リーチ 1795mm キレアジ 0.0 スイング 0° オオキサ 1190cm² 属性 接触よろけ とりつき 多段ヒット短押しトリガー 長押しトリガー 変形同期ズレによるリングアウト発生 ダメージ 直接攻撃 単発 約5.5% 接触 約0.2%/s よろけ 約% スタミナ 約0% 物理演算 Low 投擲 単発 約5.0% 接触 約0.5%/s よろけ 約% スタミナ 約0% 物理演算 Low ギミック ガード短押しで射出、長押しで回収。 射出されたアンカーの先端は相手のカニ本体/ブキ/オブジェクト/地形に対して とりつき 性能を持つ。 相手本体の腕部分、もしくはブキへ接触した際はスタミナ回復の阻害/スタミナ減少の効果を付与。 相手のブキに とりつき が発生した場合、上記効果はブキを落とすまで発生する。(*1) テクニック 武器の回収 アンカーが相手の武器へ接触して とりつき の効果や手放しにより相手からブキが離れた場合、そのまま先端を回収することで手元にブキを引き寄せることができる。 拾い直し とりつき 効果を発動した後にブキを落として拾いなおされた場合、アンカーのスタミナ阻害効果は消えてしまう。 そのタイミングでアンカーを手放すことで射出の長さ/位置関係をそのままにアンカーのとりつき効果を消すことができるため、相手の武器を拾いなおした後に再度拾いなおせば高い確率でとりつき効果のつけ直しが可能。 自身の移動 アンカー先端側のアーム部分を地形に引っ掛けることにより、回収時に自分自身を移動させることができる。 前後左右だけでなく、カニによっては上下の移動も可能。 打撃としての利用 射出後ある程度回収すると とりつき 性能が消失するデメリットを逆に利用し、打撃武器として利用する。 初期verは大きな意味を持たなかった行為だが、1.2.0以降にアンカーへ 接触よろけ が発生する上方修正が入ったため強力なフィニッシャーとなった。 同期ズレによるリングアウト 特定の条件でアンカーを相手の足にとりつかせることで地面方向へリングアウトするバグ。 ただでさえ少ない対戦相手に対戦拒否されるので対戦ではむやみやたらに使わないこと。 とはいえ、偶発性もあるので発動されても相手を攻めてはいけない。
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あんかー【登録タグ あ ニニヒ 初音ミク 曲】 作詞:ニニヒ 作曲:ニニヒ 編曲:ニニヒ 唄:初音ミク 曲紹介 ヴォリュームガンガンでぶん回して行こう?(作者twitterより) 歌詞 (動画から書き写し) 使い古しのマグはもう 割って捨てよう 割って捨てよう 誰にも余計な遠慮は しなくていい しなくていい 上着の袖を挟むような ドアには言葉もかけれない 雨に待たされりゃキリがないな ここにはもう帰らない 新しいアンカー ah ha yeah 探して探して 混ざらないナンバー ah ha yeah 燃やして燃やして yeah 大丈夫さ ぶん回して行こう すれ違った男の 見ない顔 見ない顔 だけど朝日見る前に もう抜けよう もう抜けよう 無駄にトゲを増やしてまた 丘にも相当もう行ってない あれにまた会えば痺れちゃうな ここにはもう用はない 新しいアンカー ah ha yeah 探して探して 混ざらないナンバー ah ha yeah 燃やして燃やして yeah 大丈夫さ ぶん回して行こう 有り難みもなく千切れたブランコとか 澱む沼の咽せるようなガスをよけて わたしは歩いていた わたしは歩いていた 街の生き物たちを動かしていた 緩まない時計のにやけた赤い顔が 全て変換されたあなたたちの強情だったのだ 新しいアンカー ah ha yeah 探して探して 混ざらないナンバー ah ha yeah 燃やして燃やして アンカー ah ha yeah 探して探して 混ざらないナンバー ah ha yeah 燃やして燃やして yeah 大丈夫さ ぶん回して行こう ぶん回して行こう ぶん回して行こう コメント 名前 コメント
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アンカー イカリ。 装備分類:武器 ◇なんでもアイテムファイルTOP◇【剣/ナイフ/刀/大剣/双剣/槍/双槍/斧/ボウガン/投てき/ガン/棒/杖/帽子/兜/服/鎧/本/玉/ボール/楽器/音/靴下/靴/食べ物/指輪/アクセサリ/拘束具/宝石/盾/文房具/女の子用/爆弾/手袋/ツメ/眼鏡/火/トラップ/ナックル/ガンランス/アンカー/鞭/ぬいぐるみ/携帯/鈍器/ギャンブル/マント/仮面/ヨーヨー/エロ/板/箱/バズーカ/調理器具/ボトムス/アイテム/キーアイテム/合成素材】 名前 説明 ふつうのイカリ 船についてるよくあるイカリ。 ディヴァインアンカー 聖なる力を持つ魔法のイカリ。闇属性のモンスターに大ダメージ 鎮守府のイカリ ロゴにも使われているイカリ。艦これシリーズ